第770話 デリアさんは獣人特有の魔法が使えるようでした



「あ、タクミ様、レオ様にクレア様……すみません。どうしてもこういうのは許せなくて……体が勝手に、というのは言い訳になりますね……」

「フィリップさん、ひとまず衛兵を。――いえ、不届き者を成敗したのですから、デリアさんが恐縮する必要はございません。ですが、手慣れているようにもお見受けしましたが?」

「はっ!」

「村では、時折畑を狙った盗人が出たりもするので……頻繁にではないので数回くらいですけど、捕まえた事があります。それに、森が近いのでオーク程度なら出て来る事があるんです。まぁ、私がいなくても村の皆は慣れているので、対処できるんですけど、率先してやっているうちに任されるようになってしまって……」

「成る程、そういう事ですか……」


 どこの世界にも、人の物を分捕ろうとする悪人はいるものだ。

 ラクトスは人の往来が激しく、色んな人が来ては出て行く場所だから、こういった事は多いんだろうけど、ヴレイユ村の方にも作物を狙う輩というのもいるんだろう……それが通りがかっただけだったり、最初からそれ目的で狙ったのかはわからないけど。

 それにしてもさっき駆けて行った動き、通常の走り方よりも前傾姿勢だったり、その後の身のこなしも考えると、慣れているだけでなく獣人だからという部分が大きく関係しそうな気がするな……。


「ありがとうございます……クレア様方に迷惑をかけてしまって……」

「盗もうとした人が悪いのだから、貴方が謝る必要はないわ。それに、こういった事が起きないようため、未然に防ぐのが本来私の役目なのに、申し訳ないわ……」

「いえ、そんな!」


 デリアさんの動きについて俺が考えているうちに、クレアさんは店主らしき人と話している。

 盗まれた物は野菜で、ニコラさんが逃げないように縛っている間に、ライラさんが店主さんに返していた。


「お姉ちゃんすごーい!」

「本当です。私もあんな風に動けるようになりたいです!」

「キャゥー!」

「いや……そんな……」

「ほっほっほ、人気ですなぁ」

「……ワウ」

「まぁまぁレオ。活躍の場が奪われたって、落ち込む事はないだろ? 悪い人を捕まえられた、それでいいんだからな?」

「ワフ」


 リーザとティルラちゃんはデリアさんを囲んで、興奮気味に褒め、セバスチャンさんが笑っている。

 そんなリーザ達を見て、レオが残念そうに鳴くのを慰めながら体を撫でた。

 自分が活躍したかったみたいだ……あとシェリー、デリアさんの動きに感心して鳴いているけど、森でオークと戦った時はシェリーの方が速かったと思うぞ? 結局オークにはたかれてしまったけど。



 フィリップさんが連れて来てくれた衛兵さんに、盗みを働いた男性を引き渡し、クレアやセバスチャンさんによって場を収めてもらって、再び孤児院への移動を開始。

 なぜか店主さんや騒ぎを見ていた人達が、レオを崇め始めたりといった事はあったけど、見慣れて来たのもあるのか、すぐに落ち着きを取り戻した。

 あと、レオが称えられていた時にシェリーが誇らし気な顔をしていたけど、さっきまで拗ねていたのは何処かへ行ってしまったらしい。

 クレアさん似たような雰囲気だったのは、シルバーフェンリルに関係していたからだろうか……すぐにはっとなって、男性を捕まえたデリアさんに感謝していたけど。


「デリアさん、もしかして魔法を?」

「……わかりますか?」

「まぁ、なんとなくだけど……」


 移動中、気になったのでデリアさんへの質問。

 さっきデリアさんが動き出した際に、ぼんやりとした感覚だけど、魔法を使っているような気配がした。

 さすがに、まだ慣れない感覚だし、魔法自体使い慣れているとは言えないので、はっきりとはしてないけど……使ったのかどうかくらいはわかるようになっていた。


「村の人達が使うような魔法は、使えないんです。けど、いつだったか覚えていないんですけど、なんとなく使えるようになって……体が軽くて動きやすいというか、ほとんど無意識になんですけど、さっきのような時には使ってしまっているみたいです」

「……やっぱり、獣人特有の魔法、という事かな」

「獣人は、魔法を使えること自体が稀なようですが、その魔法は身体能力に作用する効果が多いようですからな。以前にもタクミ様には説明したかと」

「そ、そうですね……覚えていますので、大丈夫です」

「そうですか……」


 デリアさんから、いつの間にか使えるようになっていたと返答があり、やっぱり獣人が使える魔法でリーザも同じような感じなのか……と考えていると、セバスチャンさんも話に参加。

 森でリーザの動きに関して話していた時、確かに説明されたから覚えているけど、「もう一度説明しましょうか?」というような目をしてみるのは止めて下さい。

 セバスチャンさんにとっては、同じ事でも説明できるチャンスだったんだろうけど、説明しなくてもいいとわかって、肩を落としてしまった……どれだけ説明好きなのか……。


「獣人特有って、あるんですか?」

「え? えっと……」

「獣人に獣人の、人間には人間に使える魔法というのがあります。人間には使えなくとも獣人には使え、その逆もまたしかり、という事のようですな」


 デリアさんは、獣人だからこそ使える魔法、と言うのを知らなかったようで、首を傾げていた。

 それを見たセバスチャンさんは急に生き生きしだし、目も輝いているようにも見える……やっぱり、何かしらの説明がしたかったんだなぁ。


「人間が使えても獣人には使えない……だから、私は村の皆と同じ魔法は使えなかったんですね!」

「そのようですな。獣人たるゆえん、証……というのは尻尾や耳があるので、魔法で判断しなくても良いでしょうか。ですが、人間が使っている魔法も獣人では必ずしも使えるとは限らないようです」

「良かった……私が悪いわけじゃなかったんだ。村のお爺ちゃんやお婆ちゃんを手伝おうとして、魔法を使おうと思ったんですけど、どうしてもできなかったんです。人それぞれだから、気にする事はないって言ってくれたんですけど、どうしても気になってしまっていて……」



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