第814話 馬でも様々な利点がある提案だったようでした



「そうね。――タクミさんの案は、人や物を繋げ、活性化させたり雇用状況の改善にも繋がるように思えます。必ず成功する、とまでは言えませんが……領内だけでなく国内に広げられそうな気すらします」


 まぁ、乗合馬車はタクシーとかバスの中間と考えて、安全に移動できるのなら利用者は多いだろうし、荷物の定期便も物を運ぶのに便利だから、こちらも利用されるのは間違いない。

 適当にやらず、ちゃんと考えてやれば成功する可能性は高いとは思うけど……馬だと護衛とかも必要だから、駅馬と同じ問題が発生するんじゃないだろうか?


「馬でも利用したい人は多いと思いますけど……その場合、移動中の人や物を守る方法も考えないといけないのではないですか?」


 俺の案は、フェンリルを使うからこそ、護衛の必要がほぼないと考えての事だからな。

 結局護衛できないのであれば、魔物に襲われる危険もあるため、荷物の保証などを考えるとかなり厳しいように思えるし、費用もかさんでしまう気がする……。


「それなのですが……タクミさん。公爵領に限らず、国内では兵士が巡回し、魔物の危険を取り除く……という事も行われています。駅馬での問題は、その場所に常駐する兵士がいない事なので、少し状況が違うのです」

「兵士さん達の巡回に合わせて、定期便や乗合馬車を……と?」

「そうです。タクミさんが心配されているように、急に兵士を増やして対応……というのは難しいかもしれませんが、巡回する兵士ならば既に訓練されていますので、魔物を撃退できるでしょう。新しく雇って増やす必要がないわけではありませんが、数は多くありません。そして、公爵家の兵士が付く事で、民も安心して馬車に乗る事ができるのではと考えます。荷物を運ぶ際にも、同様ですね」


 成る程……公爵家への信頼と、兵士がいる事での安心感を足すわけか。

 さらに、巡回する事と合わせれば既に訓練された兵士さんのため、新しく訓練する必要性がないと。

 まぁ、定期的に兵士さんを動かす必要があるので、多少は雇ったりする必要はあるんだろうけど……駅馬の護衛用にというよりは、数が少なくなると思う。


「クレアお嬢様の言う通り、それであれば今以上に兵士による領内の安定にも、繋げる事ができますな。巡回しているとはいえ、タクミ様の案に乗って見回る回数を増やせば、領民も安心して暮らせるかと。とはいえ、まずは駅馬と同様に少数から……となるでしょう」

「そうですね……試してみて、駄目なら数を減らしたり増やしたりするのがいいと思います」

「それにタクミさん、この案にはさらに利点があると私は思います」

「他にも利点が?」

「えぇ。領民と兵士が接する機会が多くなるので、巷での噂、物の流れや人の流れというのも、今よりも得やすくなるかと。もちろん、取るに足らない噂だったり、確実性の低い話の事もあるでしょうけど……」

「村の人達とか、普段から兵士さん達と接しない人達から、いろんな話を聞ける……という事ですね」


 この世界、当然ながらネットなどがないので情報などは基本的に口コミで広がる。

 直接やり取りする事が増えれば、今よりも多くの情報を得られたりするわけだ。


「日頃、私達は民から離れている事が多いので、噂程度から得られる情報というのがほとんどありません。……だからこそ、ラクトスでの病流行や薬の買い占めなども行われてしまったわけですが……」


 クレアはラクトスから近いこの屋敷にいながら、そしてティルラちゃんが病でラモギが足りない状況でありながらも、バースラー伯爵に拘わる事件を察知する事ができなかったと、悔やんでいるんだろう。

 向こうもバレないように行動していたから、必ずしもそれで判明するとは限らないが……それでも噂とかを聞く事で情報の精査ができるようになる、と考えているのかもしれない。

 だけど、クレアさん自身が言っているように、信憑性の低い話だって入ってくるわけで、情報の取捨選択が難しい気がするんだが……。


「ともかく、この話は一度旦那様にも相談し、詰めていくべきでしょうな」

「そうですね。今この場で全て決める事はできないでしょう。……エッケンハルトさんが大変になりそうですが……」

「お父様は、むしろ喜んでいそうですけどね。新しい事をやるのがお好きですし……タクミさんが考えた事なので……」

「俺が考えた事だと、喜ぶんですか?」

「旦那様は、タクミ様の事が好きですからなぁ……いえ、変な意味ではありませんが」

「……っ……気に入られている自覚はありますね」


 一瞬、俺を見て顔を赤らめるエッケンハルトさんを想像してしまったので、思いっきり顔を振って振り払っておく。

 エッケンハルトさんに気に入られているというのは、接していればよくわかるんだが、さすがに俺にそっちの趣味はない……向こうにもないだろうけど。

 ともあれ、新しい案はまたエッケンハルトさんと相談したり、予定を立てたりと実現するかどうかなどなど考える事が多いので、とりあえずここまでとしておこう。


「グルゥ……グルル」

「えっとねー。一度、群れのフェンリル達と相談して、考えさせてくださいって言ってるよー」

「あれ、フェリーはもしかして、定期便とか乗合馬車とかに乗り気なのか?」

「グルルル。グルゥ」


 乗合馬車とかは、フェリー達ではなく馬でという事で話していたんだが、俺達が話していた間も考えていたようで、フェリーはとりあえず持ち帰るつもりのようだ。

 フェリーに聞いてみると、これまでの話でなんとなくやる事は理解していたようで、むしろハンバーグを食べる機会が増えるのであればとやる気になっているらしい。

 さすがに、群れのリーダーとは言っても群れそのものが森から離れるようなお願いを、単独で決めるわけにはいかないので、一度帰って相談すると……。

 場合によっては、他の群れと協力して数を増やす事も検討するとかなんとか……割と柔軟な考えができる群れなんだな……ほぼハンバーグのためみたいだけど。


 ちなみに、ハンバーグを食べた事のないフェンリルや、他の群れにはフェリーがフェンやリルルも使って、その美味しさを伝達するとリーザが通訳してくれた。

 伝わるかどうかはともかく、大量にハンバーグを作っておかないといけない事になりそうな予感が……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る