第644話 ラクトスの街へ入りました



 必要な荷物は、先にエッケンハルトさん達が馬車で運んでくれているため、こちらは最低限だ。

 レオに限界まで持たせればもっと多くの荷物を運べるだろうが、そこまで無理してもらう事もないしな。

 それとは別に、エッケンハルトさん達がレオに多くの荷物を持たせるのに、及び腰だったのは言うまでもない事か。

 まぁ、公爵家にとっては敬うはずの相手だから……俺も、レオに無理はして欲しくないしな。


 それはともかく、鞍を付けたり服を着たりというのは嫌なのに、首に風呂敷を巻き付けて荷物を持つのは大丈夫なんだな……。

 んー、首輪とか、リードのようなものか。

 散歩に行くためにリードを付けるのは、むしろ以前から喜んでいて尻尾を振っていたくらいだからな。

 外に出られるのと、子供達と遊んだりできるからという期待感があったんだろう。

 今も荷物と俺達を乗せたら、外を走る事ができるからあまり状況は変わっていないし、尻尾もふりっぱなしだ……。


「「「「「ティルラお嬢様、タクミ様、レオ様、お気をつけて!! 無事のお戻りお待ちしております!!」」」」」


 いつもの使用人さん達の見送りを背に受けて、屋敷の外へ出る。

 ちなみに、いつの間にか声を揃える中にミリナちゃんも混ざっていた。

 ……やっぱり、知らないうちに練習していたんだろうか?


「キィ!」

「ラーレ! 今日はよろしくお願いしますねー!」

「キィ、キィ!」


 外へ出ると、待っていてくれたラーレがいる。

 ティルラちゃんが駆け寄り、撫でながらお願い。

 ラーレの方も、空を飛んで長距離を移動できるのが嬉しいようで、なんとなく鳴き声も弾んでいる気がする。


「いい天気だ。昨日は、寝る前に雨が降っていたようだけど……大丈夫そうだな。よし! レオ、頼んだぞ!」

「ママ頼んだ―!」

「ワウ!」

「……ふぅ、覚悟を決めました! 行きましょう!」


 空を見ると雲一つない快晴で、気持ちがいい。

 走るレオにとっては、もう少し曇っていたりしていた方がやりやすいのかもしれないが、これだけ晴れているとやっぱり気持ちがいいもんだ。

 寝る直前、雨が降り始めたような音が聞こえたから、レオの走る地面がぬかるんでいたり……と少し心配していたが杞憂に終わったようで、屋敷の庭の地面は既に乾き始めていた。

 これなら、レオも思いっきり走れるだろうな。


 声をかけて、伏せをしていつでも乗れと言わんばかりのレオにリーザと一緒に乗る。

 意気込みを見せるように、力強く鳴くレオとは対照的に、一度溜め息を吐いたセバスチャンさんが、ティルラちゃんに続いてラーレに乗った。

 うん……頑張ってください。

 こちらは覚悟が必要じゃないのが申し訳ないけど、とりあえずセバスチャンさんの無事を祈っておこう。


「キィー!」

「ワウー!」


 ティルラちゃんとセバスチャンさんを乗せたラーレが、飛び立ち、それを追うようにレオが走り始めて門を抜ける。

 レオもラーレも、なんだか楽しそうだな――。



 ラクトスの街、西門近くまで辿り着き、街へと入る前に少し門の横へ。


「ニコラさん」

「タクミ様、お待ちしておりました」

「キィー」


 先に屋敷を出発して、ラクトスの街入り口近くで待機してくれていたニコラさんや、他の護衛さんに近寄って声をかける。

 向こうがレオへと寄って来る頃に、空を飛んでいたラーレもゆっくりと降りてきた。


「ニ、ニコラさん、皆さん……ご苦労様です」

「セバスチャンさん、お疲れ様です……」


 ラーレの背中に乗っていたセバスチャンさんが、ニコラさん達に支えられて降りる。

 屋敷からラクトスまで、大体二十分もかからないくらいなのに、既にその状態になっているのは、この先大丈夫かと思わなくもない。

 ……いくつか、疲労回復の薬草を渡しておいた方が良さそうだ。


「……はぁ、ふぅ、街の者へは?」

「滞りなく、説明させて頂いております」

「わかりました。それでは、タクミ様」

「はい。ハルトンさんの店で合流しましょう」

「よろしくお願いします」


 何度か深呼吸をしたセバスチャンさんが、ニコラさんへと問いかけ、問題ないとの返答。

 先にニコラさん達が着ていたのは、ラーレの事を衛兵さんに説明するためだ。

 言っておかないと、空から大きな鳥が降りて来たら皆驚いてしまう。

 ラーレには、一応街の中にいる人達から見えないよう、街に近くなったら低く飛んでもらうようにしていたから、住んでいる人達からは見えなかっただろうけど、見張っている衛兵さんとかは発見するだろうしな。


 ここでニコラさん達と合流して確認をし、セバスチャンさんやティルラちゃんとはハルトンさんの仕立て屋前で合流予定だ。

 これは、ラーレをランジ村へと続く東門で待機させる事と、ニコラさんが街に入る俺についてきてもらうためだ。

 店の中に入ったりすると、レオを見てくれる人が欲しいから。

 まぁ、護衛さんのうち二人は、街に入ったティルラちゃんの護衛をするためや、待機するラーレを見るため、先に東門へ行っているようだけど。


「それでは、私は東門へ……」

「あぁ、セバスチャンさん。これを……」

「おぉ、ありがとうございます。これでなんとか、乗り切れるかと」

「また後で、です、タクミさん、リーザちゃん、レオ様ー!」

「キィ!」

「また後でー!」

「ワウー!」


 確認や、ニコラさんへの指示が終わったセバスチャンさんが、再びラーレに乗る前に、疲労回復の薬草を数個渡しておく。

 どれだけの効果があるか、俺にはわからないが……なんとかこれでエッケンハルトさん達に追いつくまで、頑張って欲しい。

 大きく手を振りながら、ラーレに乗って空へ行くティルラちゃん達を見送り、俺達はラクトスの街の中へ。

 衛兵さん達は、説明されていたのと俺やレオの事を何度も見た事があるので、特に問題なく入る事ができた。

 さて、まずはカレスさんの店だな。



「ニック、お疲れ」

「アニキ! お待ちしていました!」


 レオやリーザ、ニコラさん達と共に街の中を移動し、カレスさんの店へ到着。

 店の前で掃除をしていたニックを見つけて、声をかける。

 真面目に働いているようだな。


「今日の薬草だ。またしばらく屋敷を離れるから、多めにな」

「へい、確かに!」


 レオに持たせていた荷物の中から、包んである薬草を取り出して渡す。

 売れすぎて不足したら、また屋敷へ取りに行けばミリナちゃんあたりが対応してくれるだろうが、できるだけ手間をかけないように多めに包んでおいた。

 これで、しばらくは大丈夫なはずだ、多分。



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