第558話 鳥型の魔物は友好関係を結びたいようでした



「しかし、シルバーフェンリルに怯えるくらいなのだから、襲い掛かろうとしていたわけではあるまい? 接触しようとは、何を考えていたのだろうか?」

「それなんですけどね……」

「タクミさん、先程凄く驚いていましたよね? それの事でしょうか?」


 魔物が俺達へと接触しようと悩んでいた理由の一つは、人間とのかかわりを持つべきかどうかという事。

 決心にまでは至っていないようだが、もしかするとこの先人間と接触していた方が、自分達の住処を脅かされずに済むのではないかという事らしい。

 そして、そのために従えていた魔物達を置いて、その場所を安全にするためにと考えていた事が、自身の従魔契約。

 つまり、自分が人間と従魔契約をして従う事で、住処に対して安全を求めようかという事だな。


 シルバーフェンリルの様子を見に来たのは、その住処までレオが来るのかどうかを確かめる様子見もあったらしいが、そこに人間が一緒にいたので、それは只者ではないだろうと考え、ついでに従魔契約を頼めないか……と思ったらしい。

 従魔契約の方は、レオを見つける前から考えていた事らしく、自分達の住処を脅かされないように、人間達が迂闊に足を踏み入れて来ないように、と考えていたようだ。

 まぁ、人間が足を踏み入れたら、従えている他の魔物が襲い掛かるかもしれないし、魔物を見た人間が脅威と感じて襲い掛かったり、人数を用意して討伐隊を組んだりするかもしれないから、お互い平和にと考えるのなら、従魔契約というのも一つの案なのかもな。

 最初俺を見た時に威嚇していた魔物とは思えない程、平和的な魔物だと思う。


 そして、クレアさんが思わず俺に問いかけてきた事なんだが……確かにここまでの話は多少驚きは有ったものの、争いを好まないという点で納得できた。

 問題はその後だ。

 魔物が従魔契約をする相手として、希望を出して来た事。

 その相手がよりにもよってなぁ……。


「えーと、レオが通訳したので、聞き間違いという可能性がない事もないのですが……」

「なんだ、少々歯切れが悪いな?」

「えーとですね、その……あの魔物が考えているのは……」


 とりあえず、まずはレオを挟んでの会話だった事を前置きして、魔物の目的というか、考えを皆に伝える。

 とりあえず、従魔契約をして住処の安全を……と言う事には、皆ある程度理解を示していた。

 人間と衝突を望まないという部分で、少々驚きもあったようだが、レオというシルバーフェンリルが味方に付いている時点で、敵対するのは得策ではないと考えたんだろう、と納得したようだ。

 先程、魔法を使った場面を見る限り、レオだけでその住処にいる魔物達を蹂躙できそうだからなぁ……特に理由もなしにそんな事はさせないけど。

 ともあれ、問題はその従魔契約の相手だ。


「その……あの魔物は、従魔契約の相手としてここにいる一人を指名して来たんです。空から見下ろして観察していた時に、なんとなく合いそうだ……との事で。それと、その人がどうあっても、自分が守る事もできるから……と」

「ふむ……レオ様には及ばなくとも、確かにあの風格を持つ魔物だ。そこらの人間が敵いそうにはないし、守る事はできるだろうな。シェリーよりは、護衛向きかもしれんな。……大きさから、ずっとくっ付いてという事はできないだろうが……」

「キャウ!? キャゥキャゥ!」

「よしよし……」

「キュゥ……」


 シェリーは、エッケンハルトさんの言葉に、抗議をするように声を上げて吠えているが、ライラさんに撫でられてすぐに落ち着いていた。

 気持ち良さそうに撫でられているのを見ると、フェンリルではなくただの犬にしか見えないが……それはともかく。


「まぁ、空を飛べますし、レオの魔法に直撃しても無事な程強いので、護衛としては十分なんでしょうね」

「それで、その相手とは?」

「えっと……」


 エッケンハルトさんから聞かれるが、集まっている皆も、興味深そうに俺へと視線を向けている。

 特にアンネさんは、もしかして自分が!? と何かを勘違いしているのか、あの魔物は何を食べるのかしら……? と呟いているが……違うんだけどな。

 俺は従魔契約の指名先が誰なのかと、皆から注目される中、視線を巡らせてその本人へと顔を向けた。


「……え、私ですか!?」

「うん、そうなんだ。ティルラちゃんと従魔契約をしたいって……」

「ほぉ、ティルラか……」

「その……大丈夫なのでしょうか?」

「従魔契約をしてしまえば、多分大丈夫だとは思います。シェリーのように、主人に危害を加えるような事はできないですから。そうですよね?」

「うむ。そうだな」

「私……えっと、本当ですか?」

「うん。レオが言うには、ティルラちゃんの従魔になりたいらしいんだ。まぁ、聞き間違いという事もあるかもしれないから、もう一度確認する必要もあるかもだけど……」

「聞き間違いじゃないよパパー! 確かにあの鳥さんは、ティルラお姉ちゃんの事を言ってた。えっと……赤い髪で背の低い女の子……だったかな?」


 従魔契約の相手とは、ティルラちゃんの事だ。

 空から見ている時に、ティルラちゃんはレオやフェンリル達の事を撫でたりして、楽しそうにしていたのを見ていたから……というのと、なんとなく合いそうだと思ったから……らしい。

 エッケンハルトさんは、感心するように呟きながら、今は剃ってないはずの髭を手でこする仕草。

 他の皆は驚いている様子だ。


 その中で、本当かどうか聞くティルラちゃんに、聞き間違いの可能性もあるから、もう一度確かめると伝えていると、リーザが話に入って来て聞き間違いじゃないと言った。

 多分、レオの声を聞いて、なんて言ってたのかわかっていたんだろうな。

 だが、それはそれとして、レオがそもそも聞き間違えた可能性もあるんだが……。


「あ、あぁ、確かにレオが通訳した内容はそうだったな。いや、レオが聞き間違えた可能性がな?」


 そう思ってリーザに言うと、首を横に振って否定する。

 うん? レオが言っていたのを聞いていたんじゃないのか?



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