第790話 鳩っぽい生き物が連れて来られました



 ラーレが捕まえていた物体は二つ……いや、二体か。

 小さなラーレというか、早い話が鳥で、その二体は羽をパタパタさせて地上に降りたはいいけど、リーザが言うようにレオを見てプルプル震えながら体を寄せ合った。

 ティルラちゃんがそれを見て、ラーレの子供ではないかと呟くが……さすがに、自分の子供を空で放り出すような事はしないだろう……と思う。

 羽や毛の色もラーレと違って、グレーに近い色だしくちばしもあまり鋭くない。


 シェリーよりも小さい体に、さらに小さい頭があってずんぐりとした形……俺が知っている鳩とそっくりだな……こっちにも鳩っていたのか。

 平和の象徴だと言われているが、こちらの世界ではどうなのかわからないし、もしかしたら似ているだけで魔物だったりするかもしれない。

 ……鳥型の魔物であるラーレが捕まえてきた訳だしな。


「お、ラーレが降りてきたから、とにかく聞いてみよう」

「はい。ラーレ―!」

「キィー!」


 空からゆっくりと下降して来るラーレに聞いた方が早いと、ティルラちゃんに言ったら、すぐに頷いて駆け出した。

 ラーレもティルラちゃんが見えていたのか、再会を喜ぶように鳴いて着地。

 すぐに翼を広げてティルラちゃんを抱き締めるように包み込んだ。


「ワゥ……」

「レオ、ラーレがいない時に散々遊んだだろ? それに、ティルラちゃんはレオを嫌いになったとかじゃないからな?」

「ママにはリーザがいるよー?」

「ワフ」


 感動の再開にも見える、ラーレによるティルラちゃんの抱擁を見て、レオから力ない鳴き声が聞こえる。

 今まで一緒に遊んでいたけど、それでもティルラちゃんが嬉しそうにラーレの方へ行ったのでやきもちを焼いてしまったんだろう。

 リーザと一緒に、体を撫でながら言い聞かせると、気を取り直したのか頷いて元気を出してくれた。

 その後しばらく、再会を喜ぶラーレとティルラちゃんを見ながら、レオを撫でていたんだが……怯えている鳩っぽい二体はそのままで、ちょっとかわいそうだったかもしれない。



「ふむ、コカトリスという魔物の子供のようですね」


 しばらくして、まだラーレとティルラちゃんが抱擁している中、ライラさんに頼んでセバスチャンさんを呼んで来てもらう。

 そのセバスチャンさんが、怯える鳩っぽい二体を見ながら呟いた……やっぱり知っていたかぁ。

 困った時のセバスチャンさん! その知識、助かります!


「コカトリス……もしかして、石にしたりとかします?」

「おや、タクミ様もご存じでしたか? その通りです。コカトリスは、大人になるとその頭に生えた赤い毛を飛ばします。針のように細く鋭いその毛が刺されば、石化するのです。子供の頃は、その赤い毛は生えていませんし、羽も今のような色ですが、成長するにつれて白や茶色くなって雌雄が別れるのです」


 ……えっと……ニワトリかな?

 白や茶色の毛で、頭に赤い毛……とさかではないみたいだが、イメージできるのはニワトリしか出て来なかった。

 今の見た目はずんぐりで、どこから見ても鳩なのになぁ……。


「でも、石化するのは恐ろしいですね……」

「実はそこまでではございません。石化した際にも、薬があれば治す事ができますし、その石化自体も針を受けた周囲のみ……これくらいですかな?」


 石化するのなら、かなり強力な魔物じゃないかな? と思ったんだけど、セバスチャンさんの説明によるとそこまで脅威ではないらしい。

 指で示したセバスチャンさんが言う石化する大きさは、ほんの数センチ程……卓球の球の方が大きそうなくらいだ。

 治す事ができて、それくらいしか石化しないなら、確かにそこまで恐ろしくはないか。


「ただ、何度も飛ばされた毛が刺されば、石化する範囲が広がります。まぁ、それまでに倒してしまえばいいのですが……当然石化された箇所は動かなくなるので、動きが阻害されます。さらに、別の魔物がいたらと考えると、脅威にならないとまでは言えません」

「状況次第ではあるんですね。とにかく、石化されないに越した事はありませんか」

「そうですな。ちなみにですが、タクミ様に頼んでラクトスで販売させてもらっている薬草で、薬は作られます。安価な物なので、コカトリスだけならあまり大きな問題にはなりませんね」

「……そうだったんですね」


 俺が作っている薬草は、もちろん最初の頃に借りた本で、その効果がどうなのかというのは知っているけど、石化を治すための薬になる材料でもあるとまでは知らなかった。


「ラーレがコカトリスの子供を連れて来たのは……食料でしょうか?」

「いや、どうなんでしょう? ティルラちゃんとの喜びの再会が終わったら、ラーレに聞けばわかると思いますよ」

「そうですか。……大きくなったコカトリスは、美味しいという話を聞いた事がありまして。石化する毛を飛ばしながら、空へ飛んで逃げるので中々手に入りづらいらしいのですよ……」

「ピ!?」

「ピィ!」


 さすがに、食料というわけじゃないと思いたいが、ラーレが帰って来る際の手土産に……と言う可能性は否定できない。

 ともあれ、ティルラちゃんがラーレに聞くのを待とうと思っていたら、セバスチャンさんがコカトリスの子供を見てニヤリと口の端を釣り上げた。

 自分達が話題になっているのがわかるのか、セバスチャンさんを見てさらに怯えて鳴き声を上げていた……レオを見た時より怯えている様子だったのは、気のせいじゃない。

 というか、大きくなったコカトリスという事は……鶏肉……というかニワトリそのままのような? いや、飛んで逃げると言っていたし、ニワトリは飛ばないけど。



「キィー、キィ、キィ」

「なるほどー、それで連れてきたんですねー」

「ティルラちゃん、ラーレはなんて?」

「えっとですね……」


 コカトリスの子供を眺めて少し待ち、ティルラちゃんがラーレの抱擁から抜けて、事情を聞く。

 リーザも交えて、ラーレがする説明の通訳をして、なんのために運んで来たのかがわかった。

 ちなみに、レオはその間ずっとコカトリス達の事を見つめていた……監視のためだとは思うが、涎が垂れそうになっていたのはもしかすると、セバスチャンさんの言った美味しいという言葉のせいかもしれない。

 レオ、いきなり襲って食べたりしたらダメだぞ? そもそも美味しいのは成長したコカトリスらしいからなー。



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