第658話 ランジ村に懐かしいような気もする生き物がいました



「では、明日は昼食後に到着する予定でいいのだな?」

「はい。途中少々ありましたが、遅れるという程ではありませんでした。途中で昼食を取り、再出発をしてランジ村へと行くのがよろしいかと」

「わかった」


 夕食後、明日の行程を確認するエッケンハルトさんとセバスチャンさんの話に、耳を傾ける。

 明日の昼過ぎにランジ村に到着か。

 ロザリーちゃんとは屋敷を訪ねて来た時に会ったけど、ライ君とか他の子供達は元気かな?

 またレオと遊んでくれたり、リーザとも仲良くなってくれるといいんだけど。

 

 ちなみに、焚き火に使った枝は、俺が出発する前日夜に雨が降ったからか、濡れている物も多かったが、なんとなく『雑草栽培』を使ってみたら、乾燥した薪のように変化した。

 これは便利と、片っ端からリーザとレオに集めてもらって次々と枝を乾燥させていたら、ちょっと作り過ぎてしまったが……明日の朝や昼食用としてくれるようで、無駄にはならなかったようだ。

 まぁ、どちらかと言えば建材に近く、鉋がけをしたツルツルした表面の木材になったんだが……この辺りの木々は、建材によく使っている種類の木だったからなんだろうな。


「ママ、美味しい?」

「ワフ!」

「ラーレも美味しいですか?」

「キィ!」


 リーザとティルラちゃんは、話しているエッケンハルトさん達とは別の場所で、ソーセージや肉などを手ずから食べさせている。

 直接上げなくても、自分達で食べられるのだが……シェリーが物欲しそうに、クレアさんの食べていた物を見ていたのが原因だ。

 クレアさんがシェリーに気付き、手に乗せて食べさせたのをリーザとティルラちゃんが、真似をしたわけだな。

 シェリーはその後すぐ、レオに怒られていたが……。

 

 ラーレとティルラちゃんはともかく、レオの事をママと呼んでいるリーザが、手に持ったソーセージを食べさせているのを見ると、どちらが保護者なのかわからなくなるな。

 体の大きさは違い過ぎるが……まぁ、楽しそうだからいいか。


 エッケンハルトさん達の話も終わり、明日の予定も決まったところで、テントにて就寝。

 レオやラーレがいてくれても、念のため見張りを昨日までより強化したのはトロルドが出たからだろう。

 森の時と同じく、今回もレオやリーザと一緒に見張りに参加した……夜更かしになるので、リーザはやっぱり途中で寝てしまったが。

 さすがに、以前のように俺が見張りをしている時に、誰かが話しにという事はなく、魔物が森から出て来たりもせず、平穏な夜だった――。



―――――――――――――――



「本当に、このままで行くのですか、お父様?」

「もちろんだ。その方が楽しそうだろう?」

「はぁ……わかりました」

「これだけ可愛いのですから、村の人達もきっと、優しい目で見てくれますわよね……?」

「……滑稽な姿に見られなければいいのだけど」


 翌日、少しランジ村に向けて移動し、昼食を食べて準備を整え、いざ村へという段階。

 耳付き帽子のまま村へ行くのが気になるのか、クレアさんがエッケンハルトさんに確認を取るが、楽しそうの一言で返される。

 領民が苦しむような事は避けるだろうが、それ以外で楽しそうな事があると全力だなぁ、エッケンハルトさん。

 意気揚々としているエッケンハルトさんとは打って変わり、昨日ラーレに乗って興奮していた様子が一切見られないアンネさん。


 緊張して体を強張らせながら、クレアさんにすがるような目を向けている。

 アンネさんが緊張しているのは、以前ハンネスさんが屋敷に来た時にもそうだったが、村の人達に謝るためだ。

 ハンネスさんはエッケンハルトさんの顔を立てて、一応許してはくれたが、村の人たちがどう思っているかまではわからないからな。

 クレアさんやエッケンハルトさんから、昼食の時に散々、許さずに罵声を浴びせられるかもとか……石を投げられたり、殴りかかって来るかも……なんて言われていたから、尚更だな。


 まぁ、フォローをしたりは俺やエッケンハルトさん達もするつもりだが、これはアンネさんが自分でやらなきゃいけない事だからな。

 村を魔物に襲わせた実行犯でもなければ、首謀者でもないが……それでも、一番最初の原因となる事を提案してしまったのだから。

 とはいえ、村の人達は基本的に温厚だったから、多少厳しい目を向けられるとしても、滅多な事にはならないんじゃないかな?

 アンネさんの、五体投地ならぬジャンピング土下座を見たら怒る気もなくすかもしれない……なんて、気楽に考えながら、元気なくしおれかけている縦ロールを眺めていた。


「リーザ……元気がないからって、ツンツンしたらいけないぞー?」

「はーい」


 未だ健在の蝶々結び縦ロールが、しおれて元気がない様子が気になったのか、ふらふらとリーザが触ろうとしたのを捕まえて止める。

 触るなら元気な時に、許可を取ってからにしような?

 せめて、もう少しアンネさんに余裕がある時にした方が良さそうだからな。



「キャン! キャン!」

「これ、おとなしくしなさい!」

「……公爵様、そしてクレア様にタクミ様。レオ様も……ようこそお越し下さいました」

「うむ。……だが」

「……犬?」

「ワフ、ワフワフ!」

「こらレオ、なんとなく気持ちはわかるけど、とりあえず大人しくしてくれ」

「パパ、シェリーに似てるのがいるよ?」

「まぁ、似てはいるけど、全然別物だからな?」

「……機先を制し損ねましたわ」


 ランジ村に到着し、馬車から降りて柵の内側に入る。

 エッケンハルトさん達が来る事は既に報せていたため、ハンネスさんを先頭に村人さん達が整列して迎えられた。

 まぁ、それはいいんだが……気になるのは、ハンネスさんの後ろで犬達がこちらに向かって吠えたり、怯えたりしている様子だ。

 レオが特に喜んでいる様子を見せて、興奮して尻尾を振って鳴いているけど、一応畏まった場面かもしれないから、声をかけながら撫でておとなしくさせておく。


 リーザもあちら側を見て首を傾げているが……あれは犬で、この世界で魔物かどうかはともかく、フェンリルとは全くの別物だ。

 シェリーより小さいし……でもまぁ、ある意味でレオとは関係あると言えるのかもしれないが。

 ……耳付き帽子を被って驚かせるどころか、こちらが驚く結果になっているな。

 いや、村の人達の視線は明らかに帽子へ向かっているから、向こうも驚いているのは十分にわかるんだけど。

 とりあえず、アンネさんは出合い頭に謝るつもりが、出鼻をくじかれた形になってしまっていた……ドンマイとしか言えないな――。



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