第498話 シェリーも反省会に参加したいようでした



 俺がティルラちゃんが緊張していた事を考えている間にも、微妙に不器用な父親風味でティルラちゃんを褒めたエッケンハルトさん。

 言葉の後にすぐ立ち上がり、焚き火を挟んで向かいにいた俺達の所へ歩み寄り、ティルラちゃんの頭を大きなてで包むようにしながら撫でた。


「……えへへ、父様に褒められました」

「良かったね、ティルラちゃん。――もう少し、器用に褒められなかったんですか?」

「……仕方ないだろう、娘たちの事は可愛いとはっきり言えるが……あまり褒め慣れておらんのだから」

「急に不器用な父親になられましても……」

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもないぞ。タクミ殿も、ティルラがよく頑張ったと褒めていただけだ」

「えへへ、そうですか? ありがとうございます!」

「あー、ははは。うん、ティルラちゃんは頑張ってたよ」


 反省点はあれど、やはり父親に褒められるのは嬉しいのか、にへら……と笑って喜んでいるティルラちゃん。

 そんなティルラちゃんに、俺も言葉をかけつつ、近くに来たエッケンハルトさんに小声で話す。

 まぁ、クレアさんもティルラちゃんも、本邸を離れて別荘である屋敷で暮らしているので、あまり一緒にいられる時間が多くないから、褒める機会も少なかったんだろうと思うけども……。

 俺とエッケンハルトさんがコソコソと話しているのを、不思議に思ったティルラちゃんが頭を撫でられながら首を傾げた。


 あまり娘には不器用な姿は見せたくないのか、俺が褒めた事にして誤魔化すエッケンハルトさん。

 一応、それに乗ってティルラちゃんを褒めておく事にした。


「さて、反省会はこれでお終いといったところだが……」 

「キャゥキャゥ!」

「やっぱり、シェリーもしたいのか?」

「キュウ!」


 ティルラちゃんから手を放し、場を締めようとしたエッケンハルトさんに対し、シェリーが吠えて自己主張。

 リーザもクレアさんもいないから、なんて言っているのかわからないが、きっと自分の反省会はないのかと抗議をしているんだろうと思う。

 エッケンハルトさんもそう感じたらしく、シェリーに聞いたら勢いよく頷いた。

 なんとなく、俺やティルラちゃんと並んで座っていた……お座りしていた時点で予想していたが、シェリーもさっきの戦いについて反省したい点があったんだろうか?


 レオから言われて、仕方なくオークと戦う事になったはずだが、それでもフェンリルの本能なのかなんなのか、以前より戦う事への意欲が増したようだ。

 数日前までなら、今頃は絶対にクレアさんのところか、レオの所で遊んでいたと思うんだけどなぁ。

 森に来た事や、オークと戦った事で、野生的な感覚を取り戻したのかもしれない……人間のエッケンハルトさんや俺達と反省会をする事が、野生と関係あるのかは疑問だが。


「ふぅむ……だが、さすがに魔物の戦いはな……武器を使ってというわけでもないしな」

「キャゥ?」


 難しい顔をして考え込むエッケンハルトさんに、シェリーはわからないの? と首を傾げているが、それも仕方のない事だと思う。

 エッケンハルトさんは凄腕だし、魔物との戦いにも慣れていると思うが、魔物の戦い方……フェンリルの戦い方なんてわかるわけがない。

 多少の知識と経験で、ある程度はわかるかもしれないが、それがシェリーのためになるかどうかわからないからな。

 楽しそうに遊んでいるのを邪魔するのは悪い気がするが、ここは詳しいはずのレオに聞くのが一番だろう。


「……レオを呼んで来ます。レオなら、わかるでしょうし、さっきの戦いでもアドバイスっぽい事をしていたみたいですからね。それに、リーザかクレアさんがいれば、シェリーの言葉もわかるでしょう」

「そうだな……タクミ殿、頼んだ」


 エッケンハルトさんに提案して、その場を離れて川へと近付く。

 川の真ん中くらいで、レオがパチャパチャと犬かきで水を跳ねながら、リーザが乗っている背中を水中に入れないように気を付けて泳いでいた。

 さすがに、時折水が跳ねてリーザにかかるのを完全に防げてはいないようだが、それもリーザにとっては楽しいらしく、明るい声がこちらまで聞こえてくる。

 楽しい時間を邪魔するのは気が引けるが、仕方ないか。


「おーい、レオ! ちょっと来てくれー!」

「ワフ? ワフ! ワウー!」

「パパだー! きゃっ! あはははは、ママすごーい!」


 俺が声を張り上げてレオを呼ぶと、こちらに顔を向けた後川の底に足を付けて立ち上がり、一瞬だけしゃがんだかと思ったら、こちらに向かってジャンプ!

 リーザは勢いよく飛んだレオの背中に乗ったまま、楽しそうな声を上げている。

 ちょっとしたアトラクション気分なのかもなぁ。


「ワフ?」

「楽しんでいるところ、すまないな。ちょっとシェリーの事で聞きたい事があったんだ。来てくれるか?」

「ワフ」

「私も行くー。シェリーとお話したい!」

「もちろんいいぞ。むしろ、リーザが来てくれると助かるからなぁ」


 俺のすぐ近くに、シュタッと綺麗な着地を決めたレオは、すぐに俺に向けて首を傾げた。

 楽しそうに泳いでいたところを邪魔した事を謝りつつ、一緒に来てくれるようお願いすると、すぐに頷いてくれた。

 リーザも一緒に来てくれるようなので、クレアさんを呼ばなくともシェリーの通訳ができるな。

 っと、その前に……。


「えーと……あ、いたいた。……すみません、タオルは……?」

「タクミ様、レオ様の体ですね。私がお拭き致しますので、タクミ様はリーザ様を」

「ありがとうございます」


 レオとリーザを連れて行く前に、まずは泳いで濡れた毛を拭いておかないといけない。

 焚き火の近くだからすぐに乾くかもしれないが、さすがにびしょ濡れのまま連れて行くのはな。

 近くにいたメイドさんに声をかけ、タオルはと聞くと、代わりにレオを拭いてくれるみたいなのでお願いした。

 その間に、俺は水飛沫で服や尻尾が濡れているリーザを拭く事にする。


「ワフ……」

「きゃふふ」


 体を拭いてもらう前に、少し離れて体を震わせて水気を飛ばすレオ。

 いつも通り、凄い勢いで水が跳ねてた。

 俺はメイドさんからタオルを受け取って、レオから降りたリーザを拭く。

 レオもリーザも、拭いてもらうのが気持ちいいのか、声を漏らしていた。



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