第660話 ハンネスさんと話し合いを始めました



「して、あの犬達は一体どうしたのだ? 以前タクミ殿やセバスチャンが来た時には、そのような話はなかったはずだが……」

「はい。以前にはいませんでした」


 まずは、エッケンハルトさんから一番気になっている事の質問。

 以前来た時は確かに、影も形も見かける事はなかったのは間違いないと、セバスチャンさんが頷くのに合わせて、俺も頷く。


「前回、タクミ様とレオ様に村を救われてから、我々も村を守るためにはどうすればいいのかと考えたのです。もちろん、魔物に襲われた際に戦うのは我々なのですが、その前に近付いてきている事を知れないかと、村の者達と考えたのです」

「ふむ。確かに先に魔物が近くにいる事を知れば、逃げるなり、迎え撃つなりと準備ができるな?」

「はい。タクミ様に以前聞いたところ、レオ様は遠くの魔物も察知する事ができると仰っていました」

「確かに、以前話した気がしますね。多分、のんびりと過ごしている時の、雑談程度だったと思いますけど」


 あれは、ワイン輸送用の馬車を待っている時だったか。

 村の様子を見ながら、ハンネスさんと雑談したりして過ごしている時に、ふとそういう話になった気がする。

 ワインから病の気配を察知したレオは、嗅覚が優れているとか、そういう話の延長だったと思う。


「その事を思い出し、我々村の者達では知る事ができなくとも、他にできる者を探せばいいのかと考えました」

「それで犬を?」

「いえ……本当はウルフをと考えていました」

「ウルフか……確かに、人間よりは嗅覚などが鋭いだろうな。だが、村の者達がと考えるのは、いささか危険ではないか?」

「はい……村の北にある森に、ウルフが時折姿を見せるのですが……素早く、捕まえる事も中々できませんでした。深追いすると、我々の方が危険でもありましたから」

「そうだな」


 最初はウルフを使おうと思ったのか。

 ウルフという魔物を俺は見た事がないが、呼び名からして狼……フェンリルのような魔物だと思う。

 村の人達が挑戦しようと思ったくらいだから、フェンリルみたいに強くはないんだろうな。

 結局失敗したみたいだけど、とにかくハンネスさん達は、番犬が欲しかったという事だろう。


「そもそもに、ウルフを味方に付けるのであれば、従魔契約をしなければなりません。それで、まずは犬で慣れるのと同時に、村に住んでいる一部の者を鍛え、ウルフを抑える事ができるようになれば、と……」

「成る程な。犬はウルフほどではないが、大きくなれば素早い動きをしたりもする。虐げるわけではないが、それを見て獣型の動きに慣れ、鍛えた者達でウルフを取り押さえて従魔契約を……という事か」


 二足歩行の人間からすると、四足歩行の獣の動きって特殊に思えたりするから、犬を見てまずその動きを学ぼうと思ったのか。

 遠回りしているような気もするし、着実に進もうとしている気もして……なんとも言えない。


「はい。以前はタクミ様やレオ様、公爵家の方々に助けられましたが、我々の村は我々で守りたい……と思う者もいたようです。もちろん、感謝を忘れる事はありません。それに、タクミ様やクレア様がこの村に移り住むと聞いて、決心致しました」

「俺やクレアさんが、ですか?」


 自分達の村は自分達で守りたいと思うのは、愛着があるからで悪い感情じゃないはずだ。

 だけど、俺やクレアさんが来るのが、決心するきっかけになるというのは、どういう事だろう?

 以前にも話した事だけど、クレアさんのための護衛さんは当然連れて来るのだし、レオやシェリーもいる、まだまだ力不足だが、一応俺もな。

 以前より安全になると考えてくれるかな、と思っていたんだが……。


「以前は急な事ではありましたが、我々が助けてもらいました。魔物からもそうですし、病からもです。ですので、今度は私達がお助けできればと……何かできる事はないかと、村の者達で考えたのです。もちろんながら、公爵様に言われたように、ワイン作りは再開させるようにしております。……まだ、こちらは次のブドウがありませんので、準備だけとなっていますが」

「ふむ、成る程な。村長の気持ちや、我が公爵家だけでなく、タクミ殿やレオ様の事を思ってだという心意気はわかった。だが……なぁ、タクミ殿……どうする?」

「え、俺に聞くんですか?」

「私が治める領地での事ではあるが、ここに住むのはタクミ殿だからな。クレアがいたら、そちらなのだが……今はタクミ殿の意見を聞きたい」

「はぁ……わかりました。えっと……」


 ハンネスさんの話を一通り聞いた後、エッケンハルトさんから俺にふられる。

 まぁ、実際に薬草畑をやるのは俺だし、ここに住むのもそうだ、それに、クレアさんと違ってこの村で薬草を作るのも俺だからな、この先ハンネスさんと話し合う事は多いだろう。


「えーと、とりあえずですが……まず、俺達のために頑張ろうとしてくれたのは嬉しいです。それだけ、ハンネスさんだけでなく村の人達からも、受け入れられているという事ですから」

「はい」

「ですけど、村を守るだけならともかく、俺やクレアさんは自分で……というのも語弊がありますが、レオや護衛の人達がいてくれるので、村の人達が頑張らなくてもいいんです。それこそ、今度同じように魔物が襲ってきたら、レオがいてくれますから。リーザ……は別として、俺もエッケンハルトさんから剣を習って、以前よりもオーク程度なら対処ができるようになっていますから」

「それに、護衛を付けるのは何も、クレアのためというわけではない。タクミ殿やレオ様がいる事、薬草やワインを作る事で、この村はこれまで以上に我が領地として重要な役割を持つ」

「重要な役割、ですか?」

「うむ。タクミ殿は、わかるか?」

「また俺ですか? まぁ、なんとなくは……」


 村を守る、そして俺達の事も……というのは嬉しく思うし、村の人達がそれだけ歓迎してくれての事だろう。

 けど、それは無理をさせる事になってしまうし、元々戦う事が本分の人達じゃないからな。

 ライ君のような、子供達が自発的に強くなろうと鍛錬し始めた……とかであれば、微笑ましく見られるんだが、ワイン作りをやってもらう予定の人達に、無理をして戦えるようになってもらう必要はないはずだ。

 俺はレオと一緒に楽しく遊んでくれていた、この村の事が好きだから……村の人たちが無理をしてしまうような事は避けたいからな――。


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