第659話 犬がレオに対して突っかかっていました



「キャンキャン!」

「ワン!」

「ワウ? ワフワフ」

「人気者だなぁレオ。……しかし、全然怖がらなくなったな」


 とりあえず、エッケンハルトさん達がランジ村に到着しての歓迎や、挨拶だけを済ませて、交流タイム。

 ランジ村の人達は数匹の犬を連れており、その犬達はレオに興味を持ったり怯えたりと様々だったが、レオが近付いて顔を舐めるとすぐに懐いた。

 ……服従したとも言えるかもしれない。

 前に来た時には、犬はいなかったんだけどなぁ。


 その後は、犬達にレオが群がられている状況を、村の人達と俺やエッケンハルトさん達で、微笑ましく見ている。

 一部、まだ耳付き帽子を付けているから、一種異様な光景かもしれない。


「キャゥ?」

「遊ぶのなら、いいわよ?」

「キャゥー!」

「シェリーも、一緒に遊びたかったんですね。――ほら、リーザも」

「うん、パパ行って来るね!」


 クレアさんに抱かれていたシェリーは、レオと犬達の様子を見てウズウズしながら、訴えるように見上げた。

 許可が出て、地面に降ろしてもらったシェリーは、嬉しそうに尻尾を振りながらレオの所へ飛び込んで行く。

 犬やらシルバーフェンリルやらがいるが、なんとも平和な光景だ。

 同じくリーザもウズウズしていたので、背中を押して促してやると、シェリーと同じように大きな尻尾をフリフリしながら駆けて行った。


「ワウ……ワフ?」 

「キャン! キャン!」

「……おや?」


 レオと戯れている犬達の中で、一匹だけなぜか敵意のようなものを向けて、レオに体当たりしたり噛み付こうとしているのがいた。

 ただ、大きさの差があるのと、シルバーフェンリルの銀色に包まれているレオには、痛くもかゆくもなさそうだったが……。

 その犬は、まだ子供なんだろう……片手で持ち上げられそうなくらい、小さな体に真っ白な毛を生やしている。

 なんとなく、昔を思い出すな……おっと、あのままレオに突撃してたら危ないな。

 レオがじゃなく、体格差があり過ぎるあの犬がだけど。


「おいでおいで―」

「……? アン!」

「おーよしよし……」

「ワフ?」

「グルルルル……」

「こらこら、レオには絶対敵わないから、仲良くな?」

「アン!」

「ワゥ……」

「レオも落ち込むなよ……慣れたら懐いてくれるさ」


 レオの所に近付き、手を叩いて気を引きながら、突撃していた犬を呼ぶ。

 こちらを向いた犬は、一度首を傾げた後尻尾を振って駆けてきた。

 レオには突撃していたのに、人懐っこいな……。

 犬を抱き上げて撫でている俺に、落ち着いた? というように鼻先をレオが近付けたら、牙を剥きだしにして唸っているが……種族とか以前に、大きさが違い過ぎて絶対敵わないから、仲良くするように言いながら、落ち着かせるために体を撫でてやる。


 落ち込んだように声を漏らすレオも、慰めておくのを忘れない。

 やたらレオに突っかかったり、レオの方も俺が抱いている犬を少し気にしている様子なのは、やっぱりこの犬があれだからだよなぁ……?


「レオ、この犬ってやっぱり……マルチーズだよな、どう見ても」

「ワフ」

「?」


 レオの顔を見て確認すると、頷いて肯定してくれる。

 抱かれている方の犬は、俺が何を言っているのかわからず首を傾げていた。

 体が小さいのはまだ子犬だからなんだろうが……純白のふわふわとした毛は、サマーカットされて短めで、黒くてつぶらな瞳と鼻……は、他の犬もそうか。

 あとは、垂れた耳がペタンと頬にくっ付くように下がっているのがかわいく、鼻のマズルと呼ばれる部分は短め。


 白い毛の小型犬は他にもいるが、俺にとっては懐かしくも見慣れた姿をしていて、間違いなくマルチーズの特徴そのものだ。

 懐かしいなぁ……レオも拾ってすぐはこんな感じだったっけ……今は、銀色の毛になったり大きくなって、強く凛々しくなっているけど。


「タクミ様、よろしいでしょうか? お邪魔して申し訳ありませんが、村長との話し合いを……」

「あ、はい、わかりました。それじゃレオ、喧嘩するんじゃないぞ?」

「ワウー、ワウワフ」

「まぁ、確かに突っかかってるのはこっちの犬だけどな。とにかく、仲良くな? ――ほら、いい子だからおとなしくしているんだぞー?」

「ワウゥ……」

「アン!」


 マルチーズがいる事に驚き、懐かしさも含めて感慨深く浸っていると、いつの間にか近くにいたセバスチャンさんに呼ばれた。

 そうだ、今はハンネスさん達と話さないといけないな。

 レオには一応注意して、不満そうにしていたので頭をガシガシと撫でてやり、マルチーズを地面に降ろして軽く言い聞かせてから、その場を離れた。

 意思疎通のできるレオは溜め息を吐き、マルチーズの方は俺の言葉に元気よく返事をするように吠えた……人間の言葉がわかるのかな?

 この世界のマルチーズが見た目は一緒とはいえ、日本のマルチーズと同じかどうかはわからないし、フェンリルも人間の言葉を聞くくらいはできるから、できてもおかしくないかもな。


「あれ? クレアさんはどうするんですか?」


 エッケンハルトさんとハンネスさん、セバスチャンさんと一緒に村長宅へと向かう途中、クレアさんの横を通りがかる際に、気になって聞いてみた。

 薬草畑に関しては、クレアさんも共同運営という事になっているから、てっきり一緒に来るものだと思ていたが、一緒に来る気配がなかったからな。

 

「私は……ここにいます。シェリーを見ていたいですし……アンネも、見ておかないといけませんから」

「……そうですね」

「本当に、本当に申し訳ございませんでしたぁ!」


 レオや犬達、いつの間にか加わったティルラちゃんと、それを見守っているラーレから離れた場所。

 ランジ村の人達が集まっている場所に向かって、大声で謝っているのはアンネさんか……。

 確かにあのアンネさんを、放っておく事はできないか。

 勢いに押されて、村人さん達からは戸惑っている雰囲気が伝わって来ている気がするから、大きな問題にはならないだろうと、クレアさんに任せる事にした。



「まずは公爵様。このような村に来て下さり、村人を代表してお礼申し上げます……」

「うむ。まぁ、そのように肩肘を張らずともよい。屋敷でも話したからな」

「はい、ありがとうございます」


 この村で一番大きな建物、村長であるハンネスさんの家の中。

 セバスチャンさん以外がそれぞれ座ってからの開口一番、ハンネスさんが立ち上がってエッケンハルトさんへ頭を下げる。

 俺もいずれは、こういった格式張った事もできるようにならないといけないかもなぁ……エッケンハルトさんが相手だと、気持ち悪がられそうだ――。



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