第526話 オーク二体との戦闘を始めました



「ライトエレメンタル・シャイン!」

「「ギュオ!?」」


 剣を持っていない左手をオークに向けてかざし、光の魔法を使用する。

 明るい時間とはいえ、急に強烈な光を照らされて、レオに怯えていたオーク達がようやくこちらに気付いたようだ。

 その間にレオは、リーザを連れてさらに離れたようで、オーク達がようやくまともに俺を見るようになった。

 絶対に敵わないと本能で察してしまったレオが、遠くへ行ってよく見えなくなったためか、俺を見て興奮し始めるオーク達。


 猪突猛進とはよくいった物で、あまり知能が高くない事も相俟って、とりあえず目に見える標的を狙う事しか考えられないのだろう。

 先程まで怯えていた様子はすぐになくなり、完全に俺へと襲い掛かる気になっていた。

 注意を引くために魔法を使ったが、これでオーク達を驚かせるための切り札はなくなったか……。

 同じ事を連続でやっても、効果は薄いだろうしな……空もまだまだ明るいし。

 もしやるのなら、意表を突いてとなるが……二体相手の戦闘中にそれができるかどうかは怪しい。


「仕方ない。……行くぞっ!」


 一応、他にも使える魔法を以前教えてもらっているが、今回は小細工なしでオーク二体を相手にする事に決めた。

 小細工を弄して有利に戦うのは、皆が見守ってくれている今じゃなくてもいいしな。

 剣を中段に構え、少し離れた位置にいるオーク達へと駆ける。

 最低限、こちらから行かないと二体のオークが一緒に突進をしてきたら、避けづらいうえに危ないからな。


「ギュオ!?」

「ふっ!」


 まずは、近い位置にいたオークのうち、左側のオークを狙って駆け寄る。

 俺がかけて来た事に驚いた様子で、腕を振り上げる反応が遅い。

 そのチャンスに、一気に肉薄して剣を振り下ろす。


「ギュアァァ!」


 俺が振り下ろした剣は、オークの右腕を浅く斬り付けた。

 痛みによる悲鳴を上げたオークに対し、さらに力を削ぐためにしたから掬い上げるように剣を……。


「ギュゥ!」

「っ! あぶっ!」


 剣を持ち上げ始めた瞬間、もう片方のオークが横から割り込んできて、左腕を振り下ろした。

 思わず声を漏らしてしまいながらも、体を捻って俺に振り下ろされた腕に剣を合わせる。


「ギュゥ!」

「くっ……力だけはやっぱり強いな……!」


 咄嗟の事だったので、剣の腹でオークの腕を受け止める事になった。

 刃の方だったら、勢いもあって切り取る事ができたんだろうが、今は俺に当たらない事の方が重要だ。

 剣に受け止められたオークは、左腕に力を込めてそのまま俺を押し込もうとする。

 さすがというべきか、そこらの人間よりもかなり強い力を感じる。


 こちらは両手で剣を支えているのに対し、オークは片手なのにな……上からという利点があるにしても、力では敵いそうにない。

 これ、鍛錬をしていなかったらもっと簡単に押し切られてただろうな……。


「ギュア!」

「さすがにそう来るよなっ! っと!」

「ギュ?」


 俺が片方のオークからの攻撃を受け止めているという事は、もう片方のオークは自由になっている。

 先程腕を斬り付けたオークは、痛みへの怒りからか目を血走らせて両手を振り上げ、俺へと掴みかかってきた。

 さすがにそのまま捕まるのは危ないため、受け止めて力比べしていたオークから体を離し、剣を下げる。

 力を込めていたオークは、いきなり抵抗がなくなった事で簡単に腕を振り下ろす事ができたが、既に俺はそこにはいない。


 不思議そうに声を漏らしていたが、俺はそれに構っていられる余裕もなく、全力で地面を蹴ってその場から離脱する。

 至近距離で力に勝るオーク二体とやり合うのは、難しいからな。

 姿勢も低くしながら、なんとか掴もうとするオークの腕を掻い潜り、もう一体が振り下ろす腕も身を捩って避けながら、勢いのままさらに数歩下がって数メートルの距離を稼いだ。

 とりあえずは、なんとかなったな……。


 一体相手だと、最初に斬り付けてそのまま畳みかければ、ある程度なんとかなったんだが……さすがに二体相手の場合は、軽々とそんな隙を与えてはくれないようだ。

 ……少しずつでも、弱らせていくのがいいか……それとも、一撃で片方を無力化するのを優先するか……。


「……危険な賭けをする状況じゃないか。まずは弱らせて行こう」


 今は二体のオークを相手にどう戦うか、という実戦訓練のようなものだ。

 時間がないわけでもなし、じっくり戦った方が身に付きそうだ。

 それに、今の俺に一撃でオークを無力化できそうにもないしな。

 やるなら全力で、オークの首を斬り裂くくらいだが……剣で斬るには難しそうだ。


 刀ならとも思うが、それだとさっきの段階で、オークの腕を受け止められていたかどうかだしな。

 心臓や頭に剣を突き刺すのもいいかもしれないが、その場合は引き抜く隙にもう片方のオークからの一撃を避けられそうにない。

 やっぱり、少しずつ弱らせていくしかなさそうだ……。


「……ん?」

「ギュオォ!」

「ギュアァ!」

「うぉ! ふぅ……」


 ふと、少し前の事が頭に浮かび思い出された。

 その事を考えようとした瞬間に、オークが二体同時に俺へ向かって腕を振り下ろす。

 間一髪それを後ろに下がって避けられたが……戦闘中に長考なんてするもんじゃないな……。

 とは思いつつも、直前に思い浮かんだ記憶を探り、一つの考えを定めた。


「よし、やる事は決めたっ。あとは……」


 腕を振り上げて、一緒に俺へ向かって来ているオークを見据える。

 さすがに考えた事を実行するには、危険も伴う賭けのような部分もあるため、オーク同士の距離が近すぎると無理だな。


「ギュオォォ!」

「ギュオ!」

「くっ……おっとっ!」


 向かって右側のオークが振り降ろす腕を、剣で受け流しつつ、左側のオークの腕は身を捩って躱す。

 なんとか防げているが、このままだとこちらが危ないな……。

 一体だけならなんとかなるはずでも、二体同時だとここまで難しくなるのか……これはエッケンハルトさんの言う通り経験しておいて良かった。

 オーク達がうまく連携をしてくる、という事はなくともそれぞれが攻撃してくる分、どちらかの攻撃を避けても隙を突くのは難しい。

 これだと確かに、フィリップさん達が森の中でオークの数を減らす事に苦労した理由がよくわかった。



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