第793話 姉妹喧嘩を目撃しました



 ティルラちゃんの中途半端にしない宣言……ラーレはユートさんを知っているように、かなりの長生きだから、ある程度放っておいても大丈夫だろうけど、コカトリスの子供達はちゃんと面倒を見てやらないと駄目そうだ。

 年齢的にも、遊びたい盛りだからレオやリーザとも一緒に楽しく遊びたいだろうし……ラーレが協力するにしても、明らかにキャパシティオーバーじゃないかな、と思う。


 だからといって、さすがに全面的に反対をするわけじゃないけどな。

 どちらかというと、俺はティルラちゃん側だったりもする……とはいえ、クレアの言うように全てが中途半端になったら、ティルラちゃんのためにもならないのは確かだし……。

 いや、クレアが怖いから、ティルラちゃんの味方をしないとかじゃないから……ホントダヨ。


「そんな事を言っても、今までちゃんとやって来なかったのだから、すぐに信じられるわけがないでしょう!」

「でも、でも……やって見せます!」

「それだけじゃ駄目よ! 最近はいつもラーレに構うばかり。ラーレがいない時は、レオ様やリーザちゃん、タクミさんに構ってもらう! それで、どうして信用できるというの!?」

「姉様だって、タクミさんに構ってもらいたいから、そう言うんです!」

「な!? 私はそんな事……ティルラが一緒に遊んでもらって、羨ましいなんて思っていないわよ!」

「そんな事ないです! 私がリーザちゃんやレオ様、タクミさんと一緒に遊んでいると、よくこっちを見ていましたから!」

「それは……ティルラが迷惑をかけないようにと……! それに、それは今関係ないでしょ!」

「関係あります! 姉様は私の事より、レオ様やタクミさんなんです! 私だって、姉様とも遊びたいのに!」

「そう言えばいいじゃない! 何も言わずに、レオ様やタクミさんに甘えるだけで、わかるわけないでしょう!?」

「言えません! 言っても姉様は別の事を考えていますから! 私の事なんて見ていないんです!」

「どうしてそう思うの! 私は姉として、貴女の事を考えて……!」

「それならどうして、もっと一緒にいてくれないんですか! 私に何かを言う時は、勉強をしろって言うだけじゃないですか!」

「それはだって、勉強は大事なの! 貴女が成長した時に役に立つのよ! それに、ティルラが勉強を疎かにするのがいけないのでしょう!」


 ……えっと。

 もはやきっかけが何かすら忘れた様子で、二人は延々と叫びながら言い合う。

 どうしたらいいんだろう、止めた方がいいのかな? 見れば、俺だけでなくレオやラーレもおろおろとして、どうしたらいいか困っていた。

 リーザは言い合いとかが苦手なのか、レオに乗ってしがみつき、顔を毛に埋もれさせている。


 コカトリスの子供達は状況がよくわかっていない様子だし……って、セバスチャンさんとライラさんは、平気そうな表情……どころか、ちょっと嬉しそうにしているな。

 いつの間に来たのか、ゲルダさんの方はおろおろしているけど。


「……セバスチャンさん?」


 とりあえず、どうしたらいいのかを聞くため、ひたすら言い合っているクレアとティルラちゃんから離れ、セバスチャンさんに声をかけた。


「おや、タクミ様。どうなされましたかな?」

「どうなされた、じゃなくて……止めなくていいんですか?」


 セバスチャンからは、何も問題が起こっていないという雰囲気。

 うーん、目の前であんなに激しく姉妹喧嘩しているのに、余裕だなぁ……。


「クレアお嬢様も、ティルラお嬢様も、普段はお互いあんなに感情をむき出しにして叫び合ったりはしません」

「そうですね……仲のいい姉妹ですから、あんな風になるのを見るのは初めてです」

「姉妹とはいえ、お互い考えている事が同じとは限りませんし、見ているものも違います。それでいいのです。何も言えない仲よりは、言い合えるくらいの仲の方が私共も安心できますからな。もちろん、行き過ぎるのであれば止めさせて頂きますが……あの様子なら大丈夫でしょう」


 そうなんだろうか? 年齢差があるからか、取っ組み合いの喧嘩にはなっていないけど、お互いを睨み合って激しく言い合っていて……見ていて不安になる。

 確かに片方が我慢して、言いたい事も言えない関係よりはいいのかもしれないけど。

 姉妹喧嘩だけでなく、女の人同士の喧嘩というのは初めて見たからかもしれないが……クレアとティルラちゃんは、男同士だったら確実に殴り合っているだろうなぁ……と思うくらいの剣幕だ。


「孤児院では、あぁいった言い合いは日常の一部でした。男女問わず、一緒に生活をしていれば喧嘩もしますから。あまりに酷かったり、片方がもう片方へ力づくでともなると、院長を始めとした職員や他の子供達に止められますが……言い合っているくらいなら、見守られるくらいですね」

「あ、そういえばそうでした。私も、よく喧嘩をしました……男の子とは、ほとんどありませんでしたけど……」


 セバスチャンさんに言われても、中々納得できずに難しい表情をしてしまっていたんだろう、ライラさんが孤児院での事を例に出して話してくれた。

 そりゃ、子供が大勢一緒にいれば、喧嘩にもなるよなぁ……あまり止められる事はないみたいだけど。

 うーん……一種のストレス解消みたいなものなのかな? ゲルダさんも、よく喧嘩していたみたいだし。


「ゲルダさんも経験があるんですね。ライラさんは?」

「いえ、私は……」

「ほっほっほ、アンナさんから聞いておりますよ。男の子を相手でも決して引かず、むしろ相手をやり込めるくらいだったと……」

「せ、セバスチャンさん、その話はあまり……」

「そうでした! ライラさんはまだ孤児院にいた頃、女の子達を率いて男の子に勝っていました!」

「ゲルダ……今その話をするのは、やめましょうね……?」

「……ひっ! は、はい……」


 ライラさんにも喧嘩をした経験があるのかなと思って、軽い気持ちで聞いただけなんだが……セバスチャンさんはともかく、ゲルダさんには笑顔で迫っていた。

 なんとなく、男の子もやり込めるライラさんというのは、想像しやすいな……。


「タクミ様、今はお嬢様達の事なので、私の事は気にしなくて結構ですよ?」

「は、はい……」


 孤児院の女の子を率いて、男の子相手に引かないライラさんを想像していると、察したのか笑顔で注意されてしまった――。



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