第812話 さらに別の提案もしました



 俺の提案は、フェリーからは悪くない反応で、馬車を運ぶよりは楽そうで問題なさそうな返答だったのに、クレアやセバスチャンさんが難色を示している。

 まぁ、この屋敷の人達やラクトスの街、ランジ村の人達はレオを見ているので、ある程度慣れているのけど……それでもフェンリルに乗って移動となると、躊躇するのも当然だな。

 提案した俺自身も、最初から皆が受け入れてフェンリルに乗るようになってくれるとは、考えていない。


「だから、一部の人なんです。レオの事を知っていて、フェンリル達を怖がらない人のみ……例えば、この屋敷の人達とか、ランジ村の人達だったら、乗ってくれそうじゃないですか?」

「……確かに、レオ様と触れ合って、慣れている人ならば乗る事も躊躇しないかもしれません」

「はい。駅馬は試験的で数も少ない。当然ながら範囲も狭いのでと考えて、提案しました。それこそ、ランジ村からラクトスやこの屋敷の間を移動する際に、乗って移動する事ができればな……と。まぁ、採算とかは考えず、乗れる人だけが乗って一定の場所のみを移動するのなら、大丈夫かなと。それと……」

「まだ何かあるのですかな? 今の案でも、確かにフェンリル達が頷いてくれれば、実現可能そうです。そして、警備と同時に続けていくうちに慣れてくるでしょうし、その後にも繋がりそうなのですが?」

「あぁいえ、フェンリル達はそれでいいんです。それとはまた別の事、になりますかね?」

「また別の……一体、駅馬からどれだけの提案をされるのですか、タクミさん?」


 駅馬の話をして、それなりに日数が経っているから、時間がある時に考えていただけなんだけどなぁ

 ともあれ、今度の話はフェンリルに直接頼む事ではなく、単純にランジ村から縁が深くなりそうなラクトスや、周辺の村との利便性を向上しよう……というよりも、人や物の移動をもっと気楽にしてみよう、という考えだ。


「えっと、ラクトスは人の出入りが多く、いろんな場所から物や人が集まる場所と聞きましたけど、それでいいんですよね?」

「はい。公爵領のみならず、他の貴族領からも人が来る街となっております。特に国の南側では、ラクトスを通る事で、王都へ向かう事ができると考えて良いでしょう。森や山が各領地にも跨っているため、ラクトスを通らなければ、危険な山や森の中を進む事になりますな」

「森の中を突っ切ったり、山を越える方が距離も近いですし、時間も短縮できますけど……魔物もいるために危険です。今はこうしてフェンリルと対話でき、無暗に人を襲わないようにして頂いているうえに、オークの数を減らしてもらえるように頼んでいるので、西側は少し安全になりましたが……それでもやっぱり危険なのには変わりありません」


 セバスチャンさんとクレアに、ラクトスの事を確認する。

 やはり、南側から王都へ向かおうとすると、ラクトスを経由する必要があるため、多くの人や物が集まるという事らしい。

 森や山がどれだけの範囲で広がっているかはわからないが、ユートさんが王都に行くのにラクトスを通らず、近道をするとか言っていたから、ラクトスを通るのは公爵領の人だけでないのではないか? と予想したんだけど、やっぱりその通りみたいだな。


「ラクトスから、他の村へは? 公爵領内のというより、ラクトスの東側になりますけど。そちらには人はいかないのでしょうか?」

「そうですな……寄る事がある、程度でしょうか。街道が繋がっていない村もありますので、全ての村に寄るわけではありません。街道から外れて移動する者もおりますが、やはり街道に沿って移動した方が、安全ですし移動も早いでしょう」

「ただ、ランジ村でワインが造られていたり、先日ニャックを見つけたように、村ではそれぞれ生活する中で特産のような物を作っている場合もあります。そのため、村に寄って商売のタネになる物を見つけようとする者も、少しはいると思いますね」


 売れる特産品を求めて、という事はあるみたいだけど、あえて村に寄るというのはやはり少ないみたいだ。

 まぁ、目的がラクトスを通るだけなら、村に寄る必要はないし、わざわざ整備されていない道を進む事はないよな。

 人や物が行き交うために、ラクトスで商売をしようとする人や、一部の人が村に寄る程度か……逆に、ラクトスから村へという事は少なそうだ。

 これじゃ、村の人たちがニャックやワインのように、作った物を売ろうとしても、運ぶのに手間がかかってしまうし、自分達でラクトスへ行って売り込まないといけないわけで……中々難しい商売になるだろう。


「ふと考えたんですけど。定期的に……そうですね、一日や二日に一度程度、ラクトスと他の村を繋げる馬車を運行する事はできないでしょうか?」

「定期的に、ですかな? ですが、馬車を運行して何を運ぶのでしょうか?」

「村で作っている特産品や、人、ですね」

「人もなんですか、タクミさん?」

「うん。乗合馬車、と言った方がいいのかもしれないけど……村からラクトスへ向かう人も、一緒に連れ立って馬車に乗るようにすれば、もっと人が動くのかなと。そして、荷物というか特産品なども運ぶようにすれば、ラクトスもそうですけど、周辺の村も活性化に繋がると考えました」


 乗合馬車の方はバスとか電車で、荷物を運ぶのは定期便とかから考えた。

 こうしたら、ラクトスに行きたくてもいけない人が、もっと気軽に行き来できるし、村と街の交流もできる。

 考えたきっかけは、ヴレイユ村のカナートさんとデリアさんと話したからだな。

 カナートさんとデリアさんは、獣人を見てもラクトスの人が騒いだり差別しないというのを知らなかったから、交流不足だと感じた。


 さらに、フィリップさんがニャック入りの樽を運んでいるのを見た時に、あれだけの荷物を村からラクトスへ運ぶのも大変だな……と思ったのもある。

 他にもヴレイユ村から手伝う人が来ていたのかもしれないが、もしカナートさん一人でと考えると、多くの荷物を運ぶのは骨が折れる事だろう。

 まぁ、街中で運ぶ際には水を捨ててから、運び終わったら水を入れるとかで多少は工夫もできるだろうけど……屋敷に持ち帰る時は、移動時間がそれなりにあるのもあって、捨てる事はできなかったけどな――。



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