第735話 話していなかった過去を話しました



「まったくセバスチャンは……タクミさん、本当に気にしていませんし、むしろそのままでいいので、落ち込まないで下さい。……あ、そうです! 先程、あまりレオ様と一緒にいられなかったと仰っていましたけど、以前はどうしていたのでしょう?」


 俺が落ち込んでいる様子を見て、無理矢理話題を変えたクレアは、俺のというより以前はどうやってレオと過ごしていたのかを聞きたがっている様子。

 話題を変える事が主目的なんだろうけど、クレアの表情を見る限りでは興味があるのは間違いなさそうだ。

 そういえば、クレア達に日本にいた時俺がどういう生活をしていたか、という話をした事がなかったっけか。

 今更ながらに、こんなよくわからない人間を屋敷に住まわせてくれているよなぁ……異世界からとかよく信じてくれたもんだ……エッケンハルトさんは、ユートさんの事を知っていたからだけど。

 レオがいた事と、初めて出会った時にクレアを助けた事が大きいんだろうけど。


「んんっ! えっと、以前はレオがこの大きさではなかった、というのは話したと思うけど……」

「えぇ。ランジ村にいた、犬と同じくらいと聞きました」

「正確には、あのマルチーズはまだ成長途中だから、もう少しレオの方が大きかったけど……まぁ、あまり変わりはないかな? とにかく、本当に俺が抱きかかえるくらいの大きさでした……」


 そうして、いい機会だと思った俺は、食堂にいる皆に日本で暮らしていた時の事を話して聞かせる。

 リーザ以外は、俺が異世界からという話を知っているので、驚く素振りは多くなかったけど、それでもレオの大きさだけでなく、俺が下っ端でこき使われていたうえ、体を壊しかねないくらいに働いていた事を驚いていたようだ。

 まぁ、休日がほとんどない状態で朝から晩までどころか、朝から翌朝近くまで働いていたとか聞いたら、驚くのも無理はないか。

 ほんと、レオのご飯を用意するだけに自宅へ帰って、寝る事なく出社とか……今考えても無茶だったよなと思う。



「成る程……そういった事があったからこそ、雇う人員には休日を用意しようと考えているのですね?」

「まぁ、働く事ばかりで自分の時間が取れないだけでなく、体を休める時間がないというのは、想像以上に辛い事だからね。それに、人に働かせておいて、自分がゆっくりしているというのも落ち着かないだろうから……」


 俺の過去の経験を聞いて、週休二日制を導入する理由に納得がいった様子のクレア。

 見れば、食堂にいる他の人達も頷いているみたいだが……シェリーとリーザだけは首を傾げていた……まぁ、ちょっと難しい話だったかな。

 自分が落ち着かないというか、人にばかり働かせるのができないと言った方が正しいのかもしれない。

 とはいえ、ちゃんと皆が休日を取って休んでいるというのであれば、俺が休みの日でも他の人が働いている状況に思う事はない。

 

「要は、シフト制というか、交代で働こうという事なんです。畑で植物を相手にするので、二日も何もしないというのはいただけませんからね」

「そうですな……必ず誰かが見ていなければ、という程ではないでしょうが、それでも二日も放っておく事はできないでしょう」

「はい。なので、五日働いて二日休みというのを、俺も含めてそれぞれ少しずらす形で実践し、誰かが休みでも誰かが仕事をしているという状況を作れればなと考えています。やっぱり、多く雇わないといけないでしょうけど」


 場合によっては、夜も様子を見る必要があったりもするから、全員一斉に休むという事までは考えていない。

 どこかのタイミングで一斉に休んだりする事があったとしても、基本的には誰かが仕事をしているという状況が望ましい。

 夜に関しては、今実験で家に薬草畑で栽培している薬草に関しては必要ないだろうけど、この先新しい薬草を作った時には見る必要があるかな? と思っているくらいだけどな。

 夜に咲く花、なんていうのもあるくらいなんだから、日が出ていない時に摘み取る必要があったり、手入れをしなきゃいけない薬草があってもおかしくないかも、という程度の考えだ。

 基本は植物相手だから、昼間の仕事がメインになると考えていいだろう。


「そうですな。休みが多くなる分、人は多く雇わなければならないでしょう。クレアお嬢様?」

「えぇ。――タクミさん、それはこちらの方でも少し考えてもよろしいでしょうか? 真似をすると思われるかもしれませんが、私の方でも同じようにしたいと思います」

「これは、俺が考え出したとか、そういう事ではないので、構わないよ。クレアの方とこちらで、合わせた方がいいのもわかるから」


 セバスチャンさんが頷き、クレアも同様にしようと考えているようで、確認をされる。

 週休二日制なんて、俺が考え出した事じゃないからな……俺には縁がなかったが。

 ともあれ、別に真似をしたってかまわないだろうし、やる事が違っても薬草畑を運営して作った薬を売るという流れは変わらないんだから、近いやり方の方がやりやすいだろう。

 ……俺の方だけ週休二日にしたら、文句が出るかはともかく、羨ましがる人がいたりもするだろうし、すれ違いのような事だって起こる可能性があるからな。


「わかりました。私の方で人を雇う段階になるまでに、まず考えてみますね」

「タクミ様の方は……そうですな、もう一度給金も含めて詳しく考えて、決める事としましょう。ここでこうして話すだけでは、詰められていない部分もあると思いますので。それに、面談を予定している者達も含めて、募集している人員にはこの事がまだ伝わっておりませんからな。……また多くの応募がありそうです」

「すみません、手間を増やしてしまって」

「ほっほっほ、いいのですよ。こうして様々な話を検討し、新しい事に臨むのいうのは楽しい事です。ふむ……まだ若い執事達の教育のため、詳細は任せてみましょうか。タクミ様の執事が決まり次第、そちらに受け継いでもらうとしましょう」

「はい、よろしくお願いします。けど……楽しいのに、セバスチャンさんは担当しないんですか?」

「私は、駅馬の方がありますからな。あれは中々斬新な提案でした。収支の試算や宿に関してなど、考える事が多くあります」

「あははは……」


 セバスチャンさんは楽しそうだが、その目は笑っていない事から、真剣に取り組んでくれているのがわかる。

 ちょっとした思い付きではあったんだけど、皆がもう少しだけ便利に街や村を行き来できるようになればなと思う。

 まぁ、おかげで執事さん達の仕事を増やしてしまっているようだから、俺は苦笑しながらお願いするしかできないんだが……今更、提案を取り下げるとかできない。

 セバスチャンさんとクレア、かなり乗り気だから――。



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