第671話 公爵家初代当主様の事を聞きました



「……閣下や先代当主である私の父から話を聞きましたが、公爵家初代当主様の事ですな」

「そうそう、その初代当主様っての。いやー初めて会った時は驚いたなぁ。シルバーフェンリルと仲良さそうにしているんだから。そうそう、ちょうどタクミ君とレオちゃん? と近かったかな。まぁ、あっちは友達といった感じだったけど」

「初代当主様……」


 クレアさんから聞いた話に出てきた人だ。

 シルバーフェンリルと対等の関係を築き、戦場で戦果を挙げて公爵にまでなったとか……ユートさんの話を聞いていると、クレアさん達の話はちょっと格好良く整えられたんだろうな、という印象になってしまうけど……。

 というか、エッケンハルトさんは知っていたのか、ユートさんの詳細が一部の人間にしか教えられないために、クレアさんやセバスチャンさんは口伝や伝説で伝わっている内容しか知らないんだろう。

 というか、この話俺も知っていていいのかな? エッケンハルトさんより偉い人なのに、敬語すら使ってないし……今更か、本人もそれでいいと言ってくれているし、ルグレッタさんからも注意されないから、気にするだけ損だろう。


「名前はなんだったかな……あぁそうそう、ジョセフィーヌさんだ。美人で穏やかな人でねぇ……さっき似た人を見かけたけど、あれはハルトの娘かな?」

「はい。娘のクレアです」

「そうかぁ、血を濃く受け継いでいるというか、佇まいは似ていたかな? 随分前の事だから、記憶があいまいだけど……」

「初代当主様は、ジョセフィーヌという名なのか。でも、俺やレオとは違って、なんでその人はシルバーフェンリルと一緒にいられたんだろう? 人間が敵わないだけじゃなく、人に近付かないとさっきユートさんは言っていたけど」

「ギフトのおかげって言っていたよ。まぁ、本人は僕と会うまでギフトの事を知らなかったみたいだけど」

「……という事は、ジョセフィーヌさんは?」

「タクミ君の考えている通り、異世界から来た人間だね。確か……ヨーロッパのどこかの国にいたって、聞いた気がするよ」

「ヨーロッパ……」


 フランスとか、イタリアとかだろうか? クレアさんに似ていて、その名前なら確かにそちら方面というのも納得できる。

 日本名ならともかく、海外の人の名前に詳しいわけじゃないけど、なんとなくの感覚だけど。


「初代当主様が、タクミ殿と同じく異世界から……初耳です」

「あれ? ハルトには言ってなかったっけ? あぁ、本人がこの世界で暮らす以上、以前の事はあまり関係ない……とか言っていたんだっけ。異世界から来た人間の子孫が、異世界から来た人間と出会う……なんだか運命的だねぇ」

「は、タクミ殿の話は聞いていましたが、我が公爵家にそのような由来があったとは……初代当主様がギフトをというのも知りませんでした」

「なんか、自分をあまり持ち上げるような話は、好きじゃないみたいだからね。ごく近しい人にしか、ギフトの事は話していなかったんだと思うよ。僕は、この世界で初めて会った人間だったからだけど」

「伝わっている話は、年代を重ねていくごとに少しずつ変わって行ったのかもしれませんね。噂でも、数人を挟むだけでねじ曲がったりしますから」

「……そのようだな。初代当主様の事は、驚きばかりだ。知らない事が多過ぎる」

「まぁ、ハルトと会うときは僕の事や、他の事で落ち着いてジョセフィーヌさんの事を話せなかったからね。それに、クレアさんだっけ? あの子やレオちゃんを見て思い出した、というのもあるから。国を作ってまだ荒れていた頃だから……大体五百年くらい前だしなぁ」

「五百年……」


 やっぱり、話しのスケールがおかしい……そりゃ、五百年前の事なら忘れていてもおかしくないか。

 エッケンハルトさんも初耳だった事が多いらしく、さっきから驚いてばかりだ、俺もだが。

 今話した事の中では、ジョセフィーヌという名前くらいしか正確に伝わっていないんじゃないかな? あと、シルバーフェンリルと一緒にいた、という部分くらいか。

 クレアさんの話でも名前は出て来なかったから、もしかしたらそこもなのかもしれないけど。


「その、ジョセフィーヌさん? 初代当主様のギフトというのは、どういうものだったんだろう?」

「えぇと確か、『疎通言詞』だったかな」

「『疎通言詞』?」


 なんとなく、疎通とある事から意思疎通とかに近い響きを感じる。

 げんしは……言詞、とするなら言葉に関する事のような気もするから……。


「もしかして、話をする事ができるギフト……ですか?」

「正解。知性を持つ相手なら、種族問わず誰とでも正しく話をする事ができるようだったね。それこそ魔物が相手でも……さすがに、オークとかは無理だったけど」


 当たったけど、誰とでも話せるという事は、シルバーフェンリルとも正しく話ができたんだろう、なんとなくでレオが言っている事がわかる俺とは、違うようだ。

 知性がなければ、いくら言葉が通じたとしても相手が理解できないだろうから、オークに通じないと言うのも当然だろうな。


「では、そのギフトで初代当主様は、シルバーフェンリルと?」

「そうみたいだね。副効果に、ギフトで言葉が通じる相手は清聴するという効果もあったみたいだから、おかげでちゃんと話せて、仲良くなれたみたいだよ。興奮する相手には無理だって言っていたから、さすがに戦争で使ったりはできなかったけど……交渉事には便利そうだったなぁ」

「交渉事、確かに清聴してもらって、こちらの話をじっくり聞いてくれるのなら、使えそうだ」


 エッケンハルトさんの言葉に頷き、ギフトの効果を教えてくれるユートさん。

 清聴か……俺も仕事でその能力が使えたらなぁ、忙しくて取引先がこちらの言う事をまともに聞いてくれないとか、俺のミスではないのに決めつけられて、こちらの話を無視して怒られる時に役に立ちそうだ、営業とかでもかな?

 まぁ、この世界に来たからこそ得られた能力だし、羨ましく思っても今更か。


「僕が見つけた時は、シルバーフェンリルやフェンリルと一緒に、森に暮らしていたから、随分役に立っていたんじゃないかな?」

「森に? シルバーフェンリルと一緒にという事は、もしかして……?」



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