第662話 村の人達に入れ知恵した人がいたみたいでした



 必要に応じてというわけだが、前もって予定地を決めておいた方がわかりやすいだろうと、広い場所が用意されているようだ。

 さらに、俺やクレアさんが住むための住居用の土地だが、は村の北端にある村長宅を、さらに北に行った村のはずれで、農地のすぐ隣。

 薬草を作るために、家から出てすぐの場所にした方が良いだろうとの配慮だ……通勤時間が短そうで、良かった。

 だが……この家を建てる予定地……。


「広すぎませんか?」

「そうか? こんなものだと思うが……いや、むしろ狭い気も……」

「そうですなぁ、本邸どころか、屋敷と比べても狭いですな」

「もう少し、広く用意した方がいいでしょうか?」


 ……この人達、特にエッケンハルトさんやセバスチャンさんに言っても、無駄だったか。

 実際に見るでもなく、周辺の地図で確認しているのだが、それによると俺達が住むための住居用地はランジ村の半分くらいが入りそうな広い土地だった。

 農地予定よりも狭いが……それでもさすがに、それは広すぎるだろう。

 確かに、屋敷は広い庭に大きな建物、さらに裏庭も広くて敷地面積で言ったらかなりの物だろうけど……体の大きなレオがいるからと言って、ここまでの広さは必要ない。


「レオ様も、走り回れる広さだぞ?」

「いえ……さすがにここまで広くなくても大丈夫です。それに、レオなら村の子供達と、遊んでいた方が楽しいでしょう」

「むぅ、そうか?」


 とりあえず、住居用地は再検討という事にしてもらい、もっと狭くしてもらうようお願いしておいた。

 あの敷地のままだったら、豪邸に広い庭と、維持費も膨大になりそうだからな。


「そうだ、村長。一つ聞いておきたいのだがな?」

「はい、なんでございましょう?」


 話し合いもそろそろ終わりかという頃、エッケンハルトさんが何かを思い出したように、ハンネスさんへ問いかけた。


「ウルフを扱う事や、犬の事。村の者達以外の知識も入っているのではないか?」

「え……どうして、それを?」

「従魔という言葉がすんなり出たからな。従魔は魔物を従えるためのもので、知られているが……村の者達から出るには少々不自然だ。民からすると、人を襲う魔物は脅威でしかないからな。一部、オークのように食料となるのもいるが……あれは例外だな」


 俺はこの世界に来てすぐ、クレアさんから従魔という言葉を聞いた。

 レオは従魔であるとは考えていないが、クレアさんやティルラちゃんと魔物を従魔にしている事から、身近にあって慣れている。

 けど、ラクトスの街では今のところ、魔物を従魔にして従わせているような人を見かけないし、一般的ではないんだろうというのはわかる。

 訓練をしている者でもないと、オークですら危険な魔物だから、戦って従わせる……なんてあまり考えないからだろう。

 そう考えると、確かにハンネスさんが急に従魔を、と言い出したのには違和感があるな……以前この村に来た時は、レオに対しても従魔という言葉は出ていなかったし。


「それに、犬もだな。珍しくもなく、人を襲うでもないので、親しみやすく知っている者も多いが……短期間で集められるとは思えん。誰かが入れ知恵をしたか……または連れてきたか、だろうな」

「……はい。その通りでございます。タクミ様がこの村から去った後、村の者達と話し合いをしていました。その時に、旅の者が訪ねて来たのです」

「ほぉ?」


 エッケンハルトさんの想像通り、ハンネスさん達がさっきのような考えになったは、誰かから知識を得たかららしい。

 そうか……以前来た時に犬はいなかったのは間違いないから、いつの間に集めたのかと思ったけど……そうだよな、レオのようにそこらに捨てられているわけでもないし、村の人達が集めようとしても、すぐに集められたりはしないか。

 でも、珍しくないってエッケンハルトさんが言っているけど、俺はラクトスの街ですら見た事がないんだが……偶然かな? 他では結構飼っている人がいるのかもしれない。


「その者は、私共が何かを悩んでいるとすぐに察し、相談に乗ってくれました。ただ、その者に指示されたとかではないのです。従魔という手段がある事も教えて頂きましたが、それはあくまで手段の一つとして。むしろその方は、魔物と関わる危険性を説き、手段として選ばないように言っておられたのです」

「全うだな。魔物を従魔にすれば、その魔物の力が手に入ると言っても過言ではない。だが、その代わりに危険が伴う。……クレアやティルラはまた別だが」

「まぁ、そこはレオがいた事が大きいんでしょうね」

「先程も申しましたように、それならば犬でまず慣れてみてはどうか……と考えたのです。それならばと、旅の者は一旦この村を離れ、犬を連れて来て下さいました。まさか本当に連れて来るとは思いもしませんでしたが……最初に話をしたのは、私が公爵様のお屋敷から帰った後になります」

「随分短い期間で、連れて来たのだな……」

「そこは、私共も驚きました。何か、特別な移動方法がある……と仰っておりました」

「以前の事もある。怪しんだりはしなかったのか?」

「最初は信用できるのかどうか、わかりませんでしたが……その……」


 以前伯爵領の商人に騙された挙句、魔物をけしかけられたのだから、村の人達はすんなりその人を信用はできなかったんだろう。

 誰かの紹介だとか、知り合いというわけでもないからな。

 だとしたら、どうして急に話を聞き入れるまで信用したのか……。

 急に口ごもったハンネスさんに、エッケンハルトさんだけでなく、俺やセバスチャンさんも首を傾げていた。


「これは……言っていいものかどうか……」

「……口外はせん。言ってみよ。もし何かあるのであれば、我が公爵家で責任を持とう」

「……わかりました」


 何か言ってはいけない事なのか、悩むハンネスさん。

 ここまで悩むのも少しおかしい……何か大きな問題でもあるのだろうか?

 脅されている、というわけじゃないよな……そんな相手を、この村の人達が信用するとは思えないし。

 エッケンハルトさんが請け負う事で、ようやく決心がついたのか、頷いてくれた――。

 


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