第682話 獣人について話をしました



「まぁ、異端の技術……別の場所からの技術というのは、また今度詳しく話すよ」

「何があって何がないのか、わかっていない事も多いから、助かる」

「うん。まぁそれはいいんだけど……」

「ん?」


 ふと、走っている方を向いたユートさん。

 あちらに何か気になる事があるのかな? レオとか?


「昨日も見てて、話しをし忘れていたんだけど……あれ、獣人だよね?」

「あぁ、リーザの事か。獣人で間違いないと思う。エッケンハルトさんや他の人達もそう言っていたし、そもそもに耳や尻尾があるから」

「そうかぁ……まぁ、レオちゃんがいるから不思議とまでは言わないけど、この辺りでは珍しかったと思うんだよね。獣人の国はこの国の北……南に位置する公爵領では、ほとんど獣人はいないと思ってた」


 ユートさんの疑問は、リーザに関する事だったみたいだ。

 リーザを保護した時に聞いたけど、国の南に位置するリーベルト公爵領では、ほとんど獣人がおらず見る事も珍しいらしい。

 一切見ない……という事ではないのかもしれないけど、北側に隣接している関係上、以前戦争があった事もあって、こちらまで来る獣人はほぼいないと考えていいんだろう。


「リーザは、ラクトスの街で出会ったんだ。最近の事なんだけど、拾って育てられてたらしくて……でもその育ててた人が亡くなったから、代わりにね。レオが保護したがっていたし、いたのがスラムだったっていうのもあって、放り出すわけにもいかなくて」

「そうかぁ。うん、それは保護したくなる境遇だろうね。スラムでの生活は……した事はないけど、見た事はあるから、過酷なのは想像がつくよ。まぁ、この公爵領ではスラム自体少ないみたいだし、僕が見たのよりはマシかもしれないけどね」


 ユートさんが見たスラムでの生活と比べて、リーザの方が過酷だったかはわからないが、それでも年端も行かない女の子がスラムの親玉から標的にされ、命は取られないまでもいじめられていたと考えると、過酷さに大きな違いはないように思える。

 今は笑顔いっぱいで、食べる物に心配せずレオに乗って遊んでいるから、変な同情をされないよう詳しく話すつもりはないけど……いずれ本当の親を探す時には、協力してもらうようお願いするかもしれない。

 捨てていった親だから、リーザをその親に……というのは一切考えていないけども。


「獣人かぁ……懐かしいな。以前、立派な尻尾を持った獣人に触らせてもらったけど、あれは癖になるよねー。レオちゃんも相当だけど、あれも中々……」

「……リーザの許可があれば、触ってもいいと思う。けど、変な事を考えたりは……」

「変な事なんて考えないよ! 僕の趣味はそっちじゃないからね」


 そっちじゃないと言うなら、どういう趣味なんだろうか……? という問いは、離れてこちらを見ているルグレッタさんを見て納得。

 強く当たられたり、素っ気なくされるのが好きなんだっけな……それも十分特殊な気がするけど、人の趣味にケチをつけるような事はしたくない。

 ……危険な趣味という程でもないしな。


「というか、ユートさんは獣人にあった事があるんだ?」

「まぁ、これだけ生きていたらね。それに、戦争が起きるまでは国交も盛んで、こちらに来ている獣人も珍しくなかったから。南側のこちらでは、それでも珍しかったけど……ほとんどいないとまでは言えないくらいだったかな。そもそもシルバーフェンリルも関わっている以上、獣人がこの国に害意を示す事は基本的にないよ。それでも戦争が起きちゃったんだけどね」

「へぇ~。やっぱり、リーザのような耳や大きな尻尾が?」

「うーん、それは獣人によりけりかな。ほら、あのマルチーズみたいに垂れ耳のもいたし、うさぎみたいに小さくて丸い尻尾もいたよ」

「そうなんだ……」


 人間によって容姿や体型が違うように、獣人も耳や尻尾が違ったりするものらしい。

 以前はもっと獣人を見る事があったのか……それでも南側では少なかったみたいだけど、今よりは見る事ができたんだろう。

 戦争か……国交が盛んだったのはそれ以前らしいけど、そもそもなんで親交のあった国と戦争になったんだ?


「戦争って、昨日聞いたようにこの国を狙って攻めてきたり? いや、教えられない事なら、無理に聞かないけど」

「いやー……あれはちょっと違うかな。一応、王家の恥になるから詳しくは省くけど、結局こちらが悪かった事だからね。戦争を仕掛けられるのも無理はないよ。あの時は一人で旅をしてたから、戦争が開始されてから事情を知って、急いで止めに入ったなぁ……獣人の国にも頭を下げたしね。おかげで、いつでも重要な連絡ができるよう、ルグレッタのようにお目付け役もついたんだけど」

「こちらが悪かったんだ。獣人が何か悪巧みしてとかじゃない、か……少し安心したかな」


 まぁ、こちらが悪かったために、国との争いに発展したんだから、安心というのも少し違うかもしれないけど、少なくともレオと一緒に楽しそうにしているリーザ……それと同じ種族である獣人が、この国に害意を持っていないというのは、いい事だ。

 リーザと一緒にいるからというのもあるんだろうけど、なるべくなら獣人とは争いたくない。

 俺が戦争に出るとかそういう話ではなく、自分と同じ人間と、リーザと同じ獣人が争うのはなんというか……想像でもいい気はしないから。

 それに、種族間で憎み合うというのは、レオやラーレ、ティルラちゃんやリーザを見ていると不毛にしか感じないから。


「あ、ルグレッタで思い出した。伝えておかなきゃいけない事があったんだ」

「伝えておかないといけない事?」

「一応、関係はしてるけどタクミ君にじゃなくてね。本来、それを目的にラクトスに向かっていたんだけど……そっちに行けばハルトがいるって聞いたから。シルバーフェンリルの目撃情報を聞いて、この村に寄っただけなんだよね。まぁ、ハルトやタクミ君に会えて、結果的には良かったんだけど」

「それは……ルグレッタさんに怒られたんじゃ……」

「もちろん、近いとはいえ寄り道だから、色々言われたよ。しかも人を凍らせるような冷たい目で見てまで……ゾクゾクするよね!」

「そこで嬉しそうにされても……」


 ユートさんの特殊な趣味は、俺にはついて行けないから同意を求められても困る。

 俺だったら、ルグレッタさんに冷たい目で見られて怒られたら、恐縮したり謝っただろうなぁ――。


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