第772話 アンナさんに雇用に関して話しをました



 アンナさんの優しそうな笑顔は、子供達がよく懐くだろうなというのがわかる、母性を感じる笑顔だ。

 本当に子供を愛しているからできる笑顔なんだろうな……それはともかく、クレアさんとアンナさんの二人から笑顔で見られて、なんとなく恥ずかしい。

 とりあえず誤魔化そう。


「えっと……アンナさんは、獣人に詳しいんですか?」

「いえ、そんな事は。ただ、長年子供のためにとこの孤児院でお世話をしていますので、そのような事を聞いた覚えがあるくらいです」


 子供と常に接しているから、獣人も含めて子供に詳しくなるって事なのかも。

 リーザは素直でいい子だが、もし何か困った事があったら相談させてもらいたい。


「あぁ、すみません、余計な話が多くなりました」

「いえ、リーザの事も伝えておかなきゃと思っていたので、問題ありません。それでその、あれからそんなに経っていませんけど、孤児院の子供達の数はまだ?」

「えぇ……何人かは、仕事も決まって孤児院を離れましたが、それでもいっぱいな事には変わり有りません。それどころか、ここに入りたいと言って来る子供も増えました。現状、余り断らず受け入れていますが……それも、どこまでできるか……」

「子供が言って来るんですか?」

「はい。子供と言っても、ティルラお嬢様くらいや、それ以上の年の子が多いのですが……スラムからこちらに、という事が多いようです。――ありがとう、ライラ。この子のように、なんの心配もなく皆を送り出せたらいいのだけど……」

「いえ、私はまだまだです。もっとタクミ様やリーザ様のお世話を頑張らないといけません」

「ありがとうございます……ライラさんは、十分頑張っていると思いますけど」


 スラムの子供達、というより少年少女達って事か……なんとなく、ディームを捕まえた事と関係ありそうだ。

 あいつが見張っていた時は、自分から孤児院に入ろうなんて言い出したら怒っていただろうからなぁ……捕まえた時の状況を考えるに、少年達はディームにとって扱いやすい駒のように思っていただろうから。

 と、そこでライラさんが淹れてくれたお茶を、テーブルに置いて皆に配る。

 アンナさんがライラさんを見る目は優しく、孤児院を出た今でもお母さん代わりなんだな……ともあれ、ライラさんにはお世話になっているので、頑張りすぎないで欲しいなとも思う。


「でもライラ? 貴女はクレアお嬢様の下で使用人として働いているのですから、クレアお嬢様のために、と言わないと駄目なのではないかしら?」

「その事に関しては、大丈夫よ。ライラは正式に、タクミさんの使用人になったから。……まだ、屋敷では働いてもらっているけど」

「……そうなんですか?」

「えぇ。今度、ランジ村……この街から東にある村で、新しく始める事があって。そこに行くのに、ライラさんも付いて来てもらうようにお願いしたんです」

「そう……そうなのね……」


 ライラさんが公爵家から俺に雇われる事になったと聞いて、嬉しそうに微笑むアンナさん。

 むしろ、俺なんかが雇って不安に思わないのだろうか? と少し疑問ではある。

 クレアに雇われている使用人であるなら、俺のお世話係といえどクレアを優先しないといけないというのはわかるから、アンナさんは注意したんだろう。

 さすがにまだ薬草畑どころか、ランジ村に家ができているわけでもないので、屋敷で働いてはいるけど、一応既に所属は俺の使用人……という事になっている……らしい。


 セバスチャンさんの目の前でライラさんを誘ったその日のうちに、正式に配属された事になっていると聞いた……一応、ランジ村に行くまでは屋敷で働く事と、給金は公爵家から出ているけども。

 なので、まだ屋敷の使用人でありながらも正式に決まっている以上、俺直属の使用人としてこういった場や、公の場ではクレア達よりも俺が優先されるらしい……貴族の世界はよくわからない。


「それで、ライラさんを雇った事にも通じるんですけど……この孤児院から、何人か雇いたいと考えているんです。それで、さっきまだ子供達がいっぱいかと聞いたんですけど……」

「子供達を働かせる、と?」

「いえ、正確には子供達ではなく、成人してもまだ残っている人と思っていたんですけど……何人か仕事が決まって出たんですよね?」

「はい。それでもまだ残ってはいますが……数人程度です。今は孤児院の手伝いをしていますね。子供がさらに増えそうなので、助かってはいますが……」

「そうですか……」


 これじゃ、成人した……十五歳以上の人を雇うのは難しいか。

 いっぱいとは言っても、この孤児院を運営するうえで子供達の面倒を見る人が必要だから、そこの人手を減らすのはいけないだろう。

 当てが外れた部分もあるけど、孤児院にとってはいい事か。


「さすがに、手伝いをしている人を雇うのは歓迎されませんね」

「申し訳ありません。ですが、一人や二人なら可能かと……」

「そこは、これからの話し次第、ですかね? えっと、さっきは子供達ではないと言いましたけど、子供達の中からも雇えないかと考えていたりします。もちろん、無理な事はさせません」

「子供達をですか……」


 難しい表情をして、考え込むアンナさん。

 やっぱり、まだ成人していない子供を働かせるという事には、抵抗があるんだろうな。


「子供を働かせる、というのに忌避感を感じるのはわかります。ですが……」

「……タクミ様、公爵家はともかく、一般の民達はそこまで子供を働かせる事に忌避感はありません」

「そうなんですか?」


 孤児院に空きを作って、ほかの困っている孤児たちを……と思っていたので、何とか説得しようとしていたら、セバスチャンさんから指摘が入った。

 あれ、子供を働かせる事に対して反対しているとかじゃないのかな?

 日本だと児童労働とかで、一部の仕事を除いてあまり歓迎されないはずなんだけど……。


「公爵領内では、あまり多くはありませんが……ないとは言えないのです。特に農村では子供も重要な労働力と見込んで、働かせている所があります。もちろん、無理に働かせていたり、成人している者と同じ扱いにはしていません」


 子供も、多少なりとも労働力として認められているという事かぁ――。



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