第683話 ユートさんが皆を集めました



「それで、伝える事って? 俺じゃないなら、エッケンハルトさんかな?」

「ハルトにも伝えなきゃいけないけど、別の人だね。アンネリーゼ・バースラー……だったかな?」

「アンネさんに?」


 ユートさんがラクトスを目指していたのは、アンネさんへ伝える用があったからという事か。

 アンネさんとユートさん、接点はなさそうだけど……。


「なんの事かわからないって表情だね。薬と病と伯爵家って言えばわかるかな?」

「あ!」


 そういえば、伯爵家のやった事に関して王家が調べているって、以前エッケンハルトさんが言っていたっけ。

 悪巧みをしていた店の人達を捕まえて、ランジ村も守ってアンネさんが直接謝罪済みだし、なんとなく終わった事のように思っていたけど……考えてみれば、アンネさんの父親が首謀者だから、全てに決着が付いたとまでは言えないのか。

 確か、エッケンハルトさんは爵位の降格で済ませてくれるよう、王家に頼んだとか、そのためにアンネさんを連れているとか言っていたから、穏便には済ませてくれるんだろうけど……。


「それ、俺も聞いたりはできないかな?」

「あまり多くの人に広める事じゃないけど、タクミ君なら構わないよ。関係者だしね。えーと……そこの執事さん?」

「はい。なんでございましょうか?」

「手間だけど、今から言う人物を……そうだね、昨日話した村長の家に集めてくれるかな? また、村長の家を借りる事になってしまうけど」

「畏まりました……」


 セバスチャンさんに声をかけたユートさんは、俺だけでなくエッケンハルトさんやクレアさん、ハンネスさんを指名した。

 俺は薬草を作ったり、事態の発覚や対処をした関係者として、ハンネスさんは村を襲われた被害者としてだ。

 エッケンハルトさんとクレアさんは、他領の貴族が公爵領を脅かしたとして、呼ばれるのは当然。

 もちろん、アンネさんは話す対象なので最優先だ。


「セバスチャンさんに任せれば、すぐに皆集まるか。――レオ! ちょっと用事があるから離れるけど、こっちは頼むよ! 大丈夫だろうけど、危険な事はするなよー!」

「ワウー!」

「「はーい!」」

「キィー!」

「……セバスチャン?」


 集める人を聞いて、俺達から離れたセバスチャンさんを見送り、レオ達に声をかけてハンネスさんの家に向かう。

 レオやラーレがいるから危険な事はないだろうし、楽しそうに遊んでいるからあちらはこのままにしておこう、少し離れてライラさんやフィリップさん達が見守ってくれているしな。

 ちなみに、セバスチャンさんの名前に首を傾げたユートさんは、やっぱり俺と同じく執事らしい名前だと頷いていた……ハンネスさんの家に向かう間、その話ばかりだった。

 喜々として説明してくれるのは羨ましい、とも言われた……色々な知識で説明してくれる人がいるのは、右も左もわからないこの世界に来た俺にとって、頼もしかったのは間違いないか。



「ユート様、全員揃いました」

「うん、ありがとう」

「……」


 ハンネスさんの家、昨日皆で話していた所に集まる。

 皆、集められた理由をそれとなく聞いているようで、少し緊張気味だ。

 特にアンネさんは、一人ユートさんの向かいで座らずに立っているだけあって、体ががちがちに固まっている様子。

 クレアさんは、そんなアンネさんの様子を心配そうに見ているな、注意する事は多いけど、やっぱり友人とも言える間柄だからだろうな。


「えーと、アンネリーゼ・バースラー」

「……はい」

「今回、伯爵家は他領である公爵領に対し、敵対的とも言える行いをした。まぁ、ここにいる人達は何をしたのか知っている人達だから、詳しくは省くけど……」

「閣下、面倒なだけですよね?」

「……決して面倒ではない、という事にしてね? んんっ! ともかく、伯爵家の行いは王家が調べた。まぁ、公爵家に対する事以外でも、自領の民に対しても貴族としては罰せられる事もあった」


 やっぱり、アンネさんの父親は他にも悪い事をしていたか。

 薬や病に関してがアンネさんの発案とはいえ、元々そういう事をしている人じゃなければ、思い切って他領……それも街や村の人達を苦しめるような事は、実行しないだろう。

 

「……父が首謀者といえ、今回の事は重く受け止めていますわ」

「うむ。まぁ、実際にこの村で民に対して謝意を示しているのは僕……私も見ている。本来であれば、伯爵家そのものを取り潰し、別の貴族家を立てる所なのだが……」

「……はい」

「閣下……」


 ルグレッタさんのツッコミをいなして、咳払いをして気を取り直すユートさん。

 アンネさんは沙汰を受けるとあって、重く頷き、その場に伏して頭を垂れ、エッケンハルトさんが眉間にしわを寄せてユートさんに呼びかけていた。

 初めて会った時は、父親がやった事であって、提案はしても自分は関係ない……という様子だったのに、しばらく公爵家の人達と一緒に過ごして、多少は考えが変わっているようだ。

 まぁ、考えが変わっていないと、ランジ村の人達やハンネスさん相手に謝るなんてしないか、何度かアンネさんとは一対一で話したけど、それも影響しているのであれば、俺なりに話した甲斐がある。


「わかっている、ハルト。――アンネリーゼ・バースラー」

「はい!」

「先程も言ったように、本来であれば伯爵家そのものを取り潰すべきところだが、今回はハルトの要請もあってな。恩情を与えようと思う」

「恩情、でございますか?」

「そうだ。まぁ、さすがに伯爵本人には与えられないがな。自領の民や他領の民まで苦しめた、という責を負わねばならん。だが、そなたは確か……二十だったか?」

「十九にございます、閣下」


 首を傾げるユートさんに、エッケンハルトさんがアンネさんの年齢を教える。

 アンネさん、俺より年下だったのか……てっきり同い年くらいかと思っていたけど、一つ違いならあまり変わらないか。

 どちらにせよ、この国では確か十五歳で成人のはずだから、大きく変わらないか。


「まだそなたは若い、これまでの事を悔い改め、民のために邁進するのであれば、というところだな。会うのは初めてだが、他の王家の者達より聞いていたのは、罪の意識に薄い事だったが……目にしてみるとその様子もない。ハルトに任せた事が、良い方向へ働いているのだろう?」


 ユートさんは、恩情と共にアンネさんを窺うように言葉をかけた――



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