第791話 ラーレに理由を聞きました
涎を垂らしそうなレオはともかくとして、ラーレの目的は俺が提案した駅馬から考え出した事らしい。
ラーレ自身、ティルラちゃんの従魔になって人を乗せる事を経験したが、他にも同じような事ができる魔物がいるのではないかと考えた。
そして、人を乗せて運ぶ事ができるのであれば、フェンリルに頼まなくとも駅馬代わりに……という事で、お試しでコカトリスを連れて来ようと思ったんだが、シルバーフェンリルの気配を察知して皆逃げ出してしまったらしい。
ラーレもレオの気配が屋敷より近付いた事を感じたと言っていたから、もしかすると昨日ラクトスに行った時の事かもしれない。
仕方なく、逃げ遅れてまだ高くは飛べないコカトリスの子供を捕まえ、ここまで運んで来たのだそうだ。
それはいいんだが……無理やり連れて来るのは良くないと思うぞ? ティルラちゃんにも注意されて、くちばしが地面に付きそうな程項垂れてしまった。
ティルラちゃんは、怯えて鳴いているコカトリスの子供に同情的なようだ。
あ、本来の目的である、山近くの森にいる魔物達が森の外に出て来ないように……というのは、すぐに終わったらしい。
レオのシルバーフェンリルとしての強大な気配と、山の支配者だったラーレに怯え、森から出ないようにするのは棲息する魔物達の共通した考えになったそうだ。
一部、オークやトロルドのように、本能のみで行動する魔物は、他の魔物やラーレによって狩られ、数を減らしたとも聞いた……これで、かなり安全になったと言えるらしい。
戻って来るのに数日かかってしまったのは、コカトリスを探していたからだとか……レオがラクトスに行って気配が近付いたので、台無しになったというのは、頑張ったラーレのために黙っておこう。
レオもちょっと申し訳なさそうだしな……俺について来ただけなので、レオが悪いわけじゃないけど。
「成る程……コカトリスを馬代わりに、ですか。フェンリルにはまだ話していないので、実現するかどかすら未知数ですが……」
「ラーレはフェンリルが増えたら、自分の肩身が狭いからって言ってます!」
「キィ……」
「まぁ、シェリーもそうだが、ラーレ以外フェンリルになるわけだからなぁ」
鳥型の魔物がラーレだけで、他は全て獣型……四足歩行の魔物だらけになってしまうのは、ラーレにとって肩身が狭くなると感じる事だったらしい。
……種族が自分だけ大きく違うというのは、確かにそう感じるのかもな。
「食料ではございませんか……」
セバスチャンさん、残念そうな声を出さないで下さい……コカトリスの子供達が体をビクッとさせてます。
というかこの反応を見るに、コカトリスの子供達はラーレやフェンリル達と同じように、こちらの言葉がわかるようだな。
まぁ、当然向こうの鳴き声は何を言っているのかわからないので、リーザやラーレ、レオやシェリーから通訳してもらうしかないんだが……。
「しかしコカトリス……というより空を飛んで人を運ぶですか……馬での移動が、特別遅く感じてしまいそうですな」
「実現したらですけど、確かにそうですね」
空を飛ぶという事は、当然地上の地形は関係なくなる。
山を越えたりとか、かなり高く飛ばないといけない場合は難しい事があっても、川や森の木々などに遮られる事がない。
さらに言うなら、舗装されているかどうかにも関係ないので、便利なのは間違いないだろう。
けど……。
「さすがに、コカトリス二体だけだったら運ぶ限界がありますね。――というかラーレ、そもそもに攫ってきたらいけないだろう?」
「キィ……」
「つい……って言ってます。タクミさんの言う通りですよラーレ! こんなに震えているんですから!」
ラーレに注意するように言うと、反省しているのか項垂れたまま小さく鳴く。
ティルラちゃんも同じく怒っているけど、震えているのはレオがいて怯えているからなのと、セバスチャンさんの発言が原因だと思う。
「キィ、キィー」
「そうなんですか……それは困りましたね……」
怒ったついでに、元いた場所に還す……とティルラちゃんが提案したんだが、それに対してラーレが言うには、親のコカトリス達は逃げてしまったので、おそらくもう元の場所には帰って来ないだろうとの事。
さらに、これだけ長い間離れていたら、もう自分の子供だとは認識できないとも言っていた。
鳥頭……と言うのは失礼だろうが、自分の子供でも忘れてしまうのか。
そういえば、人間の近くで生きる鳥でも、雛の時に人間が触って匂いが移ったりすると、親鳥はその子は自分の子供ではないと認識するとかって話もあったような気がする……これが哺乳類と卵生の違いか……いや、コカトリスが卵生なのは知らないが。
鳥は全て暗いと目が見えなくなる鳥目だと考えていたくらい、鳥類に関する知識がないので、ラーレの言う事に対してはそうなのかという感想しかない。
というかそもそも、コカトリスの子供とは言っても、見た目は雛ではなく立派な鳥というか鳩で、ラーレに空から放り出された時は、自前の羽を羽ばたかせていた。
俺のほんの少しだけある知識で、コカトリスの事がわかるわけじゃないから、そういう事だと思うしかないよな。
「というか、大きくなっても人間を乗せられるのか?」
「キィー? キィキィ」
「わからないみたいです。乗せられるかもしれないと考えて、連れて来たそうです」
「……コカトリスは、成長して大人になれば、人間一人を乗せられるくらいの大きさにはなりますな。ただ、乗せて飛べるほどの力があるのかは、わかりません」
「大きさは大丈夫でも、力があるかどうか……というところですね」
人間を乗せるのには、それ相応の力がいる……当然の事だけどな。
大体数十キロから、百キロ近くは乗っても潰れないようでないと、空を飛ぶなんて到底できないかなと思う。
そのあたりは、大人になったコカトリスで試してみないとわからない事だ……目の前にいる子供のコカトリスは、人間を乗せるどころか、人間の肩に乗れるくらいの大きさだしな。
「キィー……キィ!」
「ピィ!?」
「ピ、ピィピィ!」
「えーっと? なんとなくラーレの言う事がわかったような気がするけど……」
「おー、タクミさんもラーレの言葉がわかるんですか? 凄いです!」
「いや、今回だけだよ。まぁ、これまでの流れでね……」
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