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第921話 その場でクレア達を待つ事にしました
第921話 その場でクレア達を待つ事にしました
「こ、今回はヘマしてないからな! お酒を飲んだのだって、村の人達に勧められるからで……ほら、断り続けていると印象が悪くなったりするだろう?」
「屋敷に戻ったら、セバスチャンさんの判断を仰ぐ必要がありそうですね。ともあれ、今はやる事をやりましょう」
緊張しているデリアさんになんとか落ち着いてもらい、ヨハンナさんと一緒に村への説明をしてもらうよう頼む。
ちょっとショックを受けているフィリップさん……今は言わなかったけど、若い女性を片っ端から口説いていた事も含めて考えると、村の人達からの信用値は低そうだからなぁ。
いや、悪い人間じゃないとは思われているだろうけど、一部、男性から反感を買っている節があるし。
ともかく、言い訳をするフィリップさんは置いておいて、ヨハンナさんとデリアさんにはブレイユ村へと向かってもらった。
「あと、ラーレは……クレア達にここへ来るよう誘導してくれないか? 俺達が動くよりも、向こうが来た方が早そうだ」
「キィー」
「私も行きます!」
「うん、ティルラちゃんもお願いするよ」
「はい! ラーレ、行きましょう!」
「キィ!」
ラーレを向かわせて俺が村で待つのではなく、ここで待つ事にすればとりあえず問題ないはずだ。
ティルラちゃんも一緒にという事だったので、屈んだラーレにフィリップさんと二人で乗せて、落ちないよう鞍のベルトなどを締めて、クレア達の方へ向かってもらう。
「……さっきまで、あんなにのんびりしていたのに、いきなり忙しなくなったなぁ。もう数日は、タクミとのんびりお酒を飲めるはずだったのに」
「まさか向こうから迎えが来るとは思わなかったけど、フィリップ……いや、フィリップさん。言葉遣いに気を付けないと、またヨハンナさんのように注意されますよ?」
「あぁ、そうだった……いや、そうでした。失礼しました、タクミ様」
「俺としては、村にいる時の話し方が楽でいいんですけどね。まぁ、それは他に人がいない時とかにしましょうか。ニコラさんくらいなら、いても大丈夫でしょうけど」
「そうですね……」
空を見上げ、飛んで行くラーレを見送りながら、呟くフィリップさん。
もうすぐクレア達がここに来るから、間違えないように一応口調を指摘。
俺も、同性の友人ができたような感覚で、砕けた口調の方が楽ではあるんだけど、お互い気を付けないとな。
間違いなく、俺から砕けた喋り方をするのは誰からも注意されないだろうけど、そうしていたらフィリップさんが釣られてしまいそうだし……さすがに、そんな事で怒られてしまうのは忍びない。
「タクミさーん!」
「あれ、デリアさん? どうしたんだろう?」
「村の方で、何かあったんですかね?」
しばらくぼーっと空を見上げたりして、クレア達の到着を待っていると、村の方からデリアさんが獣走りで駆けて来る。
なんだか、あの姿を見るのも村に行く前で、ちょっと懐かしい気もするな。
それはともかく、村への説明を任せていたはずなのに、どうして戻って来たんだろう?
「タクミさん、お待たせしました!」
「デリアさん、村での説明は?」
「カナートおじさんに任せてきました。あと、ヨハンナさんにも! レオ様やクレア様が来られるのに、誰も村の外へ迎えにいかないのはいけないだろうって。村長にも言ってあるので大丈夫です」
「そ、そうなんだ」
カナートさん、引っ張り出されたな。
まぁ、俺達以外でこちらの事情を知っているのは、デリアさんを除けばカナートさんだけだからな……レオの事も見た事あるし、クレアとも話した経験があるし、仕方ない。
あと、ヨハンナさんも頑張って下さい。
「うぅ……二度目ですけど、やっぱり緊張します」
「さっきもそうだったけど、クレアに会うのは緊張する?」
「いえ、クレア様は長く話してはいませんが、それでも少し話ししただけでもわかるくらい、お優しい方だなと感じました。貴族の方とお会いするのは確かに緊張しますが、それよりもレオ様の方です」
そういえば、獣人の勘のようなもので、相手の本質というか優しい人だとかそういうのって、人間よりも鋭いんだったか。
クレアは公爵家のご令嬢だから、俺からするとレオよりも緊張しなきゃいけない相手に思えるけど……まぁ、シルバーフェンリルだからだろう。
「レオは、特に緊張するような相手じゃないと思うよ? 何かあれば撫でてあげれば、気持ち良さそうにするだろうから」
「それは、タクミさんだからできる事ですよー……」
「これには、私もデリアさんに同意です。まぁ、屋敷での様子を知っていれば、タクミ様の言っている事もわかるのですけどね」
そんなものだろうか……? 俺にとってのレオと、他の人達にとってのレオは見方が少し違うのかもしれないな。
「まぁ、あんまり緊張せずに、フェルとかと同じ感じで接していればいいと思うよ」
「わ、わかりました!」
肩に力を入れ過ぎないように、という意味で一旦だけど、結局デリアさんは意気込んで頷いてしまった。
……追々、慣れて行けばいいか……怖がり過ぎているという程でもないから、そのうちなんとかなるだろう。
「そういえば、リーザも来ているって言っていたっけ。だとしたら、もう体調も大丈夫なんだろうなぁ……良かった」
深刻な病気とかじゃないから、大丈夫な事はわかっていたんだけど、初めての事だし立ち上がろうとしてふらついていた姿を見ていたからな。
とはいえ、クレアやセバスチャンさんがいて、リーザに無理をさせる事はないと思うから、一緒に来ているという事は体調も回復したんだろう。
「あ、リーザちゃんって、初潮が来たんでしたね?」
「う、うん。そうだけど?」
俺がリーザと口にした事で、デリアさんから思い出したように聞かれる。
女性のデリアさんに、初潮に関して聞かれるのは男としてちょっと微妙な感じがしてしまい、どもってしまう。
こういう事、慣れていないからなぁ……。
「……初潮が来たという事は、今までと違う部分があるかもしれません」
「違う部分?」
「はい。えっと、他の獣人を知らないので、確実とは言えないのですけど。私も、リーザちゃんくらいの頃に同じく初潮が来て、それからすぐに……」
「ワウー!」
「お?」
リーザの事をデリアさんと話していると、この世界に来てからいつも聞いていて、凄く頼もしく、凄く馴染みのある鳴き声が遠くから聞こえた。
マルチーズの頃より低い声になってしまったが、間違いなくレオの声だ。
デリアさんが言っていた獣人と初潮が、というのは気になるが、声が聞こえたという事はすぐ近くなんだろうし、とりあえず迎えないとな――。
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