第649話 途中で昼食を取る事にしました



 前回と同じ道順とはいえ、街道にはすれ違う人もいるので、レオを見て驚かれたりしないように、少しだけ街道を逸れた場所を走る事にする。

 ラクトスの街に住んでいる人達は、ある程度慣れてくれているみたいだが、初めてレオを見る人は怖がってしまうから。

 人を乗せた大型の狼が、馬よりも早い速度で爆走していたら、怖がったり驚いたりするのも当然だからなぁ。

 ちなみにラーレに乗る直前、セバスチャンさんは俺が渡した疲労回復の薬草を食べているのを見た……頑張ってください!


「レオ、とりあえずお昼まで頑張ってくれ!」

「ワウ!」

「速い速ーい!」


 上空のラーレを先導するように、少しだけ前に出て走るレオ。

 ラーレにはセバスチャンさんが乗っているため、森から帰る程の速度は出ていないが、それでも馬より早い。

 とはいえ、以前俺がランジ村へ行く時よりは遅くなっているけど……一日早く出発したから、エッケンハルトさん達に追いつけるだろう。

 まだ少し早い時間のため、昼食は後で存分に食べるとして、レオには頑張ってもらうよう声をかける。


 リーザは、馬よりも速く走っている事で支えている俺の前でご満悦な様子だ。

 森から帰る時より遅い事には、気付いていないみたいだ……あの時はラーレを見上げて観察してたから、速く走っていたという実感がないんだろう。



「そろそろ、かな? レオ、ラーレに報せてくれ」

「ワフ。ワオォォォォォン――!!」

「ふわぁ、大きい声ー」

「ははは」


 街道を爆走後、ランジ村に向けて少し方向を変え、人通りのない踏み固めただけの道をしばらく進む。

 太陽の位置が高くなったのと、懐中時計を見て時間を確認。

 そろそろお昼にする頃合いだと考え、レオにお願いしてラーレに止まるよう報せてもらう。

 俺やリーザの声だと、飛んでいるラーレには聞こえないだろうが、レオの遠吠えならわかってくれるだろう。


 帽子の上から耳を抑えるリーザは、近くで遠吠えを聞いて少し驚いたみたいだ。

 ちょっと面白いな。

 まぁ、俺も軽く耳を押さえているんだが……レオ、凄く大きな声が出るんだな……。


「キィー」

「どうしましたか、レオ様ー!」

「ワウワウ!」

「そろそろ、お腹もすいて来た頃だろうから、昼食にしよう!」

「わかりましたー! ラーレ、ゆっくり降りましょう!」

「キィ!」


 レオの遠吠えが聞こえたラーレが低空を飛んで、走る速度を緩めたこちらに合わせる。

 ラーレの背中から、ティルラちゃんが大きく叫んで聞くのに応え、昼食にする事を伝えると、大きな翼をはためかせてゆっくりと地面に下り始めた。

 こちらも、レオがゆっくりと速度を落とす……と思ったんだが……。


「ワフ!」

「っ……っとと……レオ、急に止まるなよ……俺やリーザは、体を固定する物がないんだからな?」

「おぉー!」

「ワウ?」


 レオの方はズザザザと、音を立てて足を踏ん張り急停止。

 体の大きさや重さ、速度も相俟って地面がえぐれている……後で埋めて踏み固めておこう、馬車の車輪や馬の脚がとられたら危ないからな。

 急な停止で、あやうく俺とリーザだけが前に飛びそうになったのを、姿勢を低くしてしがみつくようにしながら、足に力を入れて留まる。

 なんとか落ちずに済んで、リーザの体を抱えながらレオへと文句を言う。


 リーザは、ちょっとしたアトラクションのような気分なんだろう、楽しそうに声を上げていたけど、あの速度で飛び出したら怪我をする危険があったんだからな?

 レオの方は、多分早くお昼が食べたいから急停止したんだろうなぁ。

 俺達が見えるように首を巡らせながら、さらに首を傾げていた。

 うん、かわいいけど、危ないから後でしっかり言い聞かせておこう。

 

「レオ様ー」

「ワフ」

「はぁ……ふぅ……」

「大丈夫ですか?」

「えぇ、まぁ……なんとか。タクミ様に頂いた薬草のおかげです」

「効果があったなら良かったです。えーと、昼食の準備をするので、少し休んでいて下さい」

「はい……申し訳ありません、本来は私がやらなければいけないのですが……」

「いえ、簡単な事なので、これくらいは任せて下さい」

「私も手伝うー!」

「おぉ、ありがとうな、リーザ。――ティルラちゃんは……セバスチャンさんの背中を撫でてやっててくれないかな?」

「わかりました!」

「ワフ、ワフ!」

「キィ、キィ!」


 ラーレから降りたティルラちゃんはレオへ抱き着き、ゆっくりと地面を踏みしめるように降りたセバスチャンさんは、ふらふらとしながら深呼吸している。

 薬草のおかげで、とりあえずは大丈夫みたいだが……疲労回復薬草に、酔い止めだとかの効果はないはずだから、多分プラセボ効果とかだろうと思う。

 まぁ、少しは役に立っているのならいいか。

 とりあえず、申し訳なさそうにしているセバスチャンさんには休んでいてもらい、ティルラちゃんに任せてリーザと一緒に昼食の準備。


 レオに括り付けてある風呂敷の中から、ヘレーナさんが作ってくれた料理を取り出す。

 今日の昼食は、革袋の水筒に入っているスープと、パンに色んな食材や料理を挟んだ物だ。

 これなら、暖める必要もないからわざわざ焚き火を用意したり、鍋を使う必要もない。

 挟んである物の中に、ハンバーグがあるのがヘレーナさんらしい。

 俺が教えた作り方を覚えて、試したりしているんだろう。


 食べ物を期待して鳴き声をあげる、レオとラーレに苦笑しながら、リーザと手分けしててきぱきと準備をする。

 レオやラーレは入れないが、人間組のためにシーツのような物を敷いて座れるようにもしないとな。

 ちなみに、水はレオが魔法で出せる事がわかっているので、カップがあれば十分だ。


「レオ頼む」

「ワフ。……ワーウ」

「ママありがとー!」

「セバスチャンさん、ティルラちゃん、準備できましたよ」

「はーい!」

「……ありがとうございます」

「……食べられそうですか?」

「少し休んで大分楽になりましたので、なんとか」


 人数分のカップを取り出し、レオに頼んで水を注いでもらう。

 というより、勢いは緩いが滝のように流れる水に、カップを突っ込んで汲むような感じだな。

 食べ物よりも先に、水を飲むリーザはそのままにしておいて、休んでいるセバスチャンさんと背中をさすっているティルラちゃんを呼んだ。

 セバスチャンさんは……さっきよりは顔色がいいな。


 空腹でラーレに乗るのは辛そうだから、少しでも何か食べた方がいいだろう。

 胃に物が入っていると、酔った時にもどしてしまう可能性もあるが……食べないよりは体調が良くなるはずだ、多分――。



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