第650話 休憩を挟みながら移動しました



「それじゃ……頂きます」

「いただきまーす!」

「はい!」

「……はい」

「ワウー!」

「キィ!」


 レオにはもちろんソーセージ、ラーレは焼いて味付けしてある肉をあげて、俺達はシーツの上に座り、昼食開始。

 リーザが俺の真似をして、頂きますをしているのを微笑ましく見ながら、スープを飲みパンへと齧り付く。

 腕がいいおかげか、やっぱりヘレーナさんの作る物は美味しいなぁ……。


「さて、昼食が終わったら、旦那様達に追いつかなければいけませんな……」

「そうですねぇ。でも、大丈夫ですか?」

「少々厳しいですが……仕方ありません。なんとかもたせます……」


 一緒に昼食を頂きながら、ふとエッケンハルトさん達が先に行っているであろう、道の先を見ながら呟くセバスチャンさん。

 昼食を食べた後は、追いつくまで小休憩を挟む予定ではあるけど、移動時間が長いので十分に休む事はできないだろう。

 どうしたものか……あ、そうだ。

 移動中はラーレも離れないようにしているんだから、代わりにリーザが乗ればセバスチャンさんがレオに乗れるんじゃないかな?


「もしどうしても辛いようなら……リーザを後ろに乗せる、というのはどうでしょう?」

「はっ、その手が!? ……いえ、それも難しいですな。ティルラお嬢様の鞍は、体の大きさに合わせているのですが、後ろの鞍は間に合わせなので……」

「……体の小さいリーザだと、スカスカになってしまいますか」

「はい。座る事はできるでしょうし、棒に掴まっていれば危険は少ないのでしょうが、体が固定できません。あと、あぶみも……」


 言われて、くちばしで肉を啄んでいるラーレの背中を見ると、鞍に繋がっているあぶみはセバスチャンさんや大人が合わせてあり、リーザでは足が届かなそうだった。

 リーザの足が短いとかではなく、まだ成長途中で小さいからな……。

 それに、よく見てみると背もたれもあるから、尻尾が邪魔になってしまいそうだ。

 せめて、普段屋敷で使っている椅子のように背もたれ部分に空間があって、そこから尻尾を出せれば良かったんだが……。


「私が不慣れだからと、リーザ様を危険にさせる事はできません。なに、途中で休憩をしながらでも、旦那様達に追いつくまで頑張りますよ」

「わかりました。もし本当に無理そうなら、言って下さい。何かしら考えます」

「はい、その時はよろしくお願いします」


 執事としての矜持か、お客様対応のリーザが落ち着いて座れない状態で、代わりにというのはセバスチャンさん自身嫌な様子だ。

 そうまで言うならと、意思を尊重してラーレの乗ってもらう事にする。


「では……」

「しばらくしたら、またレオ吠えてもらって、休憩にしますから」

「行きますよーラーレー!」

「キィー!」

「ママー、頑張れー!」

「ワフ!」


 ラーレに乗ったセバスチャンさんに声をかけ、ティルラちゃんとリーザの合図で移動を再開する。

 昼食を食べ終わった後の片づけをしている時、物は試しにと酔い止めの薬草を作ろうと、そこらの地面に手を付いて『雑草栽培』を試したんだが、生憎と作る事はできなかった。

 セバスチャンさんに期待させてはいけないと、見えないところでやったんだが……言わなくて正解だった。

 『雑草栽培』で作れない原因は、俺のイメージとかが悪かったのかもしれない。


 それか、もしかすると似たような効果の植物が既にこの世界にあって、どこかで作られているからなのかもしれない。

 どちらにせよ作れなかったんだから、今は諦めてそのうち調べるなりなんなりする事にしよう。


「よーしレオ、そろそろ吠えてくれ」

「ワウ。アオォーーン!!」


 というやり取りを何度か繰り返し、ランジ村への道を進む俺達。

 レオに吠えてもらい、ラーレを止めての休憩は大体五分から十分程度だ。

 エッケンハルトさん達へ今日中に追いつくためなんだが……セバスチャンさんは、ほとんど息を整えるくらいしか休めていないのが心配だ。

 一応、疲労回復の薬草を食べたりはしているみたいだけど、気休めにしかなっていない。

 とはいえそれでも、なんとかかんとか進んでいるうちに、遠目に何かが見え始めた。


「あれは……煙?」

「何か見えるね、パパ」

「ガーウ!」

「キィ、キィ!」

「あっちで、人間が焚き火をしてるって言っています!」

「ありがとう、ティルラちゃん、ラーレ。多分、エッケンハルトさん達だな。ようやく追いついた……セバスチャンさん、もう少しですから頑張ってください!」

「ふぅ……はぁ……は、はい」


 進行方向に、空へと立ち上る白い何かが見え、それが煙だとわかってすぐレオがラーレを呼ぶように吠える。

 速度を少し緩めながら、走るレオに並ぶように低空飛行をするラーレが鳴き、ティルラちゃんが教えてくれた。

 この先にはランジ村くらいしかないし、人間が焚き火をするというのはエッケンハルトさん達しかいないだろう。

 ティルラちゃんとラーレにお礼を伝え、セバスチャンさんを励まして合流を急ぐ。


「もう少しだ、レオ」

「ワフ! ワウゥ……」

「お腹空いたってー。私もお腹空いた……」

「あれだけ食べたのにか……まぁ、合流したら何か食べ物はあるだろう、食材を多めに持って行っていたみたいだからな。レオ、もう少し我慢してくれー」

「ワウ!」


 焚き火から立ち上る煙が近付くにつれ、エッケンハルトさん達が乗っていた馬車や馬も、見えるようになってきた。

 もう日が暮れ始めていて、少しづつ暗くなっているからレオもリーザも、お腹が空いてきたみたいだな。

 ラクトスでおやつを食べて、昼もいっぱい食べたのに……走って体を動かしているレオはともかく、リーザもよく食べるなぁ。

 いっぱい食べて大きく育って欲しい、うむ。


 それはともかくだ、まだ少し明るいのに少し前から煙が見えていたという事は、早いうちから移動を止めて野営をしているんだな。

 クレアさんがいるから無茶はしないと思うけど、エッケンハルトさんの事だから完全に暗くなるギリギリまで、移動を続けると思っていたんだけど……。

 まぁ、馬も休まなきゃいけないし、ずっと走りっぱなしというのはできないから、今日は早めに止まって野営しているのかもしれないな――。


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