第670話 長寿で済まされる話ではありませんでした



 ユートさんの話を聞いて、難しいながらも少しは理解が進む。

 地球で数日違うだけで、十年くらいの違いが出るのか……。

 だとしたら、二年も違えばユートさんどれだけの時間をこちらの世界で過ごして来たのか。

 待てよ? 数カ月で二十年経っていなかったり、どうズレているのかわからないという事は、もしかしたら逆行して、ユートさんがこちらに来てからそんなに経っていないのかも?


 見た感じ、年上には感じるが俺とあまり離れていないようにも思う、おかげですんなり敬語で話さない事にも馴染めたけど、それはともかく。

 ユートさんと俺が近い年齢だとしたら、こちらでは数年程度の事なのかもしれない……だとしたら、十年や二十年と言った数字が出てくるわけないか、うーむ……。


「あ、そうそう。一つだけわかっている事があるんだけど」

「それは?」

「こちらの世界に来る時に、地球での西暦は過去には戻らない。つまり、僕がこの世界に来ている時点から先の時代では、地球で西暦が先に進んでいないといけないんだ。だから、もしこの先も異世界から来る人がいたとしたら、タクミ君がこちらに来た日付よりも後になっていないといけない」

「それって……でもそれじゃ、ユートさんがこの世界で何十年も過ごしている事に?」


 ユートさんの説明がちょっとわかりづらくて、全部を理解したわけじゃないが、とにかく地球で俺がいた日時より以前から、この世界へ来る事はない……という事だと思う。

 でもそうなると、少なくともユートさんは、さっき言った二十年以上を過ごしているという事になる。

 いや、数日や数カ月がこちらで数十年なら、二桁の年数できかない可能性だって……。


「僕、大体千年くらい生きているからね」

「は? いや、それはちょっと冗談としても……」

「冗談じゃなくてさ。この世界に来た時は、色々と苦労したなぁ……この国も、僕が作ったものだからね」

「えっと……」

「事実だ、タクミ殿。閣下が言われている通り、国父というべきお方なのだ。この国の歴史でも、名前が出て来るからな」


 千年とか、人間が生きられる年月の長さじゃない。

 さすがにこれは冗談だろうと思って、苦笑いしていそうなエッケンハルトさんを見ると、ゆっくりと首を振って否定……してくれなかった!

 ユートさんの話している事を肯定し、頷いていた……え、本当に!?

 ルグレッタさんも、ユートさんの後ろで頷いているし、一体どういう事なのか……。


「まぁ、色々あったんだって事だけ知ってもらっていればいいよ。あと、千年生きている理由は簡単。ギフトがあるおかげだね」

「ギフト? ギフトがあると、長寿になるとかですか?」

「ギフトがあれば、ただそれだけでってわけじゃないよ。あと、正確には不老だね、もうちょっとおまけで不死も付けて良かったんじゃないかと思うけど、さすがに無理だったねー。だから僕は、一応死のうと思えば死ねるんだけど……」

「閣下は、この国にとって失ってはならないお方です」

「……この通り、簡単には死なせてくれないみたい。まぁ僕も、簡単に死のうとは思わないけどね」

「はぁ……」


 なんでもない事のように言って、ルグレッタさんに冷たく言われて肩を竦めるユートさん。

 いやいやいや、不老ってそれだけでも十分凄い事なんじゃないか!?

 不死はなくとも、寿命はないし老いたりしないって事だ……ギフトがあっただけじゃ駄目らしいけど、もしかすると俺もユートさんのようになってしまっているのかもしれない……。


「あぁ、安心して。タクミ君は僕と同じじゃないから。そもそも、ギフトを持っている人全員が不老になれるんだったら、もっと世界にはギフトを使える人が多いはずだからね」

「そ、そうなんだ……」


 安心してと言われても……不老というのは地球での有史以来、権力者が欲していた(かもしれない)事だし、物語でもよく語られるものだ。

 のどから手が出る程欲しいと思う人は、大量にいるはず。

 俺は……よくわからないから、欲しいとも欲しくないとも言えないが……。


「さっきも言った通り、僕のギフトは『魔導制御』。これって、どんな魔法でも使えるんだけど……その中に不老になる魔法があったんだよ」

「ギフトがあったからっていうのは、そのためなんですね」

「うん。まぁ、使ってみたらギフトの過剰使用で、数日気を失っちゃったけどね。元々、人間どころか生き物に使える魔法じゃないみたいだ……シルバーフェンリルを除けば、だろうけど。あと、他人には使えない魔法だから、不老が欲しけりゃ自分でその魔法を使わなきゃいけない。まったく、どうしてこんな魔法が実在するのか……」


 やれやれと手の平を上に向けて、肩を竦めさせているけど……それを実際に試しで使ったのはユートさん本人だ。

 さらっとシルバーフェンリルなら使えると言っていたが、それは聞かなかった事にしよう、レオが使いたがるとは思えないし、俺には使えない魔法だから、気にするだけ無駄だろうから。


 とりあえず、よくわからない話は終わらせて、ユートさんの事を少し聞いてみる事にした。

 建国をした人だというのなら、なぜ紋章にシルバーフェンリルを使ったのかなど、ちょっとした雑談のようなものだ。


「あぁ、シルバーフェンリルと賭けをしてね、それで負けたから紋章に決まったんだ」

「シルバーフェンリルと? 賭けをする考えがよくわからないけど、シルバーフェンリルと話しができたんだ……」

「僕が直接話したわけではないんだけどね。隣にはいたかな? あれは確か、周囲に担ぎ上げられて建国した頃だったっけ。僕は国を作って王になるなんて、大それた事はできないと思っていたんだけど、今国のある地域を人間が住める場所にしたのは僕だからってね」

「はぁ……」


 雑談のはずなのに、話のスケールがいちいちデカイ。

 シルバーフェンリルと賭けをして、負けたから紋章にあしらわれる事になったという話から、国を作った当時の状況、さらには国になっている場所は元々、魔物が大量にいたりとかで魔境と呼ばれていたとか……それだけで一つの物語として成立しそうな程だ。

 嘘を言っているようには思えないけど、話半分で聞いていた方がいいのかもしれない……状況が今とは違い過ぎて、想像するのも難しいから。


「そうそう、賭けをしたシルバーフェンリルを初めてみた時、一緒に人もいたんだけど……ハルトの祖先、公爵家の初代当主になった人だったよね?」


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