第499話 通訳をリーザに任せました
「尻尾はやっぱり、結構水を吸うんだな……」
「ちょっと重かった。ありがとう、パパ!」
フサフサの毛で覆われているため、川の水を吸っていたリーザの尻尾。
完全に乾くまでタオルで拭く事はできないが、元のフワフワに近い状態にまで水気を拭き取る事はできた。
お礼を言うリーザの頭を撫でながら、尻尾の水気を確認するが……これなら、焚き火の近くにいればすぐ乾くだろう。
まだ湿っているリーザの尻尾を触っていると、ブラッシングしたい衝動に駆られたが、とりあえず今はエッケンハルトさん達が待っているからそちらが優先だ。
後で、レオと一緒にしっかりブラッシングして、ツヤツヤフワフワの毛に戻そう。
……いや、また川に入って無駄になる可能性も大きいから、屋敷に戻ってからの方がいいかもしれないな。
「お待たせしました」
「ワフ」
体の大きいレオの毛を拭くのに、悪戦苦闘していたメイドさんを、リーザと一緒に手伝って済ませ、エッケンハルトさん達が待つ焚き火前に戻る。
いつの間にかシェリーは、ティルラちゃんの膝の上に移動していて、まったりあくびをしていた。
まぁ、レオが近づいて来た事がわかると、すぐに離れてティルラちゃんの右横でお座りの姿勢になったんだけどな。
シェリーなりの、正座というか正しい姿勢なのかもしれないな……尻尾もピンと伸びているし。
「ティルラお姉ちゃん、お話は終わった?」
「私の話は終わりましたよ。後は、シェリーだけですけど、リーザちゃんやレオ様を待っていたんです」
「そうなんだ!」
リーザはシェリーが離れたティルラちゃんにタタッと近付いて、足の上を確保。
俺やエッケンハルトさんと真剣な話があるからと、リーザは気にしていたんだろう。
足の上に座ったリーザを抱えるようにして、ティルラちゃんが笑顔で説明してやると、納得したように頷いた。
ティルラちゃんより、リーザの方が体が小さいとはいえ、年齢差もそこまで大きくないし、さすがにちょっと抱えづらそうだな……。
今はティルラちゃんも楽しそうだし、リーザも同じく笑顔だからいいが、もし辛そうなら俺が代わりに椅子になろう。
……リーザの椅子になりたいわけじゃないぞ?
「では、シェリーが求める通り、先程の戦いについて話そう」
「ワフワフ」
「キャゥ!」
改めて、焚き火の向こうで向き合うように座るエッケンハルトさんが、俺達を見渡しながら言った。
レオはシェリーの隣に同じくお座りをし、俺はティルラちゃんの左隣……同じ丸太に腰かけた。
俺、ティルラちゃんとリーザ、シェリー、レオ、という並び順だな。
シェリーの事と聞いたため、レオは俺の横ではなくあちらに座ったんだろう。
いつもながら、気の利くやつだなぁ。
「えぇと、まずは何から話すか……そうだな、まずはシェリーがオークへ最初に突っ込んだ時か?」
「キャウキャーウ! キャウゥ!」
「すまないリーザ、シェリーがなんと言っているのか教えてくれ」
「えっと、皆がオークに向かって行っていたから、真似をしてみた! って言ってるよ」
「ふむ……そうか……」
エッケンハルトさんが少しだけ悩むようにしながら、まずはオークに飛びかかった時の事をシェリーに聞く。
元気よく鳴き声を上げ、質問に答えるシェリー。
エッケンハルトさんがリーザに頼み、通訳してもらった。
シェリー、勝算があったとかではなく、俺やティルラちゃんがオークに向かって行っていたのを見て、真似をしただけだったのか……。
勢いや速度はそれなりにあったから、レオのように爪で斬り裂くか、噛み付くか……と考えていたんだが、そこまで考えていなかったんだな。
うーん……。
「そのな、シェリー。お前は武器を持っていないだろう? まぁ、噛み付けばある程度なんとかなるかもしれんが……それならば、もっと考えて飛びかからなければいけない……と思うぞ?」
「ワウ! ワウー! ガウー! ワーフガウガウ!」
「んーと、そうだ! 爪を使うにしろ、噛み付くにしろ、もっと近付いて飛びかかるなり、もっと高く飛ぶなり方法があったはず! だってー」
「キャゥゥ……」
「はいぃ……って言ってるよ」
オークに対して、遠い位置にいたにもかかわらず、最初から飛びかかったシェリー。
それがレオのようにオークが動けない程の速度なら大丈夫だったんだが、生憎とオークの目はしっかりシェリーを捉えていたし、腕を振るのも間に合っていた。
エッケンハルトさんの言う通り、もう少し考えて動いた方が良かったし、レオも言っているが、近くで飛びかかったり高く飛んで噛み付いたり……とした方が効果的だったと思う。
まぁ、ティルラちゃんと同じで、シェリーも初めてオークと戦うのだし、そういった戦闘勘みたいなものがなくて無策で突っ込んでしまうのも、仕方ないのかもしれないが……。
「動きに関しては、レオ様から後で色々教えてもらうといい。――ですよね、レオ様?」
「ワフ!」
「キャゥ……」
体の動かし方というのは、二足歩行と四足歩行で違うだろうから、エッケンハルトさんからの助言はなしだ。
代わりに、レオが後で教える事となった。
シェリーはそれを聞いて、裏庭を延々走らされた事を思い出したのか、少し気落ちした返事。
飛びかかる練習を反復でとか、噛み付きや爪で斬り裂く練習とかするのだろうか……? ちょっと見たい。
「それで……無事……ではなく、オークの腕が当たって跳ね飛ばされたわけだが……とりあえずこれから聞こう。シェリー、大丈夫なのか?」
「キュゥ?」
「いや、結構な勢いで腕に当たり、さらに飛ばされた先でも地面に叩きつけられていたからな……」
「キャゥ……キュゥ! キュゥ!」
「大丈夫って言ってるみたい」
「そうか……怪我がないのはいい事なんだが、あの勢いで叩きつけられて、何もないとは……」
エッケンハルトさんは、シェリーが飛ばされた後も怪我をしたり痛がる様子もない事が気になっていたようだ。
言われてみれば確かに、あれからすぐレオに放り投げられ、魔法を連続で使った事に驚いて忘れていたが、かなりの勢いで地面に叩きつけられたはずだ。
しかも、それだけの勢いが付く程、オークに殴られたという事でもあるから……人間なら、怪我をしていてもおかしくはない。
それどころか、骨に異常が出ていても不思議じゃないくらいだったのにな。
エッケンハルトさんが何を疑問に思っているのかわからず、首を傾げたシェリー。
説明を聞いて一度考え、元気をアピールするように鳴いてレオや俺達の周りを駆けた。
リーザが通訳してくれたが、これは見ただけで何を伝えたいのかはっきりとわかるな。
どこかに怪我をしたような形跡もなく、いつもと変わらず元気なシェリーだった――。
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