第500話 シェリーが怪我をしていない理由が判明しました



「ふむ……さすがはフェンリルと言ったところか。あれだけの衝撃で怪我一つしていないとは……」

「ワフ。ワフーワフワフワウー」

「えっとねー、フェンリルは魔力を身にまとって防御する事ができるって。だから怪我はしていないみたい」

「……それは……レオ様と一緒という事か……」

「ワフ。ワウワフーワフワフ。ワウワウガウワフ」

「そうだけど、さすがにシルバーフェンリル程じゃないってー。だから、トロルドにもやられかけてたんだってー」

「さすがに、オークは大丈夫でもトロルドの膂力には耐えられないか。まぁ、あちらは簡単に人間の体を破壊するからな……」


 そう言えば前に、剣などを当ててもレオの毛に含まれた魔力のおかげで、怪我をする事がないって聞いた気がするな。

 だから万が一の事もないだろうと、俺やティルラちゃんとの鍛錬の一つで、レオに剣を当てる事というのがあるんだし、エッケンハルトさんも割と本気っぽい模擬戦をしていたっけ。

 それと似たような事が、シェリーにもあるという事か。


 さすがにレオと違って、シェリーはトロルドから無傷ではいられないようだけどな。

 動くトロルドはランジ村に行く時に見たが、あのぶっとい腕と大きな棍棒から繰り出される一撃は、エッケンハルトさんの言うように、人間の体なら簡単に破壊される……という表現が正しく思える。

 シェリーを発見した時足が折れていた事からも、その一撃がどれだけ強烈だったのかが窺えるしな。

 それすらもレオにとっては、何も問題のない一撃となるのだから、シルバーフェンリルが最強と言われるのも頷ける。


「ほえー……レオ様もシェリーもすごいんですねー」

「キュウ、キャウ?」

「ティルラお姉ちゃん、ママ……じゃなかった、レオ様よりすごくないよ? ってシェリーが言ってるよ?」


 感心するように言葉を漏らしたティルラちゃんに顔を向け、シェリーが首を傾げて鳴く。

 リーザがそれを通訳してティルラちゃんに教えた。


「レオ様はシルバーフェンリルなので、凄いのは当然なのですけど、やっぱりフェンリルというのもすごいと思います! さっきのだって、私が受けたらもう立てなかったでしょうし……」

「そうだな。あまり見たくはないが、ティルラが受けたら立てなくなる程の攻撃だっだかもしれないな」

「ですです。なのでシェリーもすごいです!」

「キャゥ……キュウ!」

「ワフ……」

「キャゥゥ……」


 オークの一撃は、腕を振るだけの単純な物だったから、あれだけでティルラちゃんがやられてしまう……とまではならなかったかもしれない。

 だが、それでも怪我くらいはしただろうし、それこそ当たりどころが悪ければ首の骨が折れてた……なんて事にもなりかねないからな。

 初めての実戦で、痛みに慣れていないティルラちゃんだと、それだけで動けなくなる事だって考えられるし、弾き飛ばされて無傷どころか、レオに言われたからとしてもすぐにオークへまた向かっていったシェリーは確かにすごいと思う。

 発見した時の怪我が酷かったから、多少の痛みには慣れてた事もあるかもしれないし、そもそも痛みをあんまり感じなかったり、フェンリルそのものがそういう事に強い種族なのかも、という可能性もあるけども。


 ともあれ、素直に褒めるティルラちゃんに対し、エッケンハルトさんが頷く。

 ……父親として、ティルラちゃんが攻撃を受けたところを見たくないというのは、よくわかるな。

 さらに同意するように頷いたティルラちゃんに、一度キョトンとしたシェリーがすぐに誇らし気な表情になったが、すぐレオに調子に乗るなと言わんばかりに鳴かれて、意気消沈してしまった。

 レオは、ちょっとシェリーに厳し過ぎるんじゃないかな?


「まぁ、なにはともあれ、シェリーがフェンリルであった事が功を奏したか。レオ様が何度も言っていた、フェンリルがオークにやられる事はないというのは、その通りという事か」

「ワフワフ、ワーフワウワウ。ワフ」

「動けないフェンリルを、集団で痛めつけるならまだしも、単体なら問題ない……って言ってるよ!」

「……そのような状況になること自体が、ほとんどないな。実質、オークはフェンリルに勝つ事はできないと考えて良さそうだ。この事を知っていたから、レオ様はシェリーに戦わせたわけか」

「ワフ……ワフゥ……」

「えっと、まさか何も考えずに飛びかかるだけとは思わなかったけど……だってー」

「キュゥ……」


 集団で反撃しないフェンリルなら……という事だろうが、エッケンハルトさんの言う通り、そんな事は普通起こりえないような稀な状況だろうしな。

 レオの言う通り、オークではフェンリルに敵う事はないという事だ。

 ただ、レオとしては無策で飛びかかるだけというのが、微妙だったらしい。

 シェリーに対してジト目をしながら溜め息を吐くという、器用な事をしていた。


 まぁでも、シェリーはまだまだ子供で、親フェンリルに狩りを教えられるより前にはぐれてしまったんだろう。

 戦う意思はあっても、戦い方がわからなかったのかもしれない。

 ……フェンリルなら、本能でそれくらいはわかって欲しいとか、レオは考えてそうだが。

 レオの方も元々がマルチーズで平和な日本にいたから、戦う事を知らなったはずなのに、シルバーフェンリルになった途端、簡単にオークと戦ってたからというのもあるのかもしれない。


 あの時は驚いたなぁ……シルバーフェンリルになる事によって、種族的な本能か何かが関係しているのかもしれないけど。

 とりあえず、これからに期待してこれ以上シェリーを責めないよう、隣にお座りしているレオの体を撫でておくか。


「戦い方は、これからレオが教えるなり、自分で覚えて行けばいいさ。頑張ったシェリーを、そんなに責めるんじゃないぞ? それと、前半はまだしも後半は魔法を使って頑張っていたしな」

「ワフ……ワフ」


 レオを撫でながら、あまりシェリーに厳しくしないよう言い聞かせる。

 まだ魔法を習い始めたばかりで、戦闘で使うにしても意表を突くくらいしかできない俺にとって、シェリーの魔法は凄いものに見えた。

 連続使用に関して、エッケンハルトさんは驚いていた様子だったが、俺にとってはオークに対して確実に有効な魔法を使えるだけでもすごいからな。

 俺が撫でて言い聞かせた事で、レオは仕方ないな……とでも言うように鳴いて頷いた。


 これでシェリーに対する厳しさが緩和するかな?

 レオの近くでお座りしたまま項垂れていたシェリーは、ようやくホッとした様子だった。


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