第525話 レオが張り切ってしまったようでした



 シェリーの方は、昨日とは違って今日は最初から魔法を使っての戦闘。

 昨日と同じく連続で氷の魔法を使い、オークをあっさり凍らせて終了。

 危なげのない勝利だが、格の違う魔物同士の戦いというのは、こういうものかもしれない。

 ただ、戦闘後にレオは魔法以外の戦い方を教えなければと、呟くように鳴いていたのが気になったが……。

 魔法だけでなく、フェンリルらしく爪や牙でオークを倒させたいらしい……大丈夫だろうか?


「さて、次はタクミ殿だが……いけるか? なんなら、今回は薬草を使っても構わないと思っているが……」

「多分、大丈夫だと思います。誰も助けがなさそうな状況なら、迷わず薬草を食べますが……今回は皆がいますからね」

「わかった。もし危険だと感じたら、すぐに助けを呼ぶといい。レオ様もいるし、私達もいるのだからな。なに、一体のオーク相手は問題なく倒せていたのだから、それでタクミ殿が駄目だという事にはならん。複数の相手というのは、一体を相手にする倍……いやそれ以上に厄介な時もあるからな」

「はい、わかりました」


 エッケンハルトさんがかけてくれた言葉に応え、頷いて気合を入れ直す。

 一応、オーク一体なら難なく倒せるようにはなっているようだが、それでも今回は二体。

 オークが連携を……というのは、ランジ村を襲ってきた時の様子を見てもあまりしそうにはないが、それでも一緒に襲って来るだけで脅威になりえるからな。

 例え一体だけだったとしても、油断をするつもりは全然ないが、今回はさらに気合を入れて待ち構える事にする。


「それではレオ様、頼みました」

「ワフ!」


 レオに頼み、オークの居場所を探ってもらい、フィリップさん達がおびき寄せるという、もはや慣れた流れ。

 今回は、運良くなのかなんなのか、ちょうどオークが二体いるのを発見したようだ。

 その近くにもまた、別の二体がいるようだが……フィリップさん達が二体だけを連れて来てくれることを願おう。



「……っ」

「……来たな」

「ワフ……」


 皆より少し前に出ていた俺は、森の方から聞こえてくる音や声に反応して剣を抜く。

 今回は、刀ではなく剣を使う事にした。

 二体が相手となると、どうしてもオークの攻撃を受け止める事があるかも……という予想からだ。

 刀は切れ味に優れている代わりに、受け止めるのには向いていないからな。

 一応、刀は剣の鞘と一緒に腰に下げているが、戦闘中に持ち替えるなんて事はできないだろう。


 俺が剣を持つと同時に、後ろにいるエッケンハルトさんからも声が聞こえる。

 同じように、森の方から聞こえる音に気付いたんだろう。

 レオは、小さく鳴くと俺の横まで来て森を睨んだ……どうしたんだ? と思ったが、その理由はすぐに判明した。


「タクミ様、申し訳ありません。オーク達が集結してしまいました!」


 森から一足先に出てきたフィリップさんが、俺に向かって叫びながら謝る。

 その後ろには、別の護衛さん達とそれを追いかけるオークの姿が……四体。

 数を減らせなかったか……。


「オーク同士の距離が近すぎました。こちらへおびき寄せる際に気付かれてしまい、四体に!」

「わかりました! 下がってください! ――レオ、頼む!」

「申し訳ありません、お願いします!」

「ママ、やっちゃえ!」

「ワフ! ウゥゥ……ガウ!」

「きゃっ!」


 フィリップさんが叫ぶのに答え、俺の横を通り過ぎてもらって後ろに下がってもらう。

 それと同時に、レオへ数を減らすようお願いした。

 レオは、オークが四体来ていた事を察知していたんだろう、だから俺の隣に並んでいたんだな。

 背中に乗っているリーザは、レオが戦うとわかって意気揚々と声援を上げている。

 俺の言葉に鳴き声を上げたレオは、少し唸るようにした後、一吠え。


 その瞬間、いつもはかろうじて目で追える程度だったはずのレオが、目にも止まらぬ速度で移動。

 クレアさんの短い悲鳴だけをその場に残し、気付けば森から出てきたオーク達の後ろに立っていた。

 ……えっと、速過ぎない?

 もしかしなくても、リーザやシェリーの戦いを見て触発されたんだろうな……シェリーはまだしも、リーザは目を疑うくらい速い動きだったし。


「ワフ」

「ギュッ!?」

「わぁ……」

「いつの間にこんな所まで……」


 レオがこちらへ体を反転させて鳴くと、横並びになっていたオークのうち右端にいるオークが驚いたように声を上げた。

 乗っているリーザやクレアさんも、何が起こったのかわからなかったようで、ただただ驚いている。

 そして、上半身と下半身に分かたれた二体のオークが、重い音を立てて地面に倒れた。

 爪で斬り裂いたんだろうが……どうやってやったのかすら見えなかったな。

 なんというか、速過ぎて斬られるという現象が後から来るという、アニメか何かで見た映像がそのまま再現されたらしい。

 ……あれって、再現可能だったのか!? すごいなレオ!


「ワフワフー」

「ギュギギギギ……」

「ギィ……」


 暢気な声を上げるレオに対し、残ったオーク二体は怯えている。

 そんな二体を尻目に、注目されている事を気にすらせずに、リーザを乗せたまま俺達の所へ悠々と歩いて戻ってきた。


「……あー、レオ……お疲れ様。ありがとう」

「ワフー!」

「ママってやっぱり、すごいんだねー! 私もあれくらいできるようになりたいなぁ……」

「落ちなくて済みましたが、乗っていても何がどうなったのか……」


 誇らし気にしながら顔を近付けて来たので、頬辺りを撫でて褒めてやる。

 リーザは、レオがやった事を理解して喜んでいるようだが、あれを真似しようというのはどうなんだろう。

 獣人ならできる動きなのか判断できないが、少なくとも今この場ではレオだからやれた事だと思う。 

 あと、あまりそっち方向に興味を持たないでくれリーザ……エッケンハルトさんがその気になってしまうから……。

 クレアさんは、乗っていても気付いたらレオが移動していたようで、何が起こったのか理解できずに、目を白黒させていた。


「……タクミ殿」

「はい、わかっています……」

「パパ頑張って!」

「ワウ!」

「もちろんだ」


 後ろからエッケンハルトさんから声がかかる。

 レオを撫でる手を止め、エッケンハルトさんに頷いてからそっと離れ、剣をしっかりと握ってオークへと構える。

 リーザとレオから、応援するように声をかけられ、そちらにも頷いておく。

 だが悲しいかな、構えてオークに敵意を向けても、怯えている二体の注目はレオに向いていた。

 うぅむ、このまま横からさっさと一体を倒して……というようにしてもいいんだが、それだと二体同時に相手をするという事にならないから、仕方ないな――。


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