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第798話 試作ドリンクを作って渡しました
第798話 試作ドリンクを作って渡しました
「これはなんですか、タクミさん?」
「言って下されば、私が用意したのですが……。ありがとうございます」
ニャックミルクティーの試作は、ティルラちゃんを懐柔するために、ミルク多目で砂糖も使ってあるから、甘くて美味しくできているはずだ。
本来の試作とは違ってしまったが、こういう時くらいはな……ティルラちゃんなら、砂糖を使っても太るとか言わないというのも、ある。
ヘレーナさんに言うと、ティルラお嬢様のためならばと、すぐに砂糖を用意してくれたのでありがたいが……ライラさんや俺の分は、考えていた通りの砂糖なしミルク多目だ。
レオには後でたっぷりとミルクやブドウジュースを飲ませる事を約束していたりもする。
「それは、昨日話していたニャックを使った飲み物だよ。試作だけど、ちょっとお願いして砂糖を使わせてもらったんだ。美味しいと思うから、飲んでみて? あ、スプーンですくったり、混ぜながら飲むといいかな」
「はい……んく……ふわぁ、美味しいです! 噛まないといけない物が入っている飲み物というのも不思議ですけど、甘いです!」
いつもお茶を飲むカップではなく、ニャックミルクティーの入ったコップを机に置いて、ティルラちゃんやライラさんに飲むよう促す。
タピオカドリンクには付き物の、ストローはさすがに用意できなかった代わりに、スプーンでかき混ぜたりすくい上げて一緒に口の中へ入れるようにした。
ちょっと手間で飲みづらいけど、ティルラちゃんはニャックを気に入っていたから、砂糖の甘さもあって問題なく気に入ってくれたようだ。
俺も一口……うーん、悪くないんだけど、やっぱりタピオカを知っている分違う感覚というか、物足りない気がするな……やっぱり砂糖やシロップでニャックを甘くした方が、美味しいか。
ライラさんの方は、飲み物と一緒に噛まないといけないニャックがあるので、ちょっと微妙な表情……こちらは、味というよりも飲み物とニャックをなぜ一緒にしたのか? という雰囲気だ。
……なぜ一緒にしたのかは、俺じゃなくタピオカドリンクを作った人じゃないと、わからないと思います、すみません。
とはいえ、一口二口と含むたびに、食感に慣れてきたようで悪くない反応でもあった。
「……少しは、落ち着いたかな?」
「すみません、タクミさんやレオ様に、迷惑をかけてしまいました……」
「俺やレオは気にしていないよ。クレアと言い合っていた事だって、時にはそういう事もあるだろうからね」
ニャックミルクティーの反応を見るのが目的じゃなかったなと、甘くて美味しいと喜んでいるティルラちゃんに声をかける。
先程クレアと言い合っていた様子は既になく、かなり落ち着いている様子だ……これなら、ニャックミルクティーは必要なかったかな?
と思ったけど、ライラさんからコッソリ先程まで唇を尖らせて、拗ねていたと教えられ、効果はあったと一安心。
やっぱり甘い物って偉大だなぁ。
「ワフ」
「レオ様、ありがとうございます」
ニャックドリンクを飲んで、俺達にも謝って一息吐いたティルラちゃんに、レオがゆっくりと近付いて体を寄せた。
まるで、抱き着いてもいいんだよ? と言わんばかりに……というより、抱き着いて癒されなさいと言っているようだ。
すぐにレオのふかふかの毛に全身を預けたティルラちゃんは、リーザがしていたように顔を埋めて、お礼を言った。
その姿は、なんとなく泣くのを我慢しているようにも見えた。
「そういえばティルラちゃん。クレアも言っていたけど、最近剣の鍛錬に身が入っていない、というのは、何か理由があったりするのかい?」
「っ!」
「ワウゥ……」
うん、俺にこういう事でやんわりと聞き出すような、慣れとか上手い誘導とか期待しないで欲しい。
変に言葉を重ねても、ティルラちゃんを警戒させてしまうかもと思い、率直に聞く事にした。
クレアの名が出た瞬間、ティルラちゃんが身を硬くしてさらにレオにしがみ付くようになってしまった……責めるような声で鳴かないでくれ、レオ。
「えっと……なんとなく、最近ティルラちゃんが他の事を考えているかな? と思う事があってね? クレアと言い合った事を怒ったりするつもりはないんだ。ただティルラちゃんが気になっている事が知りたいだけ、かな」
「……姉様に言われて、叱りに来たのではないのですか?」
「叱るなんて全然考えてないよ。むしろ、さっきのクレアの言い方は、ティルラちゃんが怒っても仕方ないかなぁとも思ってる。ティルラちゃんの言い分も聞かずに、ただ否定されて叱られて……だからね」
ティルラちゃんの味方だよ、というアピールだが……本音でもあったりする。
クレアに悪者になってもらうとかではないけど、さっきのやり取りはティルラちゃんが反発するのも無理はなかったからなぁ……一応、セバスチャンさんそっちのけで話した時に、遠回しに伝えたと思うので、クレアにもわかってもらえていると思いたい。
「……私だって、ただ勉強が嫌いだとか言っているだけじゃ、ダメだってわかっているんです」
「そうだね……」
「鍛錬だって、レオ様やタクミさん達と一緒にできるのは、それでいいですけど……一人でやる鍛錬は、集中できなくて……」
「んー、それはどうしてだい?」
勉強をしなきゃいけない、というのはティルラちゃんなら考えていると思う。
それでも集中できず、一人でやる鍛錬……筋トレとか素振りも同様なのには、やっぱり何か理由があるみたいだ。
急かさないように注意しながら、ティルラちゃんを促してゆっくりと話してくれるのを待つ。
レオもティルラちゃんに抱き着かれたまま、お座りして不動になり、ライラさんは邪魔をしないよう少し離れて待機してくれている。
「……寂しいんです」
「寂しい? でも、鍛錬をする時は、一人でやるものでも俺やレオ、リーザが近くにいるよ? それに、勉強の時だって誰かが近くにいるはずだし……もしかして、ラーレがいなかったからとか?」
「ラーレがいない時は特に寂しかったのですけど……そうじゃなくて、とにかく寂しかったんです」
「そうかぁ……」
ラーレが居る、居ないに拘わらず、ティルラちゃんは寂しさを感じていたと。
ティルラちゃんを置いてどこかに行ったりはしていないし、レオやリーザなど、むしろずっと近くで一緒にいる事が多いのに、寂しさを感じるのはなぜなんだろう?
もしかしたら、それを取り除く事ができれば、ティルラちゃんも色々な事集中できて、中途半端になったりクレアに叱られる事もなくなるかもしれない――。
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