第642話 出発の準備が終わりました
「そうだリーザ。ランジ村に行って、戻って来てからになると思うけど、その時にラーレに乗せてもらたらどうだ?」
「いいの!?」
「いいですよ、リーザちゃん。――ね、ラーレ?」
「キィー!」
また屋敷に戻って来てから、ラーレに乗ってみる事を提案。
嬉しそうな期待している笑顔で聞くリーザに、ラーレと共に頷くティルラちゃん。
ティルラちゃんは、妹のように感じているリーザを喜ばせる事ができ、ラーレは人を乗せる楽しみを味わえるから、丁度良さそうだ。
それに、ランジ村との往復をした後なら、ラーレの方も人を乗せるのにかなり慣れているだろうし、リーザを乗せても安全だろう。
………決して、セバスチャンさんが実験台だとか、そういうわけじゃないぞ?
「やったー! 約束だよ、ティルラお姉ちゃん、ラーレ!」
「はい、約束です!」
「キィ!」
「ワウゥ……」
「よしよし、レオに乗る事が嫌だとか、ラーレの方がいいって言っているんじゃないから、元気出せ? 今は、珍しい事に興味を持っているだけだからな。それに、ランジ村までは、レオに乗るんだからそれでいいじゃないか。いつでも背中に乗せられるしな?」
「ワウ……? ワフ!」
ラーレに乗れるとわかって、嬉しそうなリーザを悲しそうに見て鳴くレオ。
リーザが取られたように感じて、落ち込むのはわからなくもないが、レオが嫌われたわけじゃない。
慰めるように言いながら撫でると、首を傾げて考えた後、納得して頷いてくれた。
うんうん、リーザはレオの事が好きで、嫌いになる事はないんだからな?
ティルラちゃんと話すのに夢中なリーザを、微笑ましく見ながら、レオを構ってやるように撫でる。
そうして少し経った頃、いつの間にか用意されていた料理が、テーブルに配膳されていたので、皆で頂く事にする。
今日は、ライラさんがクレアさん達と一緒に移動中でいないため、ゲルダさんとミリナちゃんがお茶の用意をしてくれたり、頑張ってくれている。
ミリナちゃんには以前も淹れてもらった事はあるが、こうして皆の前で一人前にお茶を淹れられるようになったんだなぁ……ちょっと感慨深い。
って、俺はミリナちゃんの親でも兄でもないんだから、保護者目線は失礼か。
どうもリーザが来てから、年下の人を見るとそういう感情が沸いて来るようになった気がする。
その前までも、ティルラちゃんを妹のように感じていた部分もあるから、元からか。
ちなみにゲルダさんは、レオに用意しようとした牛乳をこぼしそうになって、ミリナちゃんにフォローされていた。
……先輩として頑張ろうとしたせいで、思わぬ失敗をしそうになったんだろう……ドジっ子怖い。
「よし、準備も終わったな。リーザは大丈夫か?」
「うん。ゲルダお姉ちゃんに手伝ってもらったー」
「ワフ」
夕食後には、忘れないように素振りをして、風呂に入ってからランジ村に行く準備を済ませる。
素振りは、明日からしばらく鍛錬をする時間がなくなるだろうから、念入りにやっておいた。
おかげで、ティルラちゃんは森へ行く時と違って、疲れてぐっすり寝られそうだったな。
着替えなどの荷物を革袋に入れてまとめ、傍に剣を置いて一息……刀は今回持っていかない予定だ。
レオとじゃれていたリーザの方はどうかと聞くと、ゲルダさんが手伝ってくれたらしい。
俺が風呂に入っている時だろうな。
いかにドジっ子なゲルダさんでも、こういう時に失敗はしないだろうと思うが、一抹の不安はある。
一応レオが見ていて確認していたようで、大丈夫と頷いていたから、きっと問題はないだろう。
……レオにリーザの準備がわかるのかという疑問はあるが、きっとこれまで俺達の事を見ていて必要な物を覚えてくれているのかもしれない、と思っておこう。
「それも、やっぱり持って行くんだな?」
「もちろん! だって、パパが買ってくれたんだから!」
「すっかりお気に入りだなぁ。もっと他にも、欲しい物があったら言ってくれていいんだぞ?」
「うーん……わかんない」
「そうかぁ……」
部屋の隅に、置いてあるリーザの荷物と思われる物の上に、被せるようにして置いてある帽子。
耳を隠すために耳が付いているという、言葉にするとちょっと不思議な帽子だが、最初はむずがっていたリーザも、すっかりお気に入りになったようで、外に出る時は必ず着けている。
森の中でも被っていたから、よく見ると少し綻びというか、くたびれてきているような気もするな。
時折屋敷の中でも被っていて、よく使っているから仕方ないか。
元々、急ごしらえで作った物だから、丈夫な方ではなかったようだし……そもそも森の中に入ったり、魔物と戦う時も身に付けているなんて、想定していない物だしな。
ティルラちゃんよりもさらに小さいリーザが戦うなんて、作った人も考えていないだろう。
明日はラクトスに行ってハルトンさんの店にも寄る予定だから、その時綺麗にしてもらうよう頼んでみるか。
ついでと思い、リーザに他にも欲しい物がないか聞いたが、何が欲しいとかわからないらしい。
まぁ、今までスラムで隠れるようにして暮らしていたようだから、世の中にどんな物があるのか知らないのかもなぁ。
俺も、この世界にどんな物があるのか、知らない事が多いし……もっと街に行って、色んな物を見た方がいいのかもしれない。
レオを連れて街の人を慣らすというか、慣れてもらうようにと頼まれているのもあるしな。
「じゃあ、明日は何か欲しい物があったら言うんだぞ?」
「うん! 楽しみー!」
「ワフ?」
「レオは……食べ物だろ?」
「ワウ!」
「まぁ、途中の屋台ででも何か買ってやるか」
「ワウー!」
「やったー!」
明日はラクトスに寄る事をリーザも知っているため、一応欲しい物があればちゃんと言うように伝えておく。
さすがに欲しいと思ったら全て買ってやる、という事はできないと思うが、できるだけ思うようにさせてやりたい。
お金がないわけじゃないしな……高すぎる物は駄目だが……。
リーザに欲しい物を買ってやると約束していると、レオが自分には? とおねだりするような視線と共に首を傾げた――。
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