第922話 お互いに再会を喜びました
「レ、レオ様の声ですね」
「間違いないね。まだ見えない……あ、あれかな?」
「馬車がないので、普段よりは目立ちませんけど、別の意味で目立つ集団がこちらに向かって来ますね」
話を中断し、再び緊張するデリアさん。
声が聞こえた方……というより、北側に視線を向けて目を凝らすと、はっきりとは見えないが日の光を反射するような、輝く何かがこちらへと近付いて来るのが見えた。
フィリップさんも同様にして、様子を窺いながら言っている。
……馬車のように、人が乗ったりするようなそれなりの大きさの物はないけど、代わりに巨大な狼が数体、疾走しているのは開けた場所で見ると確かに目立っていた。
空にラーレがいるのもあるか。
「ワフ、ワフ、ワウー!!」
「おーい、レオー!」
向こうも俺達を見つけたのか、レオが何度も鳴き声を上げながら、一直線にこちらへと走って来る。
俺も答えるように手を振って、レオを呼んだ。
「ワフー!」
「きゃあ!」
「わー、ママ凄い!」
「お……っと。クレア、リーザ、大丈夫?」
「は、はい……タクミさん」
「平気だよ、パパー!」
俺の声が聞こえたからか、レオが速度を上げ狼の集団から抜け出して、俺の前に走り込んで急停止。
それでも、乗せているクレアやリーザを落とさないのは、さすがと言うべきなんだろう。
とはいえクレアは悲鳴を上げていたので、声をかけて無事を確認。
リーザは楽しかったのか、満面の笑みだな。
「ワフ……」
「ありがとうございます、レオ様」
「ママ、ありがとう!」
「ワフ。ウー……ワフ、ワフ、ワフー!」
「おっぶ! ちょ、レオ! おち、落ち着けって!」
「ふふふ、レオ様、タクミさんと離れて寂しそうでしたから。再会して嬉しいんでしょう」
「わー、ママすごい……」
「そ、それはわか、ぶふ! わかったから、ちょ、レオやりす……!」
「ワフ、ワフ!」
クレアとリーザの無事を確認している間に、レオが伏せをして背中から降りるように促す。
降りたクレア達がそれぞれお礼を言って、レオが頷いたと思った瞬間、俺の顔を凄い勢いで舐め始めた。
これ、以前にも……確かギフトの過剰使用で倒れた後、気付いた時と同じだ! ひたすら舐められるやつ!
息をするのも一苦労なくらい、ひたすら俺の顔を舐め続けるレオ……クレアは微笑ましく、リーザは何やら感心しているような声が聞こえるけど、とりあえずレオを止めて欲しい。
止めようとして止められるかはわからないけど。
これ、傍から見たら俺がレオに食べられそうにも見えるんじゃないか? なんて考えつつ、途中から止めるのを諦めて、レオが落ち着くのを待った。
「はぁ……はぁ……レオ、ちょっとやりすぎだぞ?」
「ワゥ……」
少しして、ようやく落ち着いたレオから顔を離し、息を整えながら注意すると、やり過ぎた……と言うように項垂れて上目遣いになった。
……どこで上目遣いなんて覚えたのか……いや、わりと小さかった頃からやってたか。
ともあれ、数日ぶりに再会できて喜んでくれるのは俺も嬉しいし、気持ちはわかるので怒る程じゃない。
「ふぅ……よし。レオ―、いい子にしてたかー?」
「ワフー!」
「そうかそうかぁ!」
反撃とばかりに、レオを慰める意味も込めて体に全身で抱き着きながら、ワシワシと撫でてやる。
ちょっと勢いが付き過ぎてしまって、クレア達に見られている事を忘れていたりと、恥ずかしいような気がしたが、今は再会を喜ぶのに集中しよう。
レオが撫でられている間に、フェリー達も到着してそれぞれ乗っていた人達も降りたようだったけど……。
あ、セバスチャンさん、ライラさんもいるんですね……けど、そんなに微笑ましく見ないで欲しいかなぁ?
「……すみません、お見苦しい所を見せました」
「いえ、タクミさんとレオ様の再会、微笑ましく見ていましたよ」
「仲睦まじいのは、良い事ですなぁ」
少しだけ経って、レオが満足するまで撫でてやった後、ニコニコしながら近くに来ていたクレアとセバスチャンさんに、頭を下げる。
その後ろでは、ライラさんやニコラさんなども微笑んでいた……いや、ニコラさんはあまり表情がかわらないかな?
「パパー、私もママみたいに撫でてー」
「お、リーザ。すっかり元気になったみたいだな。っと。ははは」
「うん。ママやライラお姉さん達が、ずっと一緒にいてくれたの。だから元気だよー」
「そうかぁ、良かったなぁ。安心したぞー?」
満足そうにしながらも、きっちり俺の横でクレアさん達に体を向けて伏せているレオ。
その向こうから、今まで我慢していたらしいリーザが抱き着いてきた。
数日ぶりに会うリーザは、屋敷を出る前よりも元気そうで顔色がいい。
受け止めたリーザを抱き上げつつ、なんとか片腕で頭を撫でてやると嬉しそうに笑いながら、尻尾も擦り寄せた。
喜びの表現なんだろう、大きめの尻尾を持つリーザは時折、懐いている相手に尻尾を擦り寄せたりもしていたなぁ。
左右からフサフサとした尻尾の感触が服越しに感じられて、少しこそばゆいような気持のいいような感覚で、リーザが元気な証拠と思えて嬉しい。
……うん? 左右から? リーザの尻尾が左右って、どちらか片方だけなんじゃないか……?
「……って、リーザ? この尻尾は……?」
「えっとねー、よくわからないけど生えて来たの! すごいんだよ、尻尾が二つあると背中もお腹も温かく寝られるの!」
「え、えーと……そ、そうなのか。それは、良かったな?」
「うん!」
無邪気に頷くリーザは、尻尾が二つになって困っている様子だとかはなく、むしろ喜んでいる様子に見える。
以前から、尻尾を下にして寝られないため横を向いて寝ているリーザだが、時折前に持ってきて自分で抱き締めながら寝る事があった。
それが前後になって自分の尻尾で自分を包むようになって、より安心して寝られるようになった……という事かな。
しかし、尻尾が二つって……。
「ワフ?」
「タクミさん、リーザちゃんの事なんですけど……」
「我々も驚いたのですが、リーザ様自身が困っておらず、喜んでおられる様子でしたので……」
リーザを抱き上げたまま周囲に目を向けると、俺がどう対応したらいいのか困っている様子がわかったのか、クレアとセバスチャンさんが事情を話してくれた。
レオは首を傾げただけだが……。
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