第453話 昨日とは別の気持ち良い感触で目覚めました



 ……何やら気持ちの良い感触を感じ、目を覚ます。

 顔……だけではなく、上半身が柔らかい物に包まれてるような感触だ。


「ん……」

「ワフ?」


 昨日の事を考えると、リーザがまた尻尾を顔に乗せてるのかな? と考えながらその柔らかい感触へと手を持って行く。

 はっきりしてきた意識の隅で、レオの声が聞こえた気がするが、目を開けても視界は塞がれていて状況が把握できない。


「リーザ……また尻尾を乗せてるのか?」

「ワッフワッフ」

「ん、レオの声?」


 尻尾をどかしてもらおうと、リーザの名前を呼ぶが、返って来たのはレオの鳴き声だけ。

 リーザの声は聞こえないが……どうしたんだろう?

 そう思って、視界を塞いでいる柔らかい物へ手を触れると、リーザの尻尾とは違う感触……これって。


「……レオの尻尾、か?」

「ワフ!」


 そこでようやく、俺の上半身を包んでいた感触が離れ、視界が開ける。

 体を起こしつつ、部屋の中を見渡すと、俺にお尻を向けているレオが見えた。

 リーザはまだ寝ている様子だが、ベッドの端まで移動して落ちそうになってる。

 いつもと違う感触なだけでなく、俺の上半身を包んでたのはレオの尻尾がリーザよりも大きいからだろう。

 立派な尻尾は、子供くらいなら全身を包み込めそうだしな。


「リーザじゃなくレオだったのか……」

「ワフゥ……ワフ」


 こちらを振り返ったレオは、俺が起きた事を確認するとベッドの傍で伏せをして、顔をリーザに近付けた。

 そのまま、鼻先でリーザを俺のいる方へ押し返そうとしているが、上手く行っていない。


「リーザが落ちそうだったから、俺を起こしたのか?」

「ワフワフ」


 リーザの眠りを邪魔しないように、小さな声でレオに聞くと、鼻を離したレオが俺を見て頷く。

 ベッドから落ちそうなリーザに気付いたレオが、落ちてしまわないよう頑張ったが、上手く動かせなかったから、俺を尻尾で起こそうとしていたようだ。

 声を出したり、レオがベッドに乗っかかるとリーザを起こしてしまうだろうから、尻尾を使ったのか……ベッドの真ん中にいる俺に尻尾を乗せたから、途中にいたリーザも尻尾に埋もれてただろうに。

 体の大きなレオができる、苦肉の策だったのかもしれない。


「……そろそろ起きる時間だろうから、起こしてもいいと思うんだけどな?」

「ワフ?」

「タクミ様、レオ様、リーザちゃん、起きてますか?」

「ほらな?」


 窓の外を見て、日の高さでなんとなくの時間を把握。

 いつもなら、そろそろティルラちゃんが迎えに来る時間だと思い、レオに声をかける。

 首を傾げるレオとほぼ同時に、部屋の外から控えめに声をかけて来るティルラちゃん。

 昨夜はいつも通りの時間に寝たから、誰に止められる事もなく、朝食に誘いに来たんだろう。


「ワフ……」

「まぁ、リーザをゆっくり寝かせる事を考えて、時間にまで気が回ってなかったんだろう。ティルラちゃん、入っても大丈夫だよ」

「はい、失礼します」


 リーザを起こしても大丈夫だったと知って、少し気落ちしたレオ。

 まぁ、もしリーザが落ちても大丈夫なように、ベットの傍で待機したりと、気を使ってたんだから仕方ないか。

 レオの事をフォローしながら、ベッドから降りて部屋の外へ声をかけ、ティルラちゃんを招き入れる。


「おはようございます……リーザちゃんは、まだ寝てるのですね?」

「うん、おはよう。今日はいつもよりぐっすりだね。……ベッドからは落ちそうだけど」

「ワフワフ」

「……んぅ……?」


 部屋に入ってきたティルラちゃんと挨拶を交わしつつ、寝ているリーザの様子を窺う。

 その寝顔は幸せそうで、悪い夢を見ているようには見えないし、起こすのも躊躇われるな……。

 この寝顔を見たら、レオも起こさないようにしてたのも頷ける。

 そうしていると、リーザの耳がピクピクと動く。

 周囲の音や声が聞こえたのか、うっすらと目を開け始めた。


「おはようリーザ。ゆっくり寝られたかい?」

「……んぅ……パパ?」

「ワフ」

「おはようございます、リーザちゃん」


 まだはっきりと意識が覚醒していないのか、ぼんやりとした目をさせながら、体を起こしたリーザに声をかけてみる。

 周囲の状況を把握するためなのか、耳がせわしなく動いているのがかわいらしい。

 軽く目をこすって、こちらへ視線を向けたリーザが俺を認識。

 それと同時に、レオとティルラちゃんが声をかけて朝の挨拶。


「あー、パパ、ママ、おはよう! ティルラお姉ちゃんも!」

「おっと! ははは、朝から元気だなぁ」

「ワウ」

「起きたばかりなのに、凄い勢いです!」


 ようやく頭がはっきりしてきたのか、俺達の事を認識したリーザが、ベッドから俺に飛び付いて来る。

 寝起きでそれだけ動けるのは凄いと思いつつ、しっかりと受け止めた。

 ……体を鍛えてて、良かった……飛びついてきた娘を受け止めきれず、落とすなんて事がなくて……。

 笑いかけながらも、内心安堵している俺とは別に、レオが声をかけ、ティルラちゃんは少し驚いてるようだ。


 寝起きながらも、すぐに周囲の様子を把握して、勢いよく飛びついてきたりできるのは、リーザが獣人だからか……。

 いや、ただ元気なだけだろうな。

 ちゃんと挨拶ができて、偉いなリーザは。


「よっと。起きたようだから、リーザは顔を洗っておいで? ティルラちゃん、いいかな?」

「はーい!」

「はい、行ってきます! 部屋の外にロザリーちゃんもいるので、一緒に!」

「え、ロザリーちゃんも来てたの?」

「あ、えっと……おはようございます」

「おはよう、ロザリーちゃん」


 受け止めたリーザを床に降ろし、ティルラちゃんい頼んで朝の支度をするように言う。

 元気よく返事をしたリーザとティルラちゃんだが、どうやら一緒にロザリーちゃんも来ていたようだ。

 俺が名前を言うと、開いたままだった部屋の扉から、ロザリーちゃんが顔だけを出して挨拶してくれた。

 本当にいたんだ……。


 昨夜、俺の言葉で変に意識してしまったロザリーちゃんだが、リーザやライラさん達と風呂に入っているうちに冷静になったらしい。

 風呂上がりに、リーザと一緒に部屋へ戻って来て謝られたが、俺も言い方が悪かったと謝っておいた。

 その後すぐに寝るため、ハンネスさんの所へ戻って行ったんだが、その時の事を考えて、今も少し恥ずかしいんだろう、多分。



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