第811話 ハンバーグはフェンリル達の働く理由になりそうでした



「もちろん、ハンバーグを用意するよう手配させて頂きます。さすがに、毎日というわけにはいきませんが、定期的に出すようにします」


 ハンバーグの材料や作る手間を考えれば、馬よりも費用が掛かるのは仕方ないが、それでも人を雇って警備してもらうよりもかなり安くすむだろうから、セバスチャンさんの言うようにこちら側が準備するのは当然だな。

 さすがに毎日だと飽きてしまうだろうし、大変な部分も出て来るから、定期的にという事みたいだけど。


「グル! グルゥ!」

「ガウゥ!?」

「ガウ、ガウガウ!」


 ハンバーグが定期的に食べられると聞いて、フェリーが主張するように鳴く。

 それに対してリルルが驚いた声をあげ、横からフェンがフェリーに対して吠える……リーザの通訳がなくても、なんとなく言いたい事がわかってしまったな。

 俺と同じく、クレアやセバスチャンさんもわかっているようだが……フェリーがハンバーグのため、自分がと立候補して、群れのリーダーが率先して森を離れる選択肢を選んだ事に、リルルが驚く。

 さらに、フェンがズルいというようにフェリーを責めている、という構図っぽいな。


「フェリー達が、ハンバーグを食べたいというのはよくわかったけど……駅馬で警備していると森から離れる事になるし、群れからももちろん離れる。それに、警備する場所は一つじゃないから……フェリーが単独でやるわけにはいかないんじゃないか?」


 まずは試験的に……という事であっても一つしか作らないわけじゃないから、フェリーだけで務まるわけでもない。

 ハンバーグに釣られたんだろうけど、その辺りの事も含めてよく考えてもらいたい。


「グルゥ……」

「ガウ……」

「ガウゥ」


 再び悩み始めるフェリー達。

 それを見ながら、こうしたらいいんじゃないかという案が浮かんだが……でもそれだと、結局フェリーが森を離れている期間が多くなってしまうなぁ。

 まぁ、とりあえず提案してみるだけしてみるか。


「……フェリーは、群れのリーダーだからフェンリル全体の管理をする役をやってもらって……」

「グルゥ!?」


 群れのリーダーであるフェリーが全体を管理しつつ、その群れに所属している他のフェンリル達がそれぞれの駅馬がある場所で警備をする。

 定期的にそれぞれの場所をフェリーが見回って……という辺りで、フェリーからハンバーグが食べられないというような、絶望した声を上げていた。

 とはいえさすがにそれは酷なので、フェリーが見回りをして駅馬の場所へ行ったら、ハンバーグを食べられるようこちら側で準備をする事にする。


 森から離れる事とか、見回りをするために長距離を何度も移動しなきゃいけないはずなのに、関心はずっとハンバーグに向けられていた。

 どうやら、ハンバーグはフェンリルに野生を忘れさせるほど、魔性の料理らしい……フェンリルというより、フェリーが特にだけども。

 

「それともう一つ、これはさらにフェンリル達に仕事を担ってもらう事になるから、嫌だったら断ってもいいんだけど……」

「グルゥ?」

「ほぉ、ここで何やらタクミ様がまた新しい事を思いついたようですな?」

「先程の、フェリーが管理と見回りをして、群れのリーダの役割を担いつつ……という提案もあったのに、次々と思い付けるのは凄いわね。私なんて、面白そうと思う事以外では、別の有効策は思いつかないわよ?」

「クレアお嬢様は旦那様に似てきましたな。私としましては、面白そうというだけで動いては欲しくありませんが……」

「そういうセバスチャンも、最近タクミさん関連では楽しそうな方へ動いているように見えるわよ?」

「ほっほっほ、この年になっても新しい事に拘われたり、新鮮な提案を受けるのは良いものですよ」


 駅馬に関して、試験的で領内全体ではなく一部でという事なら、別の方法が使えるんじゃないかと考えた。

 フェリーに提案する際に、前置きとして断るのも構わないし、それでハンバーグが食べられなくなったり、もちろんレオが怒ったりはしない事を伝えておく。

 首を傾げながら、俺の話を聞くフェリー達とは別に、セバスチャンさんとクレアの話も耳に入って来ているが……これは俺が、この世界とは別の世界から来ているというのが大きいと思う。

 知識量とかそういう事ではなく、単純に考え方というか……クレア達には、この世界においての固定観念のようなものがあるから、どうしても奇抜な事とかは考えられなかったりもするんだろう。


 逆に俺は、そういった先入観とかもないから、日本での事を踏まえて考えているため、変わった発想とかができてしまうんじゃないかなと……。

 あとレオに対してもそうだけど、俺が魔物だとかフェンリルだとかをあまり考えず、単純にフェンリル達も意思疎通ができる相手として人に対する時と、あまり変わらない接し方をしているからかもしれないな。

 クレア達だと、やっぱり魔物が相手と考えて構えてしまったりする事が多く、そこで考えが止まったりするだろうから。

 レオを相棒と考えている事もあってか、フェンリル達とも対等に接しようとしているだけなんだけど。


「グル、グルゥ?」

「おっと、すまない。ちょっと考え込んでしまっていたよ。えっと、つまりだな……」


 クレア達の話に、頭の中で考え込んでしまってフェリーから訝し気に見られてしまった。

 自分から話し始めておいて、中断するのは良くないな……気になる思考に集中して、脱線が多くなるのは気を付けないと……。


「フェンリル達は、馬くらいの大きさだから人を乗せられるだろ? 馬車を引っ張って馬よりも速く走れる力もあるようだし……一部の人や荷物を乗せて、馬の代わりに走る事ができるんじゃないかと思うんだ。まぁ、さすがに全力で走ると乗っている人を振り落としてしまうから、調整する必要はあるけど」

「グルゥ、グルルゥ。グルルゥ、グルゥ」

「私達が、人を乗せて走るのも可能です。前回レオ様と走った時と比べれば、人や物を運ぶのは楽なものでしょう。って言ってるよ」

「フェンリルに乗っての移動、ですか……。確かに馬より速く移動できる事は間違いありませんし、レオ様を見ているとそれも可能であると思わされます。ですが、利用する人がいるとは思えません……」

「フェンリルは人間にとって、恐怖の対象にもなります。近寄ろうともしない人ばかりで、馬の代わりというのは難しいのではないでしょうか?」



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