第452話 対オークの鍛錬をしました
「あと、力持ちという事だけど……そうだね、俺が以前戦った時の事だけどね。まぁ、俺が未熟だった事もあるんだろうけど、剣を折られちゃってねぇ……怪我もしたし……」
「そういえば、そう言っていましたね! 前にも聞きましたが、タクミさんを怪我させるなんて……オークは強いんですね」
「油断していい相手じゃないのは確かだね。友好的な魔物じゃないんだし、逃げる以外だと、やるかやられるか……だね」
「それにだなティルラ。魔物相手には、常に油断をしてはならんぞ。相手を強敵だと思い、全力で相手をせねばならん。多数を相手にしたり、体力を温存しなければならない場合もあるが……今回はそうではないしな」
向こうはこちらの命を狙って来ている。
オークが人間を襲うのは食料のためなのかなんなのか……理由はわからないが明確に敵意を向けて来るのだから、油断は禁物だ。
トロルドがシェリーを襲っていたように、魔物同士でも争う事は普通なのかもしれないが、非力な人間にとって油断していい相手じゃないのは間違いない。
エッケンハルトさんの言うように、体力を温存して常に全力というわけにはいかない時もあるだろう。
だが、俺やティルラちゃんくらいなら、まだそこまで考えない方がいい気がする。
油断大敵とも言うしな……温存する事を考えるのは、もっと強くなってから考える事だと思う。
「ワフ!」
「いや、そりゃレオがいれば危険はないんだろうけどな?」
離れてこちらを見ていたレオが、のっそりと近付き、一吠え。
オークなんて雑魚だから任せろと言ってるようだが、それじゃティルラちゃんのためにはならない。
というか、ティルラちゃんがオークと戦って、実戦経験を積む事と鍛錬の成果を見せる事が、エッケンハルトさんの目的なんだから、レオに任せっきりじゃ意味がない。
「ワフ? ワフワフ」
「なんなら、シェリーにも手伝わせるって、ママが言ってるよ?」
「シェリーは……レオの考えならダイエットのために戦わせたいんだろうけど、ティルラちゃんの邪魔はしちゃだめだからな? もし危なくなったら、助けるくらいでいいんだ」
「ワウゥ……」
「レオ様、ありがとうございます! 私がんばるので、見ていて下さい! きっとレオ様に助けられなくても、オークくらいやっつけてやります!」
「ガウ!」
レオの背中人乗っているリーザの通訳を聞き、それじゃ意味がないと言い聞かせる。
少しだけ自分が活躍できない事に、意気消沈しかけたレオだが、ティルラちゃんが意気込んだ事で、応援するように吠えた。
もしかしたら、レオはティルラちゃんにいいところを見せたかったのかもしれないな……。
まぁ、おかげでティルラちゃんにも気合が入ったから、良しとしよう。
……また、肩に余計な力が入ってしまった気もするけどな。
「あの時は、オークが……」
「こうですか?」
「駄目だティルラ。それではオークの力に弾かれるぞ? ティルラの体は小さいのだら、オークに力で勝とうとは考えるな!」
「ワフ! ワフ!」
「ティルラお姉ちゃん、頑張って!」
鍛錬のラストは、対オーク想定の特訓となった。
明後日には森へ行く予定だから、これはこれで良かったのかもしれない。
俺がオークがやって来た事を思い出しながら、向かって来る様子をティルラちゃんに想像させ、それに対する行動をエッケンハルトさんが注意する……といった感じだ。
森でオークと戦っても、ティルラちゃんが怪我をしたりしないといいなぁ。
もしもの時は、レオがすぐさま割って入りそうだが……ロエをいくらか作って持って行こう。
レオとリーザは、鍛錬を再開させると俺達から離れた場所へ移動し、ティルラちゃんを応援するように、声援を送り続けてた。
「ロザリーちゃん?」
「はい! お邪魔しています!」
鍛錬を終え、ティルラちゃんやエッケンハルトさんと別れて、リーザやレオを部屋に残して風呂へ。
汗を流して戻って部屋へ戻ると、ロザリーちゃんがリーザと一緒にレオと遊んでいた。
風呂上がりの俺が戻って来た事で、ちょっと緊張した様子のロザリーちゃんが、丁寧に挨拶。
夜中に男性のいる部屋……という事を思い出して、緊張してしまったのかもしれない。
ロザリーちゃんはティルラちゃんより年上で、ミリナちゃんより年下……ギリギリ中学生くらいに見えるから、そういった事への知識が付いてる頃か。
レオやリーザがいるとはいえ、夜中に男性の部屋にいるという事を、人一倍意識してしまう年頃でもあるのかもしれない。
「リーザの相手をしてくれてたんだ。ありがとう」
「いえそんな。むしろ私の相手をしてくれてたので、こちらがお礼を言いたいくらいで……」
俺がいない間、リーザやレオの相手をしてくれた事にお礼を言うと、こちらが申し訳なくなるくらい恐縮するロザリーちゃん。
んー、俺に対して、前からこんなに緊張する子だったっけ?
夜中に個人の部屋で、という事が関係してそうだが……多感なお年頃って事かな。
「あ、そうだ。ロザリーちゃんはお風呂には入った?」
「え? い、いえ! まだです、すみません!」
ランジ村からこの屋敷まで数日。
埃だなんだで多少は汚れてるだろうし、女の子なんだからお風呂にも入りたいだろう。
そう思って聞いてみたら、何故かさらに緊張して謝られてしまった。
「そこで謝る必要はないんだけど……リーザもまだだから、一緒に入って来たらどうだい? 外にライラさんが待機してくれてるから、頼んだら連れて行ってくれると思うよ?」
「あ、えっと……はい! わかりました! 失礼します!」
「あー、ロザリーちゃん!? パパ、ママ、行ってくるね!」
「ワフ」
「ゆっくりしてくるんだぞー」
俺が風呂から上がったら、交代でリーザに入ってもらおうと思っていたから、ロザリーちゃんも一緒にと勧めてみる。
部屋の外にライラさんとゲルダさんが、笑顔で待機してくれてるはずだから、頼めば一緒に連れて行ってくれるだろう。
……ライラさんとゲルダさん、最近リーザを風呂に入れてる時は、心おきなく尻尾や耳を触れるからと、楽しそうだしな。
俺の言葉に、ロザリーちゃんは何故か顔をリンゴのように真っ赤にして、リーザの手を取って、ワタワタしながら部屋を出て行った。
俺、何か変な事言ったかなと、レオと一緒にリーザへ声をかけながら考える。
あー、特にそんなつもりがなくとも、意識してしまう年頃の子に、風呂に入れというのは……うん、俺が悪いな。
まぁ、外でライラさんが話す声が聞こえるから、ちゃんと風呂まで連れて行ってくれるだろうし、風呂から上がるまでには、平常心に戻ってくれてる事を願おう。
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