第736話 リーザに変な疑いを持たれました



 夕食後、ティルラちゃんと一緒に剣の素振りを終えて、風呂に入って汗を流した後にベッドへ腰かけ、一息入れながら、隣に座るリーザと、近くでお座りしているレオを撫でながら呟く。


「……駅馬の事もそうだけど、かなり長く話したな。まぁ、俺に関する話が多かったし、重要な事だったけど……レオやリーザは退屈じゃなかったか?」

「ううん、よくわからなかったけど……凄い事をしてるんだなぁって思って聞いてた!」

「ワフワフ」


 リーザが理解できるような話ではなかったんだろうけど、それでもちゃんと聞いていて退屈はしなかったのなら良かった。

 レオの方は……なぜか満足そうに頷いているのは、話の内容を理解しているからだろうか? まぁ、今更か。


「ねぇ、パパ?」

「うん? どうしたリーザ?」

「うーんと……」


 頭を撫でられながら、こちらを見上げているリーザは、何か聞きたい様子……深刻な事ではなく、単純に疑問に思っている事を聞きたいようだ。

 けど、本当に聞いていいのか迷っている様子でもあるな、どうしたんだろう?


「えっとね……パパって、人間じゃないの?」

「うぇ!? ど、どうして、そんな事を? 俺は人間……のはずだけど……」

「うんとね、さっき話していた時にね? パパ、ママと一緒にどこかから来たって言ってた。なんか、こことは違うどこかからって……でも、どうやって来たかもわからないけど、こことは違う所って言ってたから、もしかしたら人間じゃないのかなって……」

「うーん、どうしてそう考えたのかはわからないけど……確かに、俺はこの世界……リーザやクレア、ティルラちゃん達がいるこことは違う場所から来たんだ。けど、人間じゃないなんて事はないからな?」


 子供の思考って、時折突飛もない方向へ行く事があるけど、まさか人間かどうかを疑われるなんておもわなかったな……。

 ともあれ、考える方向性はさておき、リーザなりに俺達の話を聞いて考えた結果なんだろう。

 今まで異世界からとかそういった話は、リーザにはしてなかったからなぁ……小さいなりに色々と考えてしまったのかもしれない。


「そうなの? パパも、リーザと一緒で他の人達とは違うのかなと思っちゃった。そうだったら、もしかするとパパがいじめられて、かわいそうだから……」

「そうかぁ、心配してくれたんだな……リーザは優しい子だ。大丈夫、俺は人間だし、クレアやこの屋敷の人達も含めて、周りにいる人達は皆優しいから、イジメられたりする事はないよ。それにもし、俺やリーザが他と違うからってイジメられたりしたら……」

「ガウ!」

「な? レオ……ママがそれを許さないって」

「うん! パパは大丈夫だし、ママもいるから安心だね!」

「もちろんリーザも安心だ。何かあれば、すぐ俺やレオに言うんだぞー?」

「ワウー」

「わかった!」


 うんうん、リーザは素直で優しい子だ。

 俺が異世界から、というのはよく理解できてないみたいだけど、他とは違うと考えて自分と同じように、誰かからいじめられないかと心配させてしまったんだろう。

 もちろん、俺がいじめられる事なんてないし、その時には剣の鍛錬を見せる時……と思ったが、リーザは俺よりも強い可能性があるので、より安心できるようにレオに視線を向けると、威嚇するように牙を見せて小さく吠えた。

 レオに頼り切りじゃいけないのは確かだが、こういう時はやっぱり頼りになる相棒だ……もちろん、なんでもない相手にレオをけしかけたり、シルバーフェンリルだという事を前面に出して、相手を威圧したり脅したりなんて事はしないけどな。


 それにしても、やっぱりリーザはいい子だなぁ……自分の事よりも、俺の事を心配してくれるなんて……。

 ディームの事は一応片が付いたけど、もしこの先リーザを獣人だからとイジメる輩がいたら、レオと一緒に乗り込んでやろう……なんて心の中で親バカ全開にしながら決心した。

 ……レオをけしかけたり、脅しに使わない? それは罪もない人に対しての事で、リーザをイジメたり差別する罪深い相手には、遠慮は必要ないだろうからな。

 我ながら、エッケンハルトさん以上の親バカになっている自覚はあるが、リーザにはもう我慢させたり悲しい思いはして欲しくないからな。


「ワウ。ワフワフ」

「ママもありがと。にゃふ!」

「こらこらレオ、あんまりやりすぎるなよ?」

「ワフ!」


 レオがリーザの顔に鼻先を寄せ、安心させるように鳴いた後、ぺろりとひと舐め。

 リーザはじゃれ合っている感覚で、喜んでいる様子だが、舐められすぎると顔を洗って来なきゃいけなくなってしまうから、程々にしておくようレオに注意する。

 とはいっても、家族団らんのような雰囲気を壊さないよう、軽くだけどな……レオもそれがわかっているのか、素直に頷いて頬を摺り寄せるようにしていた。


「ん?」

「ワフ?」


 しばらくじゃれ合った後、あんまり長い話しをしていても寝るのが遅くなるので、そろそろ寝ようか……と考えていた頃合いに、部屋の扉が外から小さくノックされた。

 俺とレオは気付いたけど、リーザはレオに抱き着いて毛の感触を楽しむのに夢中で、気付いていないようだ。


「タクミさん、レオ様、リーザちゃん……まだ起きていますか?」

「この声は、ティルラちゃん?」

「ワウ」

「ティルラお姉ちゃんだー」


 扉の外、廊下から聞こえて来たのはティルラちゃんの声……首を傾げる俺に、レオが頷いているから間違いないだろう。

 いつもは元気いっぱいではきはき喋るのに、聞こえて来る声はティルラちゃんらしくなく、小さめの声だった……夜だから遠慮しているのかもな。

 リーザは声には気付いたようで、ティルラちゃんが来た事を喜ぶように、くっつけていた顔をレオから離して満面の笑みだ。


「こんな時間にどうしたんだい、ティルラちゃん? っと、入ってもいいよ。俺もレオもリーザも、まだ起きていたから」

「はい、失礼します」

「ティルラお姉ちゃーん」


 扉を隔てたまま会話をするのもなんだしと、部屋に入るように言うと、遠慮がちにゆっくりと扉を開けてティルラちゃんが入って来る。

 中の様子を窺うようにしているから、やっぱり夜遅くに来たから、遠慮しているので間違いなさそうだ……元気がないとかじゃなくて良かった。

 入って来たティルラちゃんを見た途端、リーザはそちらにテテテ……と駆け寄って抱き着いた。

 今夜のリーザは、誰かに甘えたい気分なのかな。



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