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第813話 定期便と乗合馬車にフェリーは乗り気のようでした
第813話 定期便と乗合馬車にフェリーは乗り気のようでした
「人だけでなく、物も定期的に運ぶ仕組みを作る事で、ラクトスにはさらに物が集まり、村も閉鎖的にならずに済みます。もちろん、運ぶための料金はかかるでしょうけど……個人で街と村を往復するより、旅費はかからないかと」
「……街と村……いえ、それだけでなく領内から国内全域を活性化させる、という案ですな」
「まぁ、ラクトス周辺でやるだけだと、広く波及はしないでしょうけど……そうして交流をしていけば、人や物の流れがもう少しスムーズにいくかも? と考えました」
ランジ村のワインとか、ユートさんやエッケンハルトさんも認めるくらい美味しいんだから、それこそラクトスだけでなく、もっと広く売れてもいいくらいだ。
そうなっていないのは、一部の商隊が行き交う間に村が入っていないためで、あまり多くの人に知られていたかったからだと思う。
交流が盛んになれば、情報が行き交う……情報が行き交えば、どこそこで作った何々が美味しいとか、そういった噂にもなるだろうから、村で細々と作っている物が評判になる可能性がある。
もちろん、村で親しまれているだけで、あまり他では受け入れがたい物だってあるだろうけど、今はそういった判断すらできない状況だからな。
「ふむ……いくつかの問題点が思いつきますが……それは今は良いでしょう。実際に検討する段階で洗い出し、実現可能な案に落とし込めばいいですからな」
「はい。とりあえず、思い付きの提案なので必ずしもそのままやれる事ではないと考えています」
「タクミ様は、草案係のようになっていますな。ですが、それを今ここで披露したのはなぜでしょうか?」
「まぁ、タイミングが良かったというか、丁度いいので提案しておこう……という事が大部分ですけど……もし、その定期的に人や物を運ぶ馬車を、フェンリル達がやってくれたら……と考えてしまいました」
「グルゥ? グルルゥ」
「また人が乗る物を運べるのですか? って言ってるよー」
「ありがとうリーザ。――人が乗る物は、馬車の事だな。もしかして、以前馬車を曳いて走ったの、楽しかったのか?」
「グルゥ!」
勢いよく頷くフェリー。
そうか……馬車を曳くのは楽しかったのか……。
レオは人を乗せる方が好きそうだが、フェンリル達は馬車を曳く方が好みなのかもしれない。
いや、フェンリルによって好みが違うんだろう……リルルは微妙そうな雰囲気だが、フェンは曳く方が好みなようだ。
「まぁ、フェリー達がやってくれるとありがたいけど……セバスチャンさん、移動に時間がかかるのをさらに短縮できるとなると、さらにこの案もやりやすくないですか?」
「そうですな。定期便……という事は、決まった時間に行き来するという事。フェンリル達ならば馬より速いですし、荷物だけであるなら人を運ぶよりもさらに早く行き来できます。時間も計算しやすいでしょう」
「馬であれば、一日かかる距離を半日とは言わなくても、短縮できますからね。一日で往復する事も可能になるでしょう。そこは、フェンリル達が人を乗せて運ぶ事も同様ですね」
「まぁ、荷物によっては、あまり揺らさないように運ぶ必要がある物もあるけど……それでも馬よりは早く人や物を運べると思うよ。……最初はフェンリル達に慣れてもらうために、人じゃなくて荷物を運ぶ方に集中した方がいいかな?」
先程もあったように、フェンリル達に乗る事を躊躇する人だっているわけで……馬車を曳くとはいえ、それで良しとなるかは微妙だからな。
荷物を運ぶにしても、フェンリル達に任せていいのか不安がる人も出るだろけど、そこは公爵家主導でやる事で、信頼を得られるだろうとの打算があったりもする。
とは言っても、荷物の管理だったりで一人くらいは一緒に移動しないといけないだろうけど。
「ただ、これをするにはフェンリルの数が多くないといけないので……これが一番問題ですかね?」
「そうですな……一度に馬車を曳くのにフェンリルが一体だとしても、それぞれの村や街に行くのに全て同じというわけにはまいりません。また、警備するフェンリルの事も考えると……」
提案しておいてなんだが、さすがにフェンリルに頼り過ぎというか、必要数が多過ぎるのが大きな問題な気がしてきた。
フェリー達の群れがどれだけいるのか次第ではあるけど、さすがに全てを森から出して使うというのは、断られてもおかしくないだろう。
「少なくとも、二十体は……いや、三十体くらいいないと、円滑に進められませんね……えっと、フェリーの群れにはどれだけフェンリルがいるんだ?」
一つの駅馬施設で、護衛にフェンリル二体必要とした場合、施設数にもよるし定期便の数にもよるが、二十体じゃ少ないか。
断られるにしても、とりあえず数がどれだけいるかは聞いておこうと思い、セバスチャンさん達と話す間、おとなしく待っていてくれているフェリーへ問いかけた。
「グルゥ? グルルゥ、グルルルゥ」
「数を数えた事はないけど、百はいないと思うってー」
「百いないくらいなら、結構いるんだな……まぁ、シェリーのような子供もいるだろうけど」
「グルゥ、グルルゥ」
「子供が半分くらいで、大人になったら群れを離れるのもいるんだってー」
「そうか、群れを離れるか……」
同じ群れでのみ過ごしていたら、数が多くなり過ぎたり、血が濃くなり過ぎたりと、色々理由はあるんだろう。
考えてというより、本能で悟っているんだろうが、ちゃんと考えられているんだな……。
それはともかく、子供のフェンリルと大人のフェンリルが半々なら、大体大人が四十体くらいと考えて……子供を育てたり、群れを維持するために残すのも必要だから、良くて二十体くらいと考えられるか。
「……さすがに、定期便や乗合馬車をフェンリルにと考えるのは、性急過ぎましたかね?」
「そうですな。問題点を洗い出す前に、大きな壁にぶち当たった事になりますが……この案、フェンリルで考えずに進めるのはどうでしょうか?」
「フェンリルでないとすると、馬でですか?」
「はい。案そのものは大変すばらしいと思います。ラクトスとその周辺の村々を繋ぐ一手、と考えて良いでしょうかな、クレアお嬢様?」
俺の案を、フェンリルではなく馬でと考えたセバスチャンさんが、クレアの意見を聞くように促した。
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