第451話 オークとの戦い方を聞かれました



「では、鍛錬を見せて頂こうかと考えておりましたが……すぐに、取り掛からせてもらいます」

「すみません、ただでさえスラムの関係で忙しくさせているのに、さらに仕事を増やしてしまって」

「ほっほっほ、良いのですよ。それに、確実に領内が良くなる事がわかる仕事、というのは楽しいものです」

「うむ、そうだな」


 珍しく俺やエッケンハルトさん達について裏庭に来たのは、鍛錬を見るためだったらしいが、俺が提案した事で、セバスチャンさんはただでさえ忙しいのに、さらに仕事を増やしてしまった。

 その事を謝ると、笑顔で楽しそうに返されてしまった。

 エッケンハルトさんも、セバスチャンさんが言う事に笑って頷いてるけど、そういうものだろうか?


 俺は仕事をしている時、楽しいと思うことはあまりなく、義務感でやっていた。

 まぁ、感情に左右されている余裕のない仕事量だったから、というのもあるんだけどな。

 もちろん、達成感とか上手く行った喜びはあったが、次の仕事が待っていたのでそれを感じてる余裕もあまりなかった。

 会社で働くのと、領地を治めるのとでは全然違うだろうが、楽しそうに仕事をするエッケンハルトさんやセバスチャンさんを少しだけ、羨ましく思った。

 ……俺も、薬草畑を始めたら楽しいと思えるようになる……かな?


 俺が二人を羨ましく思っている間に、軽く話をしてセバスチャンさんは屋敷へと戻って行った。

 その後は、いつものようにエッケンハルトさんやティルラちゃんと一緒に、剣の鍛錬。

 ティルラちゃんも、森へ行く日が近付いているとあって、いつもより気合が入っている様子だった。

 気合が入り過ぎて剣が手をすっぽ抜け、俺のすぐ近くの地面に突き刺さった時は、冷や汗をかいたが……。


 当然、エッケンハルトさんに注意されて、すぐに反省と謝罪をされた。

 剣が飛んで来る瞬間、レオが守るように尻尾を盾代わりに俺の前へ持って来てくれていた……ありがとうな。

 ティルラちゃんは肩に力が入り過ぎていたようなので、レオを褒めるついでに、その尻尾をティルラちゃんに撫でてもらい、リラックスさせてみた。

 これで十分とまでは言わないが、ある程度は肩の力が抜けたようだ。

 ……まぁ、また鍛錬に戻って剣を握った瞬間、力が入ってたんだけど……そこらは、しっかりエッケンハルトさんに見てもらっておこう。



「タクミさん、少し聞きたいのですが、いいですか?」

「ん、どうしたんだい、ティルラちゃん?」


 鍛錬を続けていると、少し息を整えている時間にティルラちゃんから話しかけられた。

 俺にティルラちゃんが聞きたい事なんて、珍しいな。


「オークと戦うって、どうやるんですか?」

「オークと……かぁ……」

「ティルラ、私には聞かないのか?」


 率直なティルラちゃんからの質問。

 森に行ってオークを探し、戦って今の実力を測る事が計画されているわけだが……。


「ティルラちゃんは、オークを見た事はある?」

「何度かあります。いつも護衛をしてくれる人達が倒していました」

「ふむ、そうかぁ……」

「……私には……?」


 オークを見た事はないというわけではないようだ。

 まぁ、ありふれた魔物らしいし、フェンリルの森以外でも生息しているようだしな。

 実際ランジ村へ大量に押し寄せて来たわけだし……ティルラちゃんも屋敷にこもりっきりというわけでもない。

 オークを見る機会くらいはあったんだろう。

 それこそ、本邸からこの屋敷へ移動する途中に見かけた事だってあるだろうしな。


 だったら、オークを倒すところを遠目にでも見た事があるかもしれないし、誰か他の……護衛さんに聞く方が溜めになる気もする。

 まぁ、一緒に鍛錬してる仲だし、つい最近オークと戦った話をしたばかりだしな。

 聞きやすかったのかもしれない。

 ちなみに、娘に頼られなくて寂しそうな顔をしているエッケンハルトさんは、そろそろ指を咥えてしまいそうだ……。


 戦いに関する事なら、俺よりもエッケンハルトさんなんだが……個人的な強さに差があり過ぎて、参考にならなさそうに思ったのかもな。

 それ以前に、普段は護衛さん達を引き連れて行動するはずだから、最近はオークと戦ってないと考えたのかもしれない。


「見た事があるならわかると思うけど、オークは人間と同じくらいの大きさで、二足歩行だね」

「はい、そうですね」

「俺は戦った事があるだけで、生態には詳しくないけど……太っているように見えて、意外に素早いね。あと、力持ちかな」

「素早いんですか? 太ってるから、鈍そうですけど……」

「まぁ、見た目だけだとそうだね。細かい動きができるかどうかはわからないけど、少なくとも、突進の速度は速いよ」

「……うむうむ」


 森で見たオークや、ランジ村で戦った時の事を思い出しながら、ティルラちゃんに話す。

 二足歩行ではあるが、豚や猪と関係するのか、いつも真っ直ぐ突進してきていた。

 曲がったり、細かい動きは今のところ見た事はないが、直進する速度は速い。

 レオやエッケンハルトさんの動きを見慣れてしまっているから、そこまで脅威には感じないが……多分、俺の全力疾走よりは速いんじゃないかな?


 俺が説明している隣で、訳知り顔になったエッケンハルトさんがうんうん頷いて、間違っていない事を示してくれる。

 寂しがるのを止めて、なんとか話に入ろうとしてるようだ。

 

「だから、もし危なくなったとしても、背を向けて逃げる事はお勧めできないと思う。まぁ、森の中でオークが突進以外にも鋭い動きをするのでなければ、逃げる事はできると思うけどね」

「そうだな。オークは急に曲がる事はできない。常に真っ直ぐ突進し、方向を変える時はまず止まってからとなる。その分、速度と体重を伴った突進は、正面からぶつかれば軽々と弾き飛ばされる威力なんだがな」

「は~、そうなんですね……」


 俺とエッケンハルトさんの説明に、息を漏らして聞き入るティルラちゃん。

 それはともかく、エッケンハルトさんは俺の説明を補足する形で、ちゃっかり話に入ってきた。

 ……まぁ、オジサンが寂しそうにしているよりはいいか。

 それに、俺に不足している知識を補ってくれるから、むしろありがたい。



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