第454話 リーザとロザリーちゃんに手伝ってもらいました



「おはよー、ロザリーちゃん!」

「リーザちゃんも、おはようございます」

「じゃあ、タクミさん。リーザちゃんと行って来ます!」

「うん、お願いするよ」


 俺に続いて、元気よく挨拶するリーザにロザリーちゃんも応じる。

 女三人寄れば姦しいとは言うが、年齢が近い三人は楽しそうにはしゃいでいて、こちらも嬉しくなってくる。

 静かなのより、少しくらい騒がしい方がいいしな。

 キャイキャイ言いながら部屋を出て行くティルラちゃん達を見送って、俺も支度を始める。


「ワ~フ……」

「眠いのか、レオ?」

「ワフ、ワフ」

「はは、早く起きたんだな。少しだけ寝ておくか?」

「ワフ!」

「まぁ、無理はするなよー」


 俺が朝の支度を始めると、暇になったレオがあくび。

 後ろ足で耳の辺りをかいていて、まだ少し眠そうだ。

 髭を剃りながら声をかけると、リーザが落ちそうなのに気付いたから、少し早めに起きたらしい。

 それならもう少し寝た方がいいかもと思ったが、朝食を食べそびれるのが嫌らしく、起きてるとの事だ。


 食い意地が張ってる……とも思うが、食べる事は大事だからな。

 今日はハンネスさんを見送るくらいしか予定はないし……なんなら昼寝をしていてもらおう。

 シェリーの盗み食いの件や、ディームを捕まえるために深夜出かけたりと、少し睡眠不足なのかもしれないしな。

 日本にいる時は、俺が仕事中はよく寝てたみたいだし、こちらに来てからはほとんど俺の生活リズムに合わせて起きてるから、たまには昼寝をさせるのもいいだろう。

 明日は森へ行くから、その用意も必要だが、今日は無理せずのんびり過ごそうかと考えながら、朝の支度を済ませた。



「ふぅ、これくらいでいいかな」

「リーザ、ちゃんとできてた?」

「あぁ、偉いぞリーザ!」


 皆との朝食を終えて、お昼までの間に、『雑草栽培』で薬草を栽培したり、簡易薬草畑での収穫をする。

 森へ行くのも考えて、多めに作ったから今日はリーザにも手伝ってもらった。

 ハンネスさんとロザリーちゃんは、何もないはずの地面から、次々と薬草が生えてくるのを見て、目を白黒させてたなぁ。

 初めてギフトを見たら、その反応も当然かもしれないが。


「えへへ……ママ、ちゃんとできた!」 

「ワウワウ」


 リーザを褒めて頭を撫でると、嬉しそうにしながら、摘み取った薬草を手にレオへ自慢するように見せる。

 それを見たレオも、嬉しそうな声で答えた。

 ……うん、俺もレオも、お互いリーザには甘いなぁ。


 ちなみに、簡易薬草栽培の薬草を収穫したのは、これ以上数が増える見込みがなさそうだと感じたのと、周囲の草花に長く影響を与え続けるのは良くないと考えたからだ。

 それなりの日数が経っているから、最初に薬草を作った数の数倍にはなっていたが、その周囲への影響は顕著だったし、一番最近生えた薬草の成長は、『雑草栽培』の影響をほとんど受けていないくらい遅かったのもある。

 一応、まだ育ちきっていない薬草は残してあるが、それがちゃんと育つかは要観察だ。

 摘み取った後の土を見てみると、栄養を急速に吸い取ったためか、一部が土ではなく砂のようになっていた。


 極々狭い範囲だが、砂漠化のように完全に乾いてしまっており、それに近い場所に生えていた草は枯れている。

 これ、使い方を間違えたら危険な気がするな……。

 それはともかく、多分セバスチャンさんが言っていた土への異変というのはこの事なんだろう。

 オークに『雑草栽培』が使えた時の事も考えると、『雑草栽培』で生やした薬草は、しっかりその場の栄養を吸収しているのだろうと思う。


 今までは、一か所に集中して薬草を生やしたりせず、数を増やしたり、枯れてしまうのを待たずに摘み取っていたから、中々気付かなかったんだと思った。

 砂漠化は小さな範囲だから、そうなった場所に土を植え替えて、肥料をやれば大丈夫だろうが……あまり一か所に集中してしまうのは止めよう。

 薬草畑を作って、ランジ村の土地を枯れさせたらいけない。

 だからこその、セバスチャンさんが提案したように、畑の土地を大きく、管理する人を予定より多くしようという話だしな。



「結構、疲れるんですね。簡単そうに見えたんですけど……」

「そうだねぇ。やってる事は単純なんだけど、ずっと続けてるとね」

「ママー、もう少し強く風を吹かしてもいいの!」

「ワフ!」

「……相変わらず、リーザちゃんは疲れを見せませんね」


 薬草を作って収穫し、状態変化を使った後は、ミリナちゃんと一緒に薬酒へ混ぜる薬の調合だ。

 こちらも、リーザが手伝いたがったのを見て、ロザリーちゃんも一緒にやると言ってくれた。

 単純な作業なので、体験してみるのも悪くないと思い、ミリナちゃんに教えてもらうように言って、俺は風の魔法を担当。

 前回の事で多少コツを掴んだのか、今回は以前ほど魔法を維持していてもそこまで疲れていない。

 とは言っても、全く疲れてないわけじゃないけどな。


 一回目の調合を終えて、すりこぎ棒を持ったロザリーちゃんが、調合で疲れた腕をプラプラさせながら言う。

 乾燥するまで棒を使って混ぜるだけなのだが、ずっと続けなくてはならないので、やっぱり疲れが見える。

 それとは別に、リーザの方を見てるミリナちゃんの視線を追うと、そちらでは一切の疲れを見せなずに、レオに風の調節を頼んだりしているリーザがいた。

 シェリーと一緒に走り続けても、息切れくらいはするが疲れを見せないのだから、これくらいで疲れないのも当然か。

 小さい子って、無限の体力があるよなぁ……。


「まぁ、リーザは驚くくらい体力があるようだからね……」

「ほぉほぉ、これが、昨日頂いた薬酒という物に混ぜる薬ですか。私共の作ったワインに混ぜるとか?」

「そうです。これを混ぜて一緒に飲む事で、体を元気にしよう……という物ですね。味に癖は出ますが、このまま飲むよりは飲みやすいかと」


 一生懸命調合を手伝っていたロザリーちゃんを、微笑ましく見ていたハンネスさんが、完成した薬を見ながら呟く。

 薬は粉末で、色もあまり良いとは言えない物だ。

 このまま飲んでも効果はあるんだろうが、ワインに混ぜる事で飲みやすくした物だな。

 粉末の薬って、苦手な人は飲めなかったりするからなぁ……風邪薬とか。


 絶対ワインに混ぜないといけないわけじゃないとは思うが、ランジ村のワインを売り出す一つの商品とするので、今のところ混ぜるのはワイン限定だ。

 それに、病の素になってしまっていた物というイメージを払拭し、飲んだ人のためになる物をとも考えているからな――。



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