第747話 会場の準備をして面接を開始しました



 本気のソルダンさんって、どんな感じなんだろう? と疑問に思うが、セバスチャンさんの言い方を聞く限りでは、さっきのマシンガントークをさらにとめどなく続けるんだろうな、とすぐに想像ができてしまった。

 そのソルダンさん、数十人は入っても余裕があるだろうだだっ広い会議室を見渡したり、準備をする執事さんや、この建物の職員さんの様子を見ながら、時折俺の方をニコニコして見たりとしながらも、手元は凄い速さで動いている。

 俺と向かい合う方……椅子が並べてあるさらに後ろの部屋の角で椅子に座り、その前にテーブルを置いて書類を処理している。

 手元は残像が見えるくらい、というのは言い過ぎかもしれないが、それくらいの速度で動き、次々と書類の処理をしている……あれで本当にちゃんと確認ができているのか疑問ではある。


 まぁ、日本で仕事をしていた時も、尋常じゃない早さで事務処理をする人とかもいたし、ソルダンさんはそういうのが得意な人なんだろう。

 代表がどうやって決まるのかはわからないが、有能な人なんだろうな……止まらないマシンガントークさえなれば……。

 あと、エッケンハルトさんを盲目的に信奉してそうなところも、かな。


「セバスチャンさん、タクミ様、準備が整いました」

「こちらも、部屋の外に今回の希望者が集まったのを確認しました」

「はい、ありがとうございます」

「では、始めましょうか……」

「あ、ちょっと待って下さい」

「どうされましたか?」


 椅子を並べ終え、会場の確認を済ませた執事さんからの報告と、外で集まった人の確認をしていたライラさんからの報告。

 いよいよ、面接が始まる……というところで、セバスチャンさんが開始しようとするのを止める。

 首を傾げてこちらを見るセバスチャンさんやライラさん達には答えず、大きく息を吸い込んだ。


「すぅー……はぁー……よし! お待たせしました、大丈夫です。お願いします」

「ほっほっほ、そんなに緊張する事ではないと思うのですがな。畏まりました……お願いします」

「はい!」

「お任せください」


 深呼吸をし、緊張を解してからセバスチャンさんに頭を下げる。

 セバスチャンさんはそんな俺を笑って見ているが、俺にとっては初めての事だから、緊張するのは許して欲しい。

 というか、大勢の前で皆からの注目を浴びながら……という事すら経験した事はないからな。

 セバスチャンさんに指示され、集まった人を呼びに行くライラさんや執事さんを見送り、いよいよ面接の開始だ……!



 数分後、ライラさんや執事さんに誘導されて、集まった人達が全員用意されている椅子に座る。

 会議室……面接会場に入って来た人達の反応は様々で、俺を見て驚く人や、同じ方の手と足が同時に出てガチガチに緊張している人。

 特に緊張をしていない人は、こういう場に慣れている人だろうか? さらに、最後の方に入って来た人物を見て、声には出さなかったが俺も驚いた。

 この建物に入る時に、目の前で転んだ女性も入って来たから……向こうも俺を見て驚いた様子だったが、すぐに気を取り直して椅子に座った。

 やっぱり耳付き帽子を被っているのはともかく、両手で頭を押さえるようにしているのは癖か何かなのだろうか?


「確認しました。本日集まった人員は、全て入場しております」

「はい。では……皆様、こちらにいるのがタクミ様。貴方達を選ぶために本日、こちらに来て頂きました」

「えーと……んんっ! ご紹介に預かりました、タクミです。本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

「んんっ!……タクミ様、そこまでこちらがへりくだる必要はございませんよ?」

「あ、はい……わかりました」


 入って来た人達を確認していた執事さんが頷き、セバスチャンさんが俺を紹介しながら面接が始まる。

 紹介されたからにはと、緊張感が増した俺が使い慣れないながらも挨拶をすると、隣にいるセバスチャンさんに小声で注意されてしまった。

 そうか……こっちの世界では、確実に立場が上な俺側は、侮られたり下に見られたりする可能性もあるから、あまりへりくだった挨拶は必要ないのか。

 だからといって、いきなり偉ぶった態度をというのができないので、中々に難しいが……とにかくやるしかないな。


「それじゃ、一番さんから順番に……今回の志望動機を教えて下さい」

「え、は?」


 まずは面接のセオリーであろう志望動機を、一人ずつに聞こうと声をかけたら、一番の人に不思議そうな顔をされてしまう。

 集まった他の人達も、首を傾げたり不思議そうな表情になって、にわかにざわついた……あれ?


「……タクミ様、こちらでは動機などを個人ごとに聞くような事は、馴染みがありません」


 え、そうなの? そういうものなの、こっちの面接って? いや、面接と言っているのは俺だけで、セバスチャンさん達はずっと面談と言っていたか。

 言葉の意味はともかく、日本での面接とは全く違うものだと考えた方が良さそうだ。

 こちらから質問して答えさせる、よいうよりも話し合ってお互いを見極めるような催し……と考えた方が良さそうだな。

 ……面接の経験、役に立たなさそうだなぁ。


「えーっと……それじゃ何を話したら?」

「そうですな……とりあえず、仕事内容などの説明から始めしましょうか。タクミ様に拘る事は伏せて、どういう役目を任せたいか、などを話すと良いかと。大まかには募集している時に伝えてあるはずですが、細かくは伝えておりませんので」

「わかりました……」


 ここでは、というか集団面接とかだとそれが普通なのかな? 経験した事ないからわからないけど、小声でセバスチャンさんと相談したようにしてみよう。

 放ったらかしにしていたら、一番の人がどうしたらいいかとキョロキョロしているし、他の人達も訝し気になっている人までいるようだから、長く相談してはいられそうにもない。

 俺に拘る事は伏せる、というのはギフトの事だろう……そこは雇う事になってから説明するべき事だから、ここでは伏せるのが正しいだろうな。


「んんっ! 失礼しました。えー……ここに集まっている皆さんは、何処で働くかなどは聞いていると思いますが、まず仕事内容などの説明をさせて頂きます」


 一度咳払いをして、集まっている人達に聞こえるように声を出しながら、戸惑っている皆の雰囲気を払しょくするように声をかける。

 チラリとセバスチャンさんを見ると、頷いていたのでこれで大丈夫だろう――。



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