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第548話 今度は親子間の話になりました
第548話 今度は親子間の話になりました
「タクミ殿にまで言われてしまってはな……しかし、どうして今後は私でも大丈夫だと思うんだ?」
「さっきの話で、アンネさんは公爵家の事を強く意識したはずです。今までとは違い、参考になる相手として感じているのではないかと。そうであるなら、対抗する事よりも、話を聞いて自分なりにどう生かすかを考えるんじゃないか……と」
「ふむ、成る程な」
アンネさんは頭の悪い人じゃないからな……多分。
縦ロールの先を蝶々結びとか、飛び込み土下座とかはまだしも、リーザを怖がらせないために考えたり、謝るべき相手にはきちんと謝っている……まだ全員とは言い難いが。
それでも、バースラー伯爵が行った事の提案をしたのもアンネさんだし、馬鹿ではないのは間違いない。
考える方向が間違っていただけだろう。
ちゃんと色々な事を考えられる人だろうから、さっきの話で、公爵家に対抗する事よりも参考にする事の方が大事と気付くんじゃないかと思う。
というか、俺が散々参考にしろと言っているような風に話したからな。
ディームのような、悪事にばかり頭が働く人間ではないはずだから、きっとそういう事にも気付ける人だと信じている。
じゃないと……なんとなくだが、蝶々結びにしたからってリーザが懐かないような気もする……というのも大きいか。
悪意に晒されていたリーザだから、そういう事には特に敏感だろう。
「であれば、アンネリーゼは確かに私の元に置いておいた方が良いのだろうな。……しかし、どう教育したものか……」
「クレアさんやティルラちゃんと同じように、でいいのではないですか? ティルラちゃんはまだ子供らしいところが多いですが、クレアさんは理想の女性像とも言えるように育っていると思いますよ?」
「タクミさんの理想……女性像……」
「……そのな? クレアの教育に関しては、本邸にいる使用人達にほとんど任せっきりだったのだ。妻がいる時はまだ良かったのだが、亡くなってからはな……父親としてしてやれることはしてやりたいが、何ができるのか正直わからん。……こんな事を、クレアがいる前で言う事でもないだろうがな。それに、クレアとティルラは、見合い話を嫌がって別荘……今の屋敷へと移ったからなぁ……」
アンネさんを俺に任せたりせず、本邸へと連れて行く事に納得したエッケンハルトさんだが、どう教育した物かと悩んでいる。
それならばと、クレアさんやティルラちゃんを見本に、今までと同じように教育したらいいのではと提案してみた。
ティルラちゃんは、レオやリーザと遊んでいる事が大きく影響しているのか、天真爛漫と言える部分もあるが、それでもちゃんとしている部分もある。
クレアさんに至っては、理想の女性像……淑女としてしっかり成長しているみたいだし、問題なさそうだ。
使用人達にも慕われているしな……なぜか、レオの向こう側で、クレアさんが俯いてしまったが。
一瞬だけ見えた顔は、赤くなっているように見えたけど、多分焚き火のせいだろう。
しかしエッケンハルトさんは、どうやら元々あまり教育には関わっていなかったらしい。
……言われてみれば、確かにそうとも感じる部分が多いな。
エッケンハルトさんを見習っていたら、破天荒で大雑把と言える部分を受け継いだり、面白い事を率先してやるような女性になってしまいかねない……と思うのは失礼だろうか。
その点クレアさんは、ノリや勢いで物事を決めるのではなく、熟考しているようにも見えるし……あ、いや……以前本質は違うというような事を話した事もあったっけ。
だとしたら、そういう部分は血筋なのかもしれないな……。
「……んんっ! お父様は、公務に忙しい事も多かったですから。それに、お母様が亡くなって、お父様が悩んだり苦しんだりしている事は知っていました。できるだけ、私も手間をかけさせないように、成長しないとと考えていましたよ? 使用人達には、お世話になったり助けられたことも多かったですけれど……」
「だとしたら、元々クレアさんにはそういう素質があったんでしょうね……」
公爵家の使用人として思いつくのは、セバスチャンさんやライラさんだ。
ゲルダさんもいるけど……ドジ要素もあるから、今は考えないでおく。
ともかく、セバスチャンさんやライラさんのような、しっかりとした使用人が多いのであれば、エッケンハルトさんが直接教育しなくとも、クレアさんが立派に育ったというのも納得できるな。
昨夜セバスチャンさんから聞いた話では、本邸の使用人達にもクレアさんは慕われていたようだし。
元々の素質と、しっかりとした使用人さん達からの教育、そして母親が亡くなった事での自覚や父親に対する思い……。
様々な事が合わさって、それが良い方向へと向かったから、クレアさんという女性になったのかもな。
「すまんな、迷惑をかけて。もう少しクレアやティルラ……娘達との時間を持とうとは考えていたのだが、どうしたらいいかわからなかったのは確かだ。もう少し、思う通りの事をしても良いとは思うが……立派に成長してくれて、私は嬉しく思うぞ……」
「お父様まで、タクミさんと同じ事を言うんですね……」
「そりゃ……なぁ……?」
「え? んー……そうですね……」
エッケンハルトさんも、色々と悩んでいたという事でもあるんだろうな。
詳しくは聞いていないが、クレアさんの母親が亡くなった事も重なって、不器用に接するくらいしかできなかったんだろう。
まぁ、クレアさん本人はきっかけを忘れていた、お見合いの事もあって、さらに距離を取ってしまったのかな。
結果論となってしまうが、そうやって複雑になてしまったからこそ、今のクレアさんという素晴らしい女性に成長したと考えれば、悪い事ばかりではなかったと言えるかもしれない。
……本人達は、色々と悩んでいたんだろうけども。
構ってやれなくて……という、この世界に来た当初俺がレオによく言っていた事と、似たような謝罪をクレアさんにするエッケンハルトさん。
その後に、今のクレアさんを見て自分の思いのような事も言っていた。
それに対し、クレアさんは悩むようなむくれるような表情になる。
エッケンハルトさんが同意を求めてきたので、思い当たる節がある俺は、頷いた――。
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