第557話 セバスチャンさんは何かで見た覚えがあるようでした



「それで、あの魔物はなんと言っていたのですかな?」

「最初にレオ様が威嚇してからは、こちらに敵意を向けるような事はないようだ。安全と言えるのか?」

「そうですね……」


 レオを介して鳥型の魔物との話を終え、少しだけ離れた場所へ。

 とりあえず、皆と相談させてくれと言っておいた。

 数十メートル以上離れたから、大きな声を出さなければ向こうへは聞こえないだろう。

 ちなみに魔物の方は今、レオと親フェンリル達に囲まれて身を竦ませている状態だ……少しかわいそうかもな。


 話の中で、フェンとリルル……親フェンリル二体くらいなら相手にできるような事を、あの魔物は言っていたらしいが、さすがにシルバーフェンリルであるレオには逆らおうとは思わないとの事。

 レオの事を見て、シルバーフェンリルだと分かっているようだから、結構知性が高そうだな。

 とりあえず、エッケンハルトさん達にはその事を伝えて、レオがいる限り安全である事を伝える。


「やはり、シルバーフェンリルというのは別格なのだな。あれ程の大きさを持つ魔物……体の大きさが全てではないだろうが、それでも威圧感のような、風格は感じられる。かなりの強さを持つ魔物なのだろう」

「そうですな。そのような魔物が、レオ様には敵わないと認める……それだけでシルバーフェンリルという魔物がどれほどの強さなのか推し量れるというもの。しかし……あの魔物、どこかで……」

「まぁ、風格は確かにありそうですが、今はレオに睨まれて身を竦ませていますけどね……。でもセバスチャンさん、あの魔物を見た事があるんですか?」


 俺の周囲には、レオや親フェンリルを除いた皆がいる。

 シェリーもライラさんに抱かれているし、アンネさんもようやく眩んでいた目が治ったのか、クレアさんと一緒に話を聞いていた。

 主に話すのは俺とエッケンハルトさん、セバスチャンさんだが、他の皆も黙って俺達の話を聞いてくれている。

 その中で、セバスチャンさんが記憶から魔物の事を思い出すように、首をひねって考え込んだ。


 もしかしたら、ラクトスの北にある山から来た魔物ではないか……という事だから、見た事があるんだろうか?

 空を飛んでいるのを、ラクトス近辺で見かけたとか?


「いえ……直接目にしたわけではありません。しかし、どこかの文献か何かに描かれていたのを見た覚えがるような……?」

「魔物が載っている文献か。それであれば、どのような魔物か書かれていたのかもしれんな」


 セバスチャンさんは、文献であの魔物の事を見た覚えがあるかもしれないとの事だ。

 魔物図鑑とか、そのようなものだろうか?

 人間は、知識を蓄える生き物でもあるから、魔物の特徴などを伝えるために、絵を付けて書き記す事もあるんだろう。

 もしかしたらそれを見たのかもしれないな。


「ともかく、セバスチャンには魔物の事を思い出してもらっておいて、まずはタクミ殿が聞いた話だな」

「はい。その……あの魔物は、ここにいるシルバーフェンリル……つまり、レオの気配のようなものを感じたので、様子を見に来たのだそうです」

「ふむ、シェリーの両親であるフェンリル達と似たようなものか」

「そのようです。特にあの魔物は空を飛ぶので、特に遠くの気配までがよくわかるんだそうです。ただ、レオやフェンリル達のように、細かい事まではわからず、おぼろげにどちらの方向にいる……といった感じのようですね」


 レオやフェンリル達は、森の中でも正確にオークの位置を察知して割り出していた。

 特にレオは薬草の効果で増幅されているとはいえ、どれだけ離れている場所かもわかっていたし、数も把握していた。

 しかし鳥型の魔物の方は、離れた場所にシルバーフェンリルと思える気配がする……といったくらいで、それが何体いるのかとか、詳しい距離まではわからないようだ。

 目や耳、鼻が良くてかなり細かい事まで察知するレオやフェンリル達とは違い、空から見下ろした時になんとなくわかるくらいらしいから、気配察知に優れているとまでは言えないのかもしれない。


「俺達がレオを連れて、開けた場所にいたから発見できたようですね。もし、森の中を移動していたら、見つけられなかっただろうとも言っていたようです」

「成る程な。フェンリル達のように、森に棲んでいたらあの魔物も見つける事はできなかったわけか」

「はい。そして、俺達……つまり人間とシルバーフェンリルが一緒にいる事を、凄く驚いたようですね」

「……まぁ、そこはあの魔物でなくともそうだろうな。シルバーフェンリルを知れば知る程、人間と一緒にいる事は信じられなくなってしまいそうだ。私も……恐らくここにいるタクミ殿以外が、全員レオ様やタクミ殿と接する事が無ければ信じられなかっただろう」


 魔物が空から見下ろして、開けた場所にいるレオだけでなく、俺やフェンリル達、それからエッケンハルトさん達など他の人間と一緒にいる事に驚いて、思わず空から落ちそうになった……とまで言っていたようだ。

 さすがに落ちそうになったとまでは言わなかったが、驚いたという事を伝えると、エッケンハルトさんはさもあらんと言うように頷き、他の皆も頷いていた。

 シルバーフェンリルの事は、色々聞かされてきたが、そういうものなのか……。

 俺からすると、マルチーズだった頃からあまり変わらない感覚なんだけどな……体が大きくなったり、意思疎通が簡単になっていたりはするけど。


 俺以外の皆が頷く中、リーザだけは不思議そうに首を傾げていたが、シルバーフェンリルの事をよく知らないというのと、優しくしてくれる大事なママだというのがあるからだろうな。

 あれだけ懐いているティルラちゃんも、エッケンハルトさん達に混じって頷いているくらいだし……。

 まぁ、それはともかく、今は魔物と話した事だったな。


「それで、レオと俺達が一緒にいる事を興味深く見ていたようなんです。空から」

「それでは、昨夜飛んでいたのも、やはりあの魔物か?」

「そのようですね。しばらく観察して、接触するかどうか悩んでいたようです。……結局レオが荒っぽく魔法を使って、接触せざるを得なくなったわけですが……」


 こちらから何もしなくとも、あの魔物は俺達に接触していた可能性はあったらしい。

 ただ、その場合はレオが警戒したり、フェンリル達が向かって行ったりする可能性もあるので、魔法を直撃させられ、墜落した魔物としては、どちらが良かったのかは微妙なところかもしれないが……。



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