第797話 ティルラちゃんから聞き出す役に指名されました



「では、タクミ様にお願いするというのはどうでしょう? ティルラお嬢様も大変懐いておりますし、先日はラーレがおらず、寂しい時もタクミ様に頼られてもいました」

「そうね、タクミさんならティルラの事も安心して任せられるわ。――タクミさん、こんな事を頼むのは申し訳ないと思うのですが……ティルラと話して来て頂けないでしょうか?」

「あー、えっと……」


 セバスチャンさんはどうだろう? と提案する前に、向こうから俺が指名されてしまった。

 確かに、ティルラちゃんからは懐かれているとは思うけど、それもレオやリーザがいるからだと思うんだけどなぁ。


「……セバスチャンさんが行くのは駄目、かな? そっちの方が、適任な気がするけど。ほら、経験も豊富だから、こういう時にどう接したらいいのかもわかっているだろうし……」

「もちろん、私でも可能でしょう。ですが、それですとティルラお嬢様は、あまり良い気分ではないかと考えます。あくまで、私やライラさんは使用人ですから。もちろん、ティルラお嬢様は使用人だからと、見下したりするような方ではないと存じております」

「言い合いをした原因である、私からお願いするのもどうかと思うのですが……タクミさんが一番ティルラが素直に話せると思うのです。タクミさんには無理をお願いする事になるので、断られるのも覚悟ですが……」

「そこまで言われると……断れないというか、俺が行くしかなさそうですね。わかりました」

「おぉ、行って下さいますか。ありがとうございます」

「ありがとうございます、タクミさん。本当、頼ってしまうばかりで申し訳ありません……」

「まぁ、俺もクレアやセバスチャンさんを頼っている事が多いから、これくらいは」


 セバスチャンさんからは、なんとなく確信犯的な雰囲気を感じるけど……ここまで頼りにされて悪い気はしない。

 俺に対して、ティルラちゃんはいつも子供らしい素直さで、懐いてくれて……なんとなく妹みたいにも思える部分があるから、嫌というわけでもないしな。

 クレアやセバスチャンに頼っている事が多いから、これくらいの事はやらないと。

 というより、結局セバスチャンさんの言葉に納得してしまったのが、大きいかな……やっぱり、適任なのはセバスチャンさんなんじゃないかな? という思いも沸くけど、気にしないようにしてこう。


「あ、レオも一緒に連れて行っていいですか?」

「ワウ?」

「もちろんです。レオ様にも、ティルラは懐いていますから。気分が紛れるかもしれませんね」

「はい。――巻き込んですまないが、一緒に来てくれるかレオ?」

「ワフ!」

「パパ、リーザも一緒に?」

「んー、リーザはここでクレアと一緒にいてくれ。もう少し落ち着く必要があるみたいだから」


巻き込んでしまうが、レオも一緒にいれば和んでティルラちゃんも気持ちが落ち着いてくれるだろう、という算段だ。

 任せろとばかりに頷くレオの隣で、リーザも行こうとしたのでそちらはクレアに任せる。

 大丈夫だとは思うが、リーザといるとちょっと数が多過ぎるかなと思ったからなのと、向こうには既にライラさんがいるし、人が多過ぎてもティルラちゃんに悪いから……喧嘩をしてすぐ囲まれるのは、余計な反発を招きそうだ。

 あと、まだ気持ちが完全に収まっていないのか、クレアがずっとリーザの耳や尻尾を撫でていたからな……今は引き離しちゃいけない気がした。


「わかった! クレアお姉ちゃん、よろしくね!」

「えぇ、よろしくね、リーザちゃん。――タクミさん、レオ様、お願いします」

「えぇ」

「ワウー」


 リーザがクレアに笑いかけるのを見て、改めてお願いされてレオと一緒に屋敷へ……行こうとした時、ラーレが主張するように鳴く。


「キィー!」

「あ……」

「ワフ……」


 その声で気付いたんだが、ラーレの足下にはこちらを窺っているコカトリスの子供が二体……そういえば、喧嘩の原因にもなったコカトリスをどうするのか、一切話していなかったっけ。

 クレアとティルラちゃんの喧嘩にばかり気を取られて、肝心な事を忘れていた。

 まぁ、それはセバスチャンさんやクレアも同様みたいだけど。


「……タクミさん、ティルラの事をお願いしたのですから、こちらはセバスチャンと考える事にします」

「わかった。レオに怯えたり、食べられると怯えたりしていたから、あまり脅かしたりしないように……まぁ、ラーレがいるから大丈夫だと思うけど」

「はい、お任せ下さい」

「ティルラお嬢様の事もあります。悪いようには致しませんので……」

「ワウー!」

「キィ!」

「「ピピィ!」」


 コカトリスの子供達の事は、クレアとセバスチャンさん達に任せて、俺とレオは屋敷のティルラちゃんがいる場所へ向かう事に。

 別れ際、レオがラーレに対してしっかりやるように、という感じで鳴くと、ビシッと敬礼っぽい事をしたラーレの足下でコカトリスの子供達は声を上げて怯えていた。

 そんなに怯えなくても、食べたりはしないんだけど……シルバーフェンリルが相手だから仕方ないか。

 ラーレが連れて来てすぐの時は絶望した感じだったから、それよりマシになって来ていると思いたい。



「ティルラちゃん、入るよ?」

「ワウー」

「どうぞ……タクミさん、ここはタクミさんの部屋なのですから、入る時に声をかけるのは変です……」

「ははは、それでも女の子がいるとわかっている部屋だからね、念のためだよ」

「ワフワフ」


 屋敷に入るとすぐ、ライラさんが伝えたのか、別のメイドさんがティルラちゃんは俺の使っている部屋にいると教えてくれた。

 一応女の子がいるからと、ノックをして部屋の中に声をかけ、許可を取って中に入る。

 自分が普段使っている部屋に対し、ノックをするのは変な気分だったが、なんとなく和ませるためでもある。

 重い雰囲気とかで中に入ると、ティルラちゃんも警戒するだろうからな。


「すみません、勝手に部屋を使って……」

「ははは、それはいいんだよ。そもそも、この部屋を使わせてもらっているのは俺の方だからね。はい、どうぞ? ライラさんも……」


 なぜ俺の部屋にいるのかはともかく、それならさっさと向かって話を聞こうと思ったんだが、ちょっと思い付いた事があったので厨房に寄ってきた。

 そこで昨日クレアやセバスチャンさんに話していた、タピオカミルクティ―ならぬ、ニャックミルクティーを手早く試作したから、二人にも飲んでもらおう――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る