第661話 無理をしないようお願いしました



 ハンネスさんに話していると、途中からエッケンハルトさんが話に加わり、さらにまた俺へとふられる。

 こういった説明とか、話をするのはセバスチャンさんが得意だろうに……俺に話させるのは、これからの事を考えてなのかもしれないけど。


「薬草は、予定では最低でも公爵家の領地に行き渡らせる、と考えています。さすがに流通する全ての薬草をとまでは考えていませんが……多くをこの村で担う形になるかと。そしてさらに、新しいワインを作って売り出す事で、さらに商売をするうえでの重要性が、この村にも加わります。俺だけでなく、村の人達で取り組む事ですからね」

「はい……ワインの方は、皆で協力して作らせてもらいます」

「ワインが人気になるかどうかは……実際に売り出してみないとわからない部分がありますが、もしかすると大量に売れるかもしれない。新しいワインかもしれないし、今までのワインかもしれない。それはこれから次第ですが……どちらにせよ、多くのワインを作りださないといけなくなります。なので、この村の人達は犬くらいならいいかもしれませんが、無理をしてウルフを従えて、魔物に備えるような余裕はなくなるのではないかと」

「もう一つ言うとだな? タクミ殿の薬草は既に、公爵家が契約として取り扱う事になっている。さらに言うなら、兵士達にも融通するようにしているが……これは余談だな。そして新しく売り出すワインや、今までのワインも公爵家の管理下に置く事で、我が公爵家の利益となるわけだな。……ここだけ聞くと、私が独占しているように聞こえるか?」

「そうですな……公爵家の利益だけが前面に出ているので、それらが何をもたらす事になるのか、がわからないかと」

「ふむ……端的に言うとだな? その利益を得る事で、領地の皆が安心して暮らせるよう、取り組む事ができるのだ。街道の整備、魔物への対処のために兵士を増員。街や村での治安を維持するための費用など……だな」

「他にもありますが、大きく見るとそのあたりでしょう」


 結局のところは、薬草畑やワイン造りで忙しくなるかもしれないから、余計な事をしなくてもいい……という事だな。

 さすがに、言葉がきつすぎるので遠回しに言わせてもらったけど……。

 俺は以前に来た時、レオと遊んでいる子供達や、ハンネスさんから話を聞いた。

 村から離れる者がいたり、ワインを作るために子供との時間を持てなかったりといった話だ。


 エッケンハルトさんは、俺の薬草畑以外にもワイン造りの方で、人を雇うような事も考えているみたいだから、そちらでまた忙しすぎるという状態にはさせないようにするが、そこに村の人達が訓練というのも追加されると、結局手が足りなくなってしまうかもしれない。

 人を大量に雇っても、ワインの作り方を教える必要もあるから、すぐに手が空く状況にもならないだろうしな。

 あれもやってこれもやって……となると忙しない村になってしまうから、俺としてはそれを避けたいし、エッケンハルトさんもただ村の人達を忙しくさせるというのは、避けたいんだろうと思う。

 まぁ、既に犬を飼い始めているから、そっちの世話で手が取られてしまうだろうが……子供達とも遊んでくれたりもするだろうから、そこまでなら許容範囲といえるかな。


 だけど、さすがにウルフを従魔とするために、四足歩行の動きを勉強したり、訓練をしたりとまでなると、さすがにキャパシティオーバーだろう。

 もちろん、個人で空いた時間に鍛錬をするくらいなら、止める事はできないだろうし、趣味の範疇と言えるだろうけど。

 あとは多分、村そのものが自衛力を持ってしまったら、公爵家を信用しなくなったり離反や謀反を引き起こす可能性があるかも……というのは俺の考え過ぎか、ハンネスさん達がそんな事を考えるわけないしな。

 ただまぁ、前回のように魔物をけしかけられるという経験をしているから、警戒網のためにウルフを……と考えたんだろうなぁ。


「……そう、ですか。そこまでの事を考えていらしたとは……差し出がましい事を……」

「いや、その気持ちは嬉しく思うぞ。気に病む事はない。何かの役に立てないかと考えた結果なだけだ。これからは、タクミ殿と一緒に話し合って、村の方針を決めればいい」

「俺ですか?」

「今の事が言えるだけでも、十分にタクミ殿と話し合う価値があるだろう? なぁ、村長?」

「はい……タクミ様は我々の考え違いを指摘し、正してくれました。これからは、タクミ様の意見を聞きし、正しく村の者達を導いて行こうと思います」

「……俺の意見だって間違う事もあるはずなので、その時はしっかり指摘して下さい」

「畏まりました」

「村の者達が、まとまった意識を持つ事は喜ばしい事なのだが……時折こうして変な方向に行く事があるからな……まぁ、それを正すのが領主であり、その部下達なのだが。この村にクレアやタクミ殿がいてくれるのであれば、おかしな方向へ行くことはないだろう。私も楽ができそうだ!」

「あまり、そこを期待されても……薬草を作るくらいなら、能力でなんとかなるでしょうけど……というか、楽するためにですか……?」

「大丈夫ですよ、タクミ様。旦那様には、本邸へ戻った後きっちり働くよう、手配しておりますから」

「なん……だと!?」

「どちらにせよ、仕事か溜まっているはずなので、しばらく楽はできないと思われます」

「くっ……」


 セバスチャンさんの言葉で、がっくりとするエッケンハルトさん。

 俺でいいのかという疑問はあるが……クレアさんや俺がいて、この村の事はあまり気にしなくて良くなったとしても、エッケンハルトさんが楽になる事はなさそうだ。

 まぁ、公爵様だからなぁ……権力を持っているから贅沢をしたり、強権を振るえる立場にはあっても、それに伴っての責任や、やる事はいっぱいあるって事だ。


「ふむ……成る程な……」

「えぇ、それで今、そのための……」


 犬だとかウルフだとかの話が終わり、薬草畑での具体的な話に移る。

 顔を突き合わせてハンネスさんエッケンハルトさんと話して、どれだけの規模にするかなどを決めていく。

 まず、用意する農地は、予定通り村の北側……森と村の間で、かなりの広範囲だ。

 もちろん、最初から全てを使うわけではないけど、必要な薬草が増えれば耕したりなどで広げられるようにするためだ――。



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