第792話 ティルラちゃんの宣言は反対されました



 結局、コカトリスの子供を連れて来ても何にもならない事が判明したラーレは、落胆した様子を見せた後、くちばしで啄むような仕草をして鳴きながら、コカトリスの子供達を見た。

 怯えた様子からさらに慌てた様子まで加わって、何やら絶望したような声を上げるコカトリス……なんというか、怯える雰囲気の方向性が、セバスチャンさんが食べるとか食料とか言った時に似ていたから、何を言ったのかわかってしまった。

 要は、大きくなるまで待って食料として食べればいい、とそのままな提案をラーレがしたんだろうな。


「でもラーレ、駄目ですよ! いきなり攫われて、食べられるなんて……この子達がかわいそうです!」

「ピィ、ピィ!」

「ピ!」

「ワウ……」

「キィ……」


 コカトリスの子供達に同情的なティルラちゃんがラーレを叱り、味方を得たとばかりに鳴いてティルラちゃんの足下にピッタリとくっ付いた。

 それはいいんだが、なぜかレオがラーレより先に落胆の声を上げるのか……いや、食べる気満々だったんだろうな。

 鳩の見た目でピィピィ鳴くのにはちょっと慣れないが、目の前で怯えたりティルラちゃんにくっ付いたり、中々感情豊かな様子を見せているコカトリスの子供達だから、食べてしまうのはかわいそうだと俺も思う。

 いやまぁ、オークをおびき寄せて剣で斬った挙句、美味しく食べた俺が言う事じゃないとは思うけど。


「どうしたもんかなぁ……」

「ラーレの言う通りにするのが一番手っ取り早いとは思いますが、私も少々老いましたかな。ティルラお嬢様にくっ付いているのを見ると、情けをかけたくなってしまいます」


 いや、セバスチャンさん、貴方がこの中で一番食料方面でコカトリスを見ていましたよね?


「でも、元に戻しても親達はいないし、いても子供とは認識しない……ラーレが原因ですけど、捨てられたに近いんですよね……」

「そのようですな。それに、コカトリスがいた場所というのは、魔物のいる森なので……この大きさでまだ戦う事すらままならない状態では、他の魔物にとって格好の餌でしょう」

「……ですよねぇ」

「まったくラーレったら、いけないですよ!」

「キィ……」


 コカトリスの子供達を見ながら、セバスチャンさんとの相談を聞いたティルラちゃんが、再びラーレを叱る。

 その様子は、なんとなくティルラちゃんを叱るクレアに似ているなぁ、なんて思ったりもするが、今はそれどころじゃない。

 とりあえず、ラーレはしばらくティルラちゃんに叱られていていいと思うがな……あ、レオも付けるから一緒にラーレを叱ってやって。



「私が、面倒を見ます! ラーレが攫って来たのですし、私の責任でもありますから!」


 しばらく後、ラーレへの説教が終わった途端にティルラちゃんがした宣言。

 ちなみに、レオはもうコカトリスの子供達を食べようとする素振りを見せる事はなくなった……話を聞いていたリーザが、同情していたからだと思われる。

 あと、説教している間に騒ぎを聞きつけたクレアも、この場に来てセバスチャンさんから状況を説明されていた。

 そんな皆の前で、ティルラちゃんが堂々と宣言したのはいいんだが……。


「駄目よティルラ。コカトリスを見るのは問題ないわ。けど、貴女にはラーレがいるし、そちらを見なければいけないでしょ?」

「ラーレも一緒に見るから大丈夫です! それに、ラーレの責任でもありますから……」

「気持ちはわかるわ。私も、シェリーが盗み食いをしていると知った時は、ちゃんと言い聞かせなかった責任を感じたもの」

「キャゥ……」


 クレアと一緒に来ていたシェリーは、その腕に抱かれながら小さく鳴いて反省している様子。

 一応、レオと一緒に食べ物の匂いがしたり、目の前にあっても我慢するという躾けはしたんだが、それでもクレアからはっきりと厨房の物を食べては駄目、と言われていなかったため、コッソリ食べに行っていたらしい。

 まぁ、その辺りはレオが厳しくしてダイエットさせる事にまでなったから、シェリーももうやらないだろうし反省しているだろう。


「でもティルラ。貴女は最近ラーレの事やレオ様やリーザちゃんと遊ぶのに夢中で、あまり勉強にも身が入っていないでしょう? ラーレがいなかった数日は、タクミ様に迷惑をかけたり、レオ様に甘えてばかりで。最近は、剣の鍛錬にも身が入っていないのではないかしら?」

「それは……でも……はい。レオ様達と遊ぶ事を優先していました……」


 クレアから言われ、ティルラちゃんは何かを言おうとしたが諦めて、勉強や鍛錬を疎かにしている事を認めた。

 勉強の方はともかく、鍛錬の方はレオと一緒にいるからちゃんとやっていた部分は多いんだけど……まぁ俺から見ても、ちょっと集中できてないかも? と思う事があったのは確かだ。

 特に、個別にやる筋トレとか素振りとかがそうだな。

 レオに対して剣を振って当てる……という鍛錬はちゃんとやって……いや、楽しそうにしていたから、真剣にというよりは遊びの延長のようになってたかもしれない。

 そこに関しては、ティルラちゃん程じゃないが俺も近い部分があるので、反省しないとな。


「お父様からも言われていたわよね? 勉強も疎かにしてはいけない。辛い鍛錬も真剣にやらねばいけない、と……」

「はい……」

「なのに、これ以上他の事を始めてどうするの? 全部中途半端になるような事は、公爵家としても私の妹としても許容できないわ!」

「……っ!」


 さすがにそれは言い過ぎじゃないかな? と思うけど、クレアの剣幕の前に何も言えない。

 それは、俺だけじゃなくレオやリーザ、セバスチャンさんやライラさん達も同じくだ。

 シェリーを見つける前、森の探索をすると言い出した時に、なんとなく似ているな……やっぱり、クレアは怒らせない方が良さそうだ。

 ティルラちゃんは、俯いてジッと何かに耐えるようにしていたけど、おもむろに顔を上げ、クレアを真っ直ぐに見た。


「中途半端になんかしません! 勉強も、鍛錬も、ラーレも、それにコカトリスの子供達も、ちゃんとやります!」

「キィ……」


 クレアに言い切ったティルラちゃんを、ラーレは心配そうに小さく鳴きながら見つめている。

 うーん……勉強に鍛錬というだけでも、小さなティルラちゃんには結構いっぱいいっぱいだったようだからなぁ――。



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