第877話 まずは村の畑を見に行きました



「ありがとうございます。様子を見る限り大丈夫そうではありますが……今しがた、漬けこまれていたサーペントも食べ始めたので、少し心配していたのです」

「あははは……それは、ちょっと見ない方が良さそう」


 薬草を渡す際に、フィリップさんがこちらも見ずに静かにしているなぁ……と思っていたら、ぶつ切りにされたサーペントも食べ始めたらしい。

 ワインに漬かっているからお酒の味なんだろうけど、美味しいんだろうか? さっきチラッと見た時には、顔部分が漬かっている瓶が見えたから、食べている姿はあまり見ない方がいい気がする。


「それじゃ巻き込まれないように、俺は部屋に戻って休むよ。おやすみ、ニコラ」

「はい、おやすみなさいませ……」


 目的も果たしたし、なんとなく見ない方がいい場面でもあるので、さっさとお湯を持って部屋に戻ろうと、ニコラさんに挨拶をして二階へ向かった。

 いくらお酒が好きだからって、漬かっている蛇をおつまみ感覚なのか、あれを食べるのはなぁ。

 蛇を食べたりとか、俺にそういう習慣がないから忌避感を感じるのかもしれないが……。

 郷に入っては郷に従えとは言うが、オークは躊躇せず倒したり(レオが)捌いて食べたりするのには慣れたが、蛇を食べるのは慣れた方がいいのか? と一瞬考えたが、屋敷だけでなくラクトスやランジ村では食べられている所を見ていないから、必要はないと頭を振って考えを一蹴した。


「とりあえず、飲み過ぎて明日にも酔いが残っていたり、ランジ村の時のように酔っ払って村に迷惑をかけるようなら、セバスチャンさん達に報告だな、うん」


 お湯で濡らしたタオルで体を拭きながら、フィリップさんが醜態をさらした場合には、屋敷に戻った際にはきっちり報告をしようと決めた――。



―――――――――――――――



 ――翌日、デリアさんと合流して朝食を食べた後、村の案内を頼んでみて回る……とは言っても、特に珍しいお店があったりするわけではないので、一先ず村の地理を大まかに把握するくらいだ。

 村は広さも建物の数もランジ村より少し規模が大きいくらいで、所狭しと立ち並んでいるわけではないから、ある程度わかれば迷う事はないかな。

 一応、寝泊まりするための家の位置はちゃんと覚えておかないといけないけど……建築する際の手間を減らすためなのか、大きさや外観が似たような建物が多いから。

 まぁ、居住性や建てやすさを考えれば、似たような物になるのは自然な事なんだろう。


「あちらが、この村の皆でやっている畑です!」


 村の中を見た後は、畑の見学……村の東から北へ向かって作られているらしい。

 畑では日中、村の人達が多く働いているので、挨拶も兼ねてだ……昨日は、畑にいる人達が戻って来る前に、お爺さんやお婆さん達に囲まれて逃げ出したからな。

 デリアさんが楽しそうに手で示し先を、ニコラさんと一緒に見る。


 ちなみにフィリップさんは、今朝ちゃんとお酒が抜けていて薬草を使わずにすんだんだけど、お酒をもらったお礼ついでに村の中をもっと詳しく見て回ると言っていた……護衛として必要な事だとかなんとか。

 新しくお酒をもらっていたりしたらセバスチャンさんに報告させてもらう、と言ったら汗を流しながら頷いていたから、多分大丈夫だと思う。

 お酒が飲みたいからって、おねだりは良くないよな……押しが強くて、結局もらって来そうではあるけど。


「遠目で見渡しても、結構色んな作物があるようだね」

「はい。この村の皆が食べる物と、外に売る物があるので」


 一つの種類を大きな農場を使って作っているわけではなく、畑を区分けしていくつかの植物が育っているのが遠目で見てもわかる。

 ある程度自給自足ができるようにと、ラクトスなどへ出荷するために数種類作っているんだろう。

 それぞれに背の高い植物だったり、背の低い……地面を這っているような植物だったが、区画によって一塊に育っているので、見ていて壮観だ。

 お、足下くらいの高さの植物が青々と見える場所は……。


「あれが、ニャックを作っている芋の畑かな?」

「そうですよ。ニャック用以外にも、そのまま食べるジャガイモも育ててますけど。ニャックにする芋は、畑としては小さいですね」

「へぇ~、そうなんだ」

「でもタクミさん、ニャックが芋だって知っていたんですね?」

「あー、まぁね……」

「あの見た目から、初めて見る人は芋を使っているってわからない人が多いらしいんですけど、さすがタクミさんですね!」


 そう言えば、ニャックの原料が芋だっていう話はこちらではしていなかったっけ……ヘレーナさんと話した時に言ったような言ってないような、というくらいだから、少なくともデリアさんとは話していなかったな。

 あの見た目や味で、芋から作られたというのはあまり想像が付かないだろうから、気を付けないとな。

 デリアさんが尊敬する目で見ているけど、日本だと大体知られている事だし、凄い事じゃない。


「あはは……まぁ、それはともかく。ニャックのための芋は、畑が小さいんだ?」

「そうですね。ニャックは村の外にはあまり出していないようなので……以前、カナートさんがラクトスに売りに行ったのが、初めてだったと聞いています。私は村の外に行った事がなかったので知らなかったんですけど、タクミさん達がニャックを買って行った後、カナートおじさんに教えてもらいました」

「村で食べるために、作っているんだね。俺の周りの人達も、ほとんど知らなかったからこの村特有の食べ物なのかもしれないね」


 ヘレーナさんは知っていたけど、クレアとかは知らなかったしな。

 ニャックを作る芋って、俺が知っているのと同じならコンニャク芋のはずだから、ジャガイモとは別の芋をわざわざ作っているって事か。

 よく見れば、背が低い植物ながらも一部だけ少し違う物が見えるから、あれがコンニャク芋……こちらの言い方だとニャック芋かな? それなんだろう。

 確かに、畑の大きさは他のよりも小さい。


「お、デリア。そちらさんが、昨日村に来たっていうお客さんかい」

「そうだよ。タクミさんとニコラさん!」

「えーと、少しの間村に滞在させてもらう事になった、タクミです」

「ニコラです、お見知りおきを……」


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