第473話 森の入り口に到着しました
「……ありがとうございます、タクミさん」
「ん? どうしたんだい?」
「私が緊張し過ぎていたから、リーザちゃんを馬車に乗せて、レオ様に乗せてくれたんですよね?」
「んー、ティルラちゃんは、いつも裏庭でレオに乗ってるけど、外を走るレオに乗った事がなかったからね。だから乗せてみようと思っただけだよ?」
「ふふふ、そうですか。それでは、レオ様に乗せて頂いて、ありがとうございます」
「楽しいかい?」
「はい、とっても!」
走っているレオに、楽しそうにしていたティルラちゃんが、ふと声を落として俺にお礼を言った。
何故急にお礼をと思ったが、俺が考えた気づかいはバレていたようだ。
それでも、そのまま認める事は格好悪い気がして、ティルラちゃんには誤魔化して伝えた。
誤魔化そうとしている事すらもバレているのかどうなのか、笑い声を漏らして、ティルラちゃんから改めてのお礼。
楽しいかどうかを聞いてみると、満面の笑顔で頷いてくれた。
なんとなく、バレてしまっていて恥ずかしいが、気遣い自体は無駄になっていないようで良かった。
あと、笑い方とお礼の言い方が、クレアさんにそっくりだったな……さすが、姉妹だ。
……エッケンハルトさんには、あまり似てなくて良かったと思うのは、少し失礼かな?
しばらくして、森の入り口へと到着した俺達は、本格的に森へ入る前に昼食をと、すぐに焚き火用の枯れ枝拾いを始める。
馬や馬車は、執事さんとここに残る護衛さんに任せ、ついて来る護衛さんと俺達で枝を集める。
何故か楽しそうに枝拾いをしているエッケンハルトさんは、セバスチャンさんに注意されても止める事はなかった。
焚き火用の枝を集めた後は、火を付ける作業。
魔法を使って火を付けようとした執事さんを止め、レオに付けてもらう。
前回と同じく、レオがやりたがったからだが、普段は魔法を使う機会が少ないため、たまには使っておきたいかららしい……調合の時に風をおこしてるのだけでは足りなかったようだ。
まぁ、一種のストレス発散と考えて、レオに任せ、顔の前に出た火で焚き火を付けてもらう。
それを興味深く見ていたのは、エッケンハルトさんとアンネさん、それにティルラちゃんとシェリーだ。
早い話が、火の魔法を使うレオを初めて見るからなんだろうな。
エッケンハルトさんは、リーザに水を飲ませた時にレオの魔法を見ているはずだが、火の魔法はまた別との事だ。
好奇心の強い公爵様だなぁ……と思ったが、そういう所は、しっかりクレアさんに遺伝しているんだなと納得した。
「凄いです、レオ様!」
「ほぉ……レオ様、これはまだ威力を上げる事はできるのですか?」
「ワフワフ」
「大きいだけでなく、魔法まで使うなんて……とんでもないですわ……」
「ありがとうございます、レオ様。昼食を期待していて下さいね」
「ワフ!」
「キャゥ? キュゥ……?」
「ワウワウ!」
レオが火を付けると、ティルラちゃんが喜び、エッケンハルトさんが質問。
アンネさんが離れた場所で驚愕の表情で、さらにレオへの恐怖心を強くしているのとは別に、ライラさんが料理を始めながらお礼を言った。
シェリーは、レオが魔法を使った事に驚き、不思議そうに首を傾げていた。
それを見たレオは、お前もやろうと思えばできるはずだ! とでも言うように鳴き、シェリーを困らせていたりもする。
「皆、楽しそうですね」
「そうですね。クレアさんは、レオの魔法をもっとじっくり見なくて良かったんですか?」
焚き火の近くではしゃいでいる皆を眺めながら、クレアさんがポツリと漏らす。
前回森へ来た時は、セバスチャンさんも一緒に、興味深そうに見てたんだけどなぁ……それこそ、喜んでるティルラちゃんのように。
ちなみに、リーザは馬車を曳いてくれた馬にお礼をと言って、セバスチャンさんと一緒にいる。
セバスチャンさんの方は、馬を繋いだり、指示を出したりと忙しい様子だ……今回は人数が多いから仕方ない。
「レオ様が魔法を使うのは、前回も見ましたし……偉大さは十分には意見させて頂きましたから」
「偉大……レオが偉大ですかぁ……」
「タクミさんは、レオ様と仲が良いですし、こちらへ来る前から一緒だったので、そう思うかもしれませんが……本来なら、公爵家とその関係者全員がひれ伏しても、おかしくない程の魔物なのですよ?」
レオが偉大と言われても、あまりよくわからない。
いや、確かに大きくなってからのレオは凄く頼りになるし、俺がどれだけ頑張ってもかなわないと思う。
けど、リーザを心配したり、子供と楽しそうに遊んだり、ソーセージで一喜一憂するレオを見ていると、あまり偉大な存在というのを感じない。
……元がマルチーズだったせいもあるのかもしれないが。
「……そんなレオ様と対等に話している、というより、レオ様を従えてるようにも見えるタクミさんは、どれだけ偉大なんでしょう?」
「俺が偉大ですか? いやいや、そんな事は全然ないですから!」
ただのしがないサラリーマンだった俺が、公爵家がひれ伏す程の存在よりも上だなんて事、あるわけがない。
俺なんて、ラクトスの街にいる人達とそう大差ない人間だ。
レオがいてくれたり、ギフトがなければそれこそ、公爵家のお世話になる事もなかっただろうしな。
「なんなら、お父様やティルラを連れて、ひれ伏してみましょうか?」
「止めて下さいよ。そんな事をされたら、どうしていいかわかりません……」
悪戯をする子供のような目で、俺に聞くクレアさん。
そんな、お世話になっているクレアさん達公爵家の人達が、目の前でひれ伏したりなんてしたら……本当にどうしていいかわからなくなりそうだ。
誰かに傅かれる経験がないというのもあるだろうが、そんな事をされたり、偉ぶったりなんてしたくないからな。
実際、偉くもなんともないんだから、経験がなくて当たり前だが。
「うふふふ、そうですね。困るタクミさんを見るのも楽しそうですけれど、嫌われてしまったらいけませんものね」
「……俺がクレアさんを嫌うなんて事は、あり得ないと思いますけど……」
「そうですか? 本当に……?」
俺の反応を見て、楽しそうに笑うクレアさん。
クレアさんを嫌うなんて事、これから先あり得る事ではないように思うが、俺の言葉を信じていないのか、上体を斜めに倒したクレアさんが、俺の顔を下から覗き込むようにしながら、窺って来た。
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