第556話 鳥型の魔物はレオが黙らせました



「うーん……生きてる、のか?」

「ワフ」

「所々焦げているように見えるのは、レオ様の魔法か……」

「そうですな。しかし、大きいですなぁ」


 レオと一緒に、皆を連れて落下物……鳥型の魔物の傍へと寄って様子を見る。

 見上げて行った時の予想以上で、人間よりも大きいどころか、親フェンリル達よりも大きい。

 それでもレオよりはさすがに小さいが、翼を広げたら大きさで言うとこちらの魔物の方が大きいだろうな。

 地面に打ち付けられたまま、ぐったりとした姿の魔物は、鳥型らしく全身が羽毛で覆われていたが、所々プスプスと焦げて煙を小さく上げていた。


 レオの魔法が強力だったから、火の魔法ではなくとも焼けてしまったんだろう。

 焦げている部分の他にも、全体的に少し黒ずんでいるが……よく見てみると銅のように輝く羽毛も、ちらほらと見える。

 空を飛んでいた時は、逆光で色まではわからなかったが、赤黒くて艶やかな色をしているようだ。

 ……今は、レオの魔法の影響で黒さが目立つがな。


「ちょっと、やり過ぎたんじゃないのか、レオ?」

「ワフゥ……?」


 全く動かない魔物を前に、レオへと聞くが……あれぇ? とばかりに首を傾げるばかりだ。

 どうやらレオ的には、手加減をして死なないようにしたようだ。

 いや、魔法で直接的に死ななくとも、その後の落下が凄かったからな……。

 人間なら……いや、そこらの生物ならほとんど、あの高さからあの勢い、さらに横からの衝撃も加えられたら、無事で済む事なんてないだろう。


「ワフ……ガウ!」

「キィ……キッ!?」

「お、動いた。意識を失ってただけか……」

「一応、少し下がっておくか……」

「そうですな」


 レオがおっかしーなー……とでも言うように鳴いた後、魔物に向かって吠えた。

 多分、生きているかの確認のためなんだろうが、傍から見ると襲い掛かろうとしているようにしか見えない。

 ともあれ、そのレオの吠え声が届いたのか、ガバッと顔を上げた魔物。

 そのまま驚いているような、戸惑っているような雰囲気でキョロキョロと首を巡らせて、辺りを見回していた。


 動かなかったのは、これまで完全に意識を失っていただけなんだろう。

 レオの魔法を受けた挙句、あの高さから落ちてもキョロキョロするだけの動きができるなら、命に別状はないんだろう。

 念のため、ロエを作って使って見ようかと内心考えていたりもしたが、その必要はないかもな。

 エッケンハルトさんは、セバスチャンさんに声をかけ、皆と一緒にレオの後ろへと下がった。


 もしこの魔物が突然襲ってきたりしたら、危険だからな。

 ……レオやフェンリル達が、なんとかしてはくれるだろうけど。


「えーと……どうしたらいいんだ?」

「ワフ、ワフワフ」

「俺が話すのか? でも俺、この魔物がなんて言っているのかわからないぞ?」

「ワフ、ワフ」

「レオが通訳してくれるのか……わかった。一応、やってみる。――えーっと、とりあえず大丈夫……か?」

「キィ? キィィィィィ!」

「ガウ!」

「ギィィィィィ!」


 エッケンハルトさん達が下がるのを見送って、魔物のすぐ傍には俺とレオだけになる。

 そこで、レオに俺が魔物と話すように言われるけど、大丈夫なのかちょっと心配だ。

 そもそも、この魔物と普通に話せないだろうが、レオが通訳をしてくれるみたいなので、仕方なく了承した。

 ……それならレオがやってくれよと思わなくもないが……威嚇になってしまいそうだから、俺がいいのかもしれない。


 レオに頷き、同声をかけたものかと考えながら、無難に大丈夫かと聞いてみた。

 キョロキョロしていた魔物は、俺へと鋭い視線……鳥目を向けて不思議そうに声を上げた後、すぐにお前がやったのか! とでも言うように威勢のいい声を上げ、鋭いくちばしをこちらへと向けた。

 体は動かないようだから、くちばしを向けて声を上げ、こちらを威嚇するくらいしかできない様子。

 だがすぐに、横にいるレオが怒ったように吠えると、怯え始める魔物。


 おぉ、レオには敵わないとわかるんだな……やっぱり知性があるようだ。

 これなら話も通じるかな……通じるといいなぁ……。


「えっと、とりあえず落ち着いて……。先に攻撃したのは悪かったと思うけど……なんでずっと俺達の頭上を飛んでいたんだ?」

「キィー……キィキィ……」


 向こうの鳴き声が何を言っているのかはわからないが、俺の言っている事は何となくわかっているようで、魔物が何かを話すように声を出し始めた。

 それをレオに通訳してもらい、話を続ける。

 リーザが通訳してくれた方が手っ取り早いが、相手は鳥型の魔物だからな。

 獣型とは違って、何を言っているのかわからないだろうから、今はこのままだ。


 ちなみに、鳥の魔物は俺と話しながらも、羽根をバザバサとはばたかせ、レオの魔法によって焦げた……というより煤が付いていた羽毛の汚れを落としていた。

 黒ずんでいた部分も大分取れ、水で洗い流すよりは不十分だろうが、それでも十分に綺麗になっている。

 もしかすると、何か魔法とか魔力とかを使ったのかもしれない……少しだけ違和感があったしな。

 ある程度綺麗になった羽毛は、先程から端々に見えていたように、艶やかな銅色とでも言えばいいのか、全身赤黒かった。


 体の大きさは親フェンリル以上で、立ち上がった姿は縦長でレオよりも高い位置に顔があるため、ずっと見上げていると首が痛くなりそうだ。

 横幅はあまりないが、それも翼を広げていないからだろうな。

 あと、鳥目は鋭く、今にも獲物を狩るつもりの目にも見えるが、レオに怯えているためそんな気はなさそうだ。

 くちばしは先っぽの近くが曲がっており、確実に獲物へ食いついて離さない……といった形になっている。


 近い姿で言うと……鷹……じゃないな、鷲だな。

 鷹と鷲は、大きさで呼称が分かれるらしいが、この魔物の大きさを考えると鷲と呼んでもいいだろう。

 なんとなく、イヌワシに似ている気がするが……どちらにせよ、大きさはそれ以上だな。

 魔物というのは抜きにしても、猛禽類として鳥類の頂点に立っていそうな、迫力のある見た目だ。

 何度も言うが、レオに怯えているようで時折翼を震わせているし、魔法を受けた後遺症で少し痺れているのか、足が震えているから、脅威という感じはほとんどないんだがな――。



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