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第547話 アンネさんの教育はエッケンハルトさんに任せました
第547話 アンネさんの教育はエッケンハルトさんに任せました
「勢いで言った事なので、繰り返されると恥ずかしいのですけど……俺が知っている範囲は狭いので、信用に足るかはわかりませんが、今も既に信頼されていると思いますよ?」
「タクミ殿の言葉なら、信用できるし、自信が持てるな。だろう、クレア?」
「そこで私に振らないで下さい、お父様。ですがそうですね、タクミさんだからこそ、少し他とは違った見方ができているのかもしれません。そのような方から、実践できていると言われると、嬉しいですね」
恥ずかしさから、少し俯き加減になりながらも、エッケンハルトさんへ領民から信頼されていると伝えた。
エッケンハルトさんから急に話を振られたクレアさんは、俺をじっと見つめて、嬉しそうに微笑んでくれた。
……自分が言った言葉よりも、笑顔のクレアさんに見つめられる方が恥ずかしい……いや、照れる。
それはともかく、俺が知っている範囲と言えば、屋敷以外ではラクトスとランジ村くらいのものだ。
もう少し広い世界を見てみたいと思わなくもないが、それにはまず薬草畑を成功させてからになるだろう。
俺が知っている範囲では、公爵家はちゃんと領民の皆から信頼されていると思う。
ディームのような例外はあるにしても、ハンネスさんとかは公爵家を信頼していなければ、わざわざ屋敷までお願いをしに来たりはしないだろうしな。
伯爵家がどうかはわからないが、高圧的で信頼されていない貴族の所に、村の村長が訪ねて行く事なんてないだろう。
無礼打ちというわけじゃないが、門前払いされてしまう可能性の方が高い。
その点クレアさんやエッケンハルトさんは、屋敷の客間に通したのは使用人さん達だが、その後にしっかり会って話をしている。
さらには、屋敷に泊める事や一緒に食事をする事もしていた。
特権階級だとふんぞり返っているような貴族であるならば、そんな事はしない……と思うのは俺の想像だが。
畏れ多いとは言っていたハンネスさんも、一緒に来たロザリーちゃんも楽しく過ごしていたから、公爵家の人達が領民から好かれているのは明白だろう。
「アンネリーゼにタクミ殿が言った言葉、本来なら私が言わなければいけない事だったんだが……以前もそうだが、何度もすまないな」
「いえ、正しいかどうかはわかりませんが……多分、俺が言った方がエッケンハルトさんが言うより、効果があったと思いますよ?」
「そうなのか? それは、タクミ殿がアンネリーゼに求婚されているからか?」
「そうではありませんよ、お父様。お父様が言うと、公爵家の当主の発言になってしまいます。タクミさんは貴族ではありませんので、同じ貴族家のものとしての発言にはなりません。ですので、タクミさんが言った方が、アンネには響くのだと思います。ですよね、タクミさん?」
「ははは、そうですね。クレアさんの言う通りです」
「随分仲が良いな、二人共。……良い事だ。だが、確かにそうか。私が言う事は、公爵としての言にもなる。同じ貴族家の者として、対抗意識があれば素直に受け止められなくともおかしくはないか……」
伯爵家が、公爵家に対抗意識を……というのがあるのかは知らないが、少なくとも隣接する貴族領として、公爵家の方は繁栄しているのに、伯爵家の方は……という考えはあるのかもしれない。
エッケンハルトさんは、公爵様なのだから、その発言は公爵家としての発言にも繋がるため、アンネさんには素直に受け止められない可能性があるからな。
その点、俺は貴族でもなんでもない一般人だし、レオやギフトの事も含めて、求婚する程の相手ともなれば、言葉を聞き入れやすくなるだろう……と思う。
そんな考えから、エッケンハルトさんに伝えたんだが、説明不足だったため、はっきり伝わらなかったようだ。
クレアさんが代わりに説明してくれて、笑いながら感謝をするように頷く。
まぁ、エッケンハルトさんからだと、確かに仲が良く見えるか。
レオも、なぜか良い事だと言うエッケンハルトさんの言葉のタイミングで頷いていた。
「ふむ……そうなると……アンネリーゼを本邸へ連れて帰るのは、少々不味いか? タクミ殿の言葉を受け入れやすいというのなら、このままこちらに……」
「それは駄目ですわお父様!」
エッケンハルトさんが、アンネさんを本邸へ連れて帰る事を止めるかと検討し始めるように、悩み始めると、クレアさんが大きく反応して拒否をした。
「どうしてだ? アンネリーゼは王家から任されたが、正しい方向に導く事ができるのなら、私なくとも構わんだろう」
「それはそうですけれど……いえ! 危険、ではなくて……お父様が王家の方々から任されたのですから、他の人間に任せるのは駄目でしょう」
「まぁ……そうかもしれんがな……」
「それに、アンネさんは多分ですが……これからはエッケンハルトさんの言葉も、受け入れてくれると思いますよ?」
クレアさんの拒否に、疑問を呈するエッケンハルトさん。
それに対し、押し付けられてはたまらない……というよりも、なぜか焦っている様子のクレアさんが、王家の方々という理由を付けた。
もとより、エッケンハルトさんに任された事なんだから、他人に任せるのは駄目だろう……。
考え直すというか、悩むように眉に皺を寄せるエッケンハルトさん。
さらに俺からも、クレアさんの援護というわけではないが、付け加えた。
エッケンハルトさんの案をそのまま受けると、俺にアンネさんの教育を任されてしまう事になる。
それは王家の方々が考えていた事と違うだろうし、俺に再教育のような事ができるとも思えない。
アンネさんの事は嫌いではないし、貴族として頑張ってほしいと考えているが、今の俺は薬草畑を成功させるので手一杯だしな。
面倒ごと……というと失礼だが、今以上に忙しくなりそうな事は、ちょっとなぁ……もう少し、俺に余裕があればとも思うが、レオやリーザとのんびり暮らそうと考えると、ここは断った方がいいだろう。
……少しずつ、頼まれたら断れないという性格が変わって来たのかもなぁ……と内心思ったが、多分エッケンハルトさんと親しくなって、クレアさんからの扱いを見たりしているせいで、気のいいおっちゃんとか、友人のようになってしまっているからなんだろうな。
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