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第524話 再びオークと戦う準備をしました
第524話 再びオークと戦う準備をしました
「仕方ない。あまり頻繁には使いたくなかったんだが……」
「ガー……ゴー……グガッ!?」
時折、何かが詰まったように声を出すエッケンハルトさんのいびきを聞きながら、荷物を漁って薬草を取り出す。
もちろんそれは、安眠薬草。
熟睡して疲労を回復してくれ効果だけでなく、寝付きも良くしてくれるから、これを食べればいびきが鳴り響いていても大丈夫なはずだ。
あまり薬草に頼ってばかりというのは、良くないような気がするが、この際仕方ない。
明日はまたオークと戦うんだし、疲れを残してもいけないからな。
「ん……ゴクッ」
薬草を水と一緒に飲み込んで、シュラフへと再び潜り込む。
相変わらずのいびきも、段々と気にならなくなるように眠気が増してきた。
その眠気に身を任せ、静かに俺は夢の世界へと旅立った――。
――――――――――――――――――――
翌朝、まだ寝ているエッケンハルトさんを残してテントを出て、丁度同じようにクレアさん達のテントから出てきたリーザと合流し、レオも一緒に川へ朝の支度をするために向かう。
見張りをしていたため、睡眠時間は少なめだが、安眠薬草のおかげで目覚めはスッキリ、昨日までの疲れは感じない。
それはそうと、相変わらず俺が髭を剃っているのを楽しそうに見ているリーザだが、小さな女の子が成人男性の髭剃りを見るのが楽しいというのは、それでいいのか少々疑問に感じるな。
まぁ、リーザが楽しいのならなんでもいいけど。
「タクミさん、おはようございます」
「おはようございます、クレアさん。……アンネさんも」
「……おはようですわ」
俺が支度を終えて、川を離れる頃に、テントの中で支度をしていたらしいクレアさんとアンネさんが出て来る。
二人に挨拶をしながらアンネさんを見ると、あまり元気がないようで、どんよりした表情をしていた。
……テントではあまり寝られなかったんだろうか?
「アンネ、しっかり起きなさい。寝ているリーザちゃんが可愛いからって、遅くまで撫でているからよ?」
「だって、寝ていても耳や尻尾がピクピク動いて、可愛かったんですもの……」
「ははは、リーザが可愛くてすぐ寝られなかったんですね」
「リーザ、可愛いの?」
慣れないテントだから、よく寝られなかったんだと思ったが、違ったらしい。
リーザを遅くまで見ていたからか……それで起こしたりしない辺りは、アンネさんがちゃんとリーザの事を考えているのがわかる。
普段のリーザも可愛いが、寝ている時もまた可愛いという気持ちはよくわかる。
さすがに、アンネさんのようにそれで寝不足になる程ではないけども。
がっくりしているアンネさんに笑っていると、自分の事に関する話をされているリーザは、首を傾げてキョトンとした顔。
それでまた、アンネさんが手をワキワキして撫でたそうにしていたが、クレアさんに止められていた。
ちなみに、アンネさんを止める傍ら、クレアさんもチラチラとリーザの動く尻尾を見ていたのを、俺は見逃さない。
皆に可愛がられているようで、良かったなぁリーザ。
「さて、それでは昨日同じように……今日は、先にティルラからとしよう」
「はい、わかりました!」
朝食後、再び昨日と同じ配置になってオークとの戦闘体験。
既にリーザには、朝食の時に話をしていて納得してもらっている。
少しだけ、オークと戦えないことを残念そうにしていたのは、戦う事に喜びでも感じていたのだろうか?
「ティルラお姉ちゃん、頑張って!」
「ワフ!」
「はい! リーザちゃん、レオ様、頑張ります!」
レオの背中に乗って待機中のリーザが、レオと一緒にティルラちゃんへと声援を送る。
その後ろでは、クレアさんがそっと支えるようにしてくれているので、落ちる事もないだろう。
ティルラちゃんは、リーザにいい所を見せようという意気込みがあるせいか、若干ながら気負いを感じるが……それでも昨日の初めてオークと戦う直前のように緊張はしていない様子だし、大丈夫だろう。
反省会もして、昨日みたいな止めの刺し方は、もうしないだろうしな。
「ティルラの次は、シェリーだな。いけるか?」
「キャウ!」
「シェリーも頑張ってー!」
「ガウ!」
「キャーウ!」
今日は俺の番が最後に回されるようで、ティルラちゃんの次はシェリーとなった。
まぁ、昨日決めた事によると、俺は二体のオークと戦う事になりそうだからな……状況が変わる俺が後になるのも仕方ない。
シェリーも昨日のような失態は犯さない……という意気込みで、エッケンハルトさんに返事をするように鳴く。
ティルラちゃんの時と同じように、リーザとレオが声援を送り、力強くシェリーが鳴く。
それでも、まだ子供だからか、可愛い鳴き声だったが……。
レオはティルラちゃんの時と違って、厳しい吠え方だったが、それはそれでシェリーも気合が入ったようだ。
「それではレオ様、よろしくお願いします」
「ワフ。……クンクンクン……」
「ママー、頑張って!」
あらかじめレオに薬草を食べさせてある。
エッケンハルトさんから頼まれて、頷いたレオが鼻先を森へ向けて気配を探った。
気配を探るというより、臭いを嗅ぐといった風だが、まぁ、レオが一番やりやすい形が一番だろう。
背中からリーザがレオにも声援を送っているので、いつもより真剣な様子だ。
やっぱりレオも、リーザには格好いい所を見せたいのか。
確かに、無邪気に皆を応援するリーザには癒されるな。
……俺もオークと戦う時、応援されたら張り切ってしまうかもしれない……だからと言って、気負い過ぎないように気を付けないとな。
「ふむ、ティルラもシェリーも、二回目とはいえ多少は慣れてきたようだな。じっくり落ち着いてオークを観察で来ているのが、功を奏しているのかもしれんな……」
レオによるオークの捜索から、フィリップさん達が頑張っておびき寄せ、待ち受けていたティルラちゃんやシェリーがオークを倒す。
それぞれ、昨日の反省を生かして、危なげなくオークを倒せていた。
ティルラちゃんは、まだ成長しきっていない身長を生かして、足を重点的に狙い、仰向けに倒れたオークに対し、リーザの戦い方を見て参考にしたのか、肩に剣を突き刺して腕を動かなくさせ、完全に無力化した後胸を一突きして止めを差した。
多少慣れて来ているとはいえ、女の子がやるには中々容赦のない戦い方だが、これも今まで散々俺やエッケンハルトさんが魔物に対するやり方を説明したり、見せたりしていたからかもしれない。
堅実な戦い方だから、見ていたエッケンハルトさんもご満悦だった。
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