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第643話 レオは食べ物に期待しているようでした
第643話 レオは食べ物に期待しているようでした
レオの欲しい物といえば、どうせ食べ物だろうと思って聞く……うん、当たりだな、元気よく頷いている。
ここでいきなり、服が欲しいとか言われても困るが、レオが欲しがるわけないか。
さすが、美味しい物を食べたいという食欲に関しては、俺以上だな。
とりあえず、ラクトスの街に行けばどうせ大通りを通る事になるのだから、途中の屋台で食べ物を買ってやればいいだろうと、約束する。
喜ぶレオの右前足を両手で持ち、なぜかリーザも喜んでいたが、このくらいの年頃なら物欲よりも食欲なんだろう。
レインドルフさんが亡くなってから、食べる物に不自由していたようだし、お腹いっぱい美味しい物を食べさせてやりたいな。
「それじゃ、明日は早いからそろそろ寝るぞー」
「はーい」
「ワフワフ」
踊るようにして喜んでいたリーザを止め、明日のために早く休むように言う。
明日はいつもより早めに朝食を頂いて、すぐに出発する予定だから、起きる時間も早くなる。
ラクトスに行く以外は、移動するのがほとんどの一日だから、疲れを残さないようにな。
俺の言葉に返事をし、レオはベッドの傍で丸くなり、リーザはベッドでうつ伏せになった。
「……リーザ、毛布が掛けられないから、尻尾を落ち着かせような?」
「うんー、わかったー……んふー……」
「ははは、横になったら眠気が来たか。しっかり寝るんだぞー?」
「う……んー……」
「ワ……フ……」
「レオもすぐに寝たか。……こっちも尻尾が揺れているけど、まぁいいか」
大きな尻尾があるため、大抵うつぶせになって寝るリーザ。
そのお尻付近では、明日が楽しみなのかフサフサの毛に包まれた尻尾が、ゆらゆらと揺れている。
毛布が掛けられないので、尻尾を止めるように言うと、半分寝ているような声を出しながら横を向いて、自分の尻尾を抱き締めた。
そうしないと、無意識に揺らしてしまうのかもな……。
横になってすぐ睡魔が来たようで、寝息を立て始めるリーザに笑いつつ、自分の尻尾を抱き締めている愛らしい姿を毛布で隠して冷えてしまわないように。
レオの方からも寝息が聞こえると思えば、そちらも既に寝ているようだった……早いな。
あちらもリーザと同じく、明日が楽しみなようで尻尾がゆらゆらと揺れていたけど、まぁこっちは自前の毛で暖かそうだから、毛布は必要ないだろう。
昨日みたいに、お腹を出して寝ているわけじゃないからな。
レオやリーザが寝入った姿を見て、なんとなく満たされるような感覚を感じながら、俺も横になって深い眠りへと入った――。
―――――――――――――――
「師匠、お気をつけて!」
「うん。本当はミリナちゃんも、一度ランジ村を見ていた方がいいのかもしれないけど……」
「今回はお留守番です。その間に、師匠のお世話についてゲルダさんから教えてもらっておきます!」
「お任せください!」
「うん……程々に、ね……」
翌朝、朝食を頂いた後に荷物を持って玄関ホールに集合。
屋敷に残すミリナちゃんからの見送りだ。
ミリナちゃんは、俺からお願いしてランジ村での薬草畑で一緒に働く予定になっているから、見に行くのも悪くはないんだけど、俺がいない間薬の調合だけでなく、ラクトスへの薬草や簡易薬草畑を管理してくれることになっている。
昨日ティルラちゃんがラーレと一緒に飛んでいる間に、『雑草栽培』を使ってたっぷり薬草を作っておいたので、不足する事はないだろう。
ともあれ、そちらの事と一緒に、ミリナちゃんにとってはランジ村で俺のお世話をできるようになるよう頑張るのが、目下の目標らしい。
隣でゲルダさんが、握りこぶしを顔の前に上げて意気込みを見せているが……あまりドジを発揮しないように願うばかりだ。
俺がこの屋敷に来た時は、一番の新人だったゲルダさんだから、ミリナちゃんという後輩ができたのが嬉しいんだろう。
今まではライラさんが、ミリナちゃんに教えていたからな。
けど……そもそもミリナちゃんは俺のお世話をさせるために、雇ったわけじゃないんだけどなぁ……まぁ、本人がやりたいと思っている事を邪魔しない方がいいか。
とりあえず、暖かい目でミリナちゃんとゲルダさんを見守ってくれている、他のメイドさん達にやり過ぎないよう目線で伝え、会釈しておく。
メイド長さん? と思われる、いつもクレアさんに付いている事が多い、年配のメイドさんが深く頷いてくれたから、きっと伝わっているだろう。
ちなみに、年配と言っても三十代くらいにしか見えない綺麗な人で、やっぱりここには美形さんしかいないのかと、自分の事を考えて悲しくなるが……それは今は余計なので頭の中から追い出しておく。
「お待たせしましたー!」
「ティルラお姉ちゃん!」
「ティルラちゃん、用意は万全かな?」
「はい、いつでも出発できます!」
「ワフ!」
「ほっほっほ、ではそろそろ行きましょうか」
「セバスチャンさん……いつの間に……」
荷物と一緒に、大分ティルラちゃんに馴染んだ感のある剣を腰に下げ、元気よく階段を降りて来る。
朝食の時にも確認したが、森の時とは違って、緊張から寝不足になっているという事はなさそうだ。
準備万端で、早くラーレに乗りたくてうずうずしているティルラちゃん。
さてそろそろ……と思っていたら、いつの間にか近付いていたセバスチャンさんに声をかけられる。
ティルラちゃんが来る前までは、いなかったはずなのに……いつの間に……。
そのセバスチャンさん、昨日と違って顔色は悪くないのだが、口では余裕を持っている風で笑ってはいても、目の奥は笑っていなかった。
これからラーレに乗るために、内心はあまり余裕がないのかもしれない。
「それじゃレオ、頼むぞ?」
「お願いね、ママ!」
「よろしくお願いします、レオ様!」
「申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」
「ワウ!」
以前、俺がランジ村に行った時と同じように、レオの首に風呂敷を巻き付けて荷物を持ってもらう。
携帯できる剣なんかは腰に下げているし、ナイフは念のためというかリーザが持っていたがったので、荷物の中には入っていないが。
ティルラちゃんやセバスチャンさんも、それぞれ荷物をレオの風呂敷の中へ。
ラーレには、あまり重い物を乗せられないからな――。
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