第771話 孤児院に到着しました
魔法で村のお手伝い……か……薪に火を付けたりとか、そういう生活に役立ちそうな魔法の事なんだろうな、多分。
水はまだしも、火は獣人と相性が悪そうだからなぁ……というのは俺の勝手な考えだけど、気を付けないと尻尾とか燃えそうだし。
野生動物が近寄って来ないように火を焚くって話もあるしな。
あ、でもあれって実際は光に興味を持って近付いて来る、という話もあるし……レオやシェリー、フェン達も怖がっている様子は見られないから、本当のところがどうなのか。
ケースバイケースではあるんだろうけど、そもそも魔物と地球の野生動物が同じかどうかわからないしな。
「そも魔法というのは、それぞれが持つ体内の魔力というのものを使いますが、得手不得手というのも確認されているようです。なので、獣人が人間と同じ魔法を使えないのは、その得手不得手がはっきりと分かれた結果なのかもしれませんな。ですが、人間も獣人も両方使える魔法というのもあるそうです。書物を調べてもあまり詳しく記されていないのですが……」
「え、えっと……そ、そうなんですね……」
「セバスチャン、そろそろ止めておきなさい。デリアさんが困っているわ。それに、もう孤児院に付くわよ?」
「おっと、これは失礼しました。ついつい熱が入ってしまいましたな」
なんというか、説明好きというより研究者みたいな話になっているセバスチャンさん。
話を止めるのも気が引けるといった感じで、デリアさんが戸惑いながら頷いているとクレアによって止められる。
あれを止められるのは、なんとなくエッケンハルトさんでも無理そうだし、クレアさんくらいしかできないよなぁ……。
「ちょっと、懐かしい……かな? 初めてパパに会った時、ここで綺麗にしてもらえたー」
「そうだな。それなりに経っているからなぁ」
相変わらず教会に見間違う建物の孤児院を前にして、初めて会った時の事を思い出したリーザ。
あの時は、どうにかしてリーザを身綺麗にするように考えて、エッケンハルトさんと孤児院に連れて来たんだったか。
あれから、大分経ったとは言い難いけど、子供にとっては結構な時間が経っていると感じるのかもな。
大人と子供では、時間の感じ方が違うだろうし……俺も子供の頃は一週間や一カ月が凄く長く感じたもんだ。
「失礼、院長のアンナさんはいますかな?」
「はい? あぁ、セバスチャンさん、クレアお嬢様も! はい、院長なら中にいます!」
「少々話があるのですが、お邪魔しても?」
「もちろんです! どうぞ!……あ、レオ様は……」
「レオは、庭で子供達と遊べれば。大丈夫ですか?」
「タクミ様も、ようこそいらっしゃいました。はい! 子供達ならちょうど勉強時間が終わって、遊びの時間のはずですから」
「ちょうどいい時間に来たみたいだな、レオ?」
「ワウー」
セバスチャンさんが、孤児院の入り口で掃き掃除をしている女性に話し掛け、アンナさんがいるのかを訪ねる。
何度か来た時も、同じように掃き掃除している人がいたけど、その時とは別の人みたいだ……持ち回りなのかな?
ともあれ、以前来た時にもあった事がある人で、クレア達だけでなく俺やレオの事も知ってくれているので話が早い。
子供達はちょうど遊ぶ時間だったようで、レオやリーザと遊んでくれるようお願いして庭へ。
俺とクレア、セバスチャンさんとライラさんはアンナさんと会うために、建物の中へ……デリアさんもこっちについて来たけど、レオと一緒にいてもいいんだけどな。
まだ、緊張しているのかもしれない。
「ようこそいらっしゃいました、クレア様、タクミ様。そちらは……?」
「えぇ、久しぶりね」
「リーザの時はお世話になりました。こちらは……」
「デリアと申します。その……見た通りの獣人です……」
「タクミ様は、獣人と縁がおありのようですね」
「ははは、まぁ、そうみたいです」
孤児院に入り、応接室のような場所に案内される。
ようなというのは、大きなテーブルが中央に鎮座しており、木の椅子が複数あるくらいだからだ。
応接室というより、食堂の方が近いかもしれない……と考えれば、椅子が整っていなかったのも子供達が使った後なのかもと納得だ。
ひとまず向かいに座ったアンナさんと、久しぶりの挨拶をしつつ、デリアさんを紹介。
外を歩いている時は、なんとなく帽子を被っていたけど、室内なので今は帽子を取っているし、尻尾も出したままなのでわかりやすい。
ライラさんはアンナさんに軽く会釈した後、お茶の用意をしてくれているけど、元々この孤児院出身だから勝手知ったるといった感じだ。
セバスチャンさんは俺やクレアの後ろで待機……さっきまでデリアさんに対して、あんなに説明好きをこじらせていたのに。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか? あ、その前に、以前のあの子は……?」
「リーザなら、今頃庭でレオと一緒に子供達と遊んでいると思います。元気にしていますよ」
「そうですか、それは良かった。公爵様と来られた時、ここで保護するのを断ってしまいましたが、タクミ様達と一緒にいられる方が、幸せなのかもしれませんね。改めて、あの時は申し訳ありませんでした……」
「いえ、リーザがここに入る余裕がなかったんですから、仕方ないですよ。子供達を部屋に詰めておくわけにもいきませんから。それに、今ではリーザを引き取って良かったと思っていますから」
「そう言って頂けると、胸のつかえが取れる思いです」
アンナさんは用件を聞く前に、リーザの事が気になった様子。
先に庭の方へ行ってもらったけど、まずはアンナさんにリーザを合わせた方が良かったかもしれないな。
ホッとしているアンナさんに、もう少し早くリーザの事を教えてあげるべきだったと、ちょっと後悔。
ともかく、あの時断られたのは仕方ない事だ……子供達が多くていっぱいな孤児院に、さらに獣人の子を無理に入れてもいけないしな。
孤児院の運営自体は、公爵家直営だから資金難とか苦しんでいるわけではなくとも、子供が多過ぎてもそれはそれで問題だから。
「ふふふ、タクミさんったら、リーザちゃんにパパって呼ばれて凄く懐かれているのよ?」
「それは良い事です。タクミ様の優しさでしょうか? 子供は見ていないようで鋭く大人を見ています。懐かれるというのはそれだけ、ちゃんと接している証拠でしょう。特に獣人の子は、そういった感覚に鋭いと聞きますから」
クレアが微笑んでリーザと俺の仲を伝えると、アンナさんも顔をくしゃっとして微笑みながら頷いてくれた――。
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