第449話 ロエを作る提案をしました
「ワッフ! ワッフ!」
「ママ、格好いい!」
「レオ様はすごいんですねー!」
「さすがレオ様です! 私も負けていられません! もっと剣の鍛錬を頑張ります!」
「キャゥゥ……」
森に行くのは安全だと、テーブルから離れた場所で胸を張るようにしてお座りしていたレオが、誇らし気な顔で吠える。
エッケンハルトさんやクレアさんは、その姿を微笑ましく見ていた。
リーザやロザリーちゃん、ティルラちゃんの子供組は、頼もしそうに称賛してた。
シェリーは、森へ行って戦う事に気が進まないのか、まだ落ち込んでる様子だったが……。
あと、アンネさんは少し怯えてた……離れてても、大きなレオが怖いんだなぁ。
そうして、和やかな夕食を終え、ティータイムをのんびりと過ごした――。
「あ、そうだ。エッケンハルトさん。セバスチャンさんも」
「ん、どうしたタクミ殿?」
「どうされましたか?」
夕食後のティータイムの後、寝る前の鍛錬のため、裏庭へ。
いざ始めようとする前に、なんとなく考えていた事があったので、エッケンハルトさんと珍しく付いて来ていたセバスチャンさんに声をかける。
その間、レオはティルラちゃんやリーザのお相手だ。
シェリーは、昼間の走り込みで疲れたらしく、眠たそうだったのでクレアさんが連れて行った。
その時レオが、軟弱なとでも言いたそうだったのが印象的だった……レオ、シェリーには厳しいな。
「少し考えていたんですが……ロエを量産するのはどうかなと」
「ロエを? しかし、量産すると市場が混乱するぞ? タクミ殿も、それを予想していたと、セバスチャンに聞いたが」
「はい。以前タクミ様も言われておりましたが、市場に高価なロエを多く出してしまうと、混乱を招きかねません。最悪の事を考えると……稼ぎの少なくなった者に、タクミ様が狙われかねません」
「あぁいえ、ロエを多く売り出そうというわけじゃないんです。ただ、あれだけ効果の高い薬草なので、多くあった方が便利だな……と」
「ふむ……多くあればある方が、助かる者が多いのは間違いないが……どういう考えだ?」
ロエは希少で高価な薬草。
店で買うには家一軒買うくらいのお金が必要、というのは以前に聞いた話。
オークとの戦いで、ロエを使って俺自身も治療したし、村の人達も治療した。
あの時の効果を見るに、確かにそれだけの価値はあるだろうとうのはよくわかる。
一瞬で、致命傷以外の怪我を治してしまうんだからな。
エッケンハルトさんやセバスチャンさんが言っているのは、そんな高価なロエを大量に市場へ出すと、価格破壊を招き、混乱するという事だろう。
ロエを採取して儲けていた人や、売って利益を得ていた人達からは、恨まれてしまう可能性があるのもわかる。
だが、俺が考えているのは売るのではなく、ロエを有効活用したいという事だ。
あれだけの効果がある薬草を、無制限とは言わなくとも大量に作れるのだから、利用しない手はないだろう……って事だ。
……一番の理由は、自分も含めて怪我をする可能性を身近に感じたからだがな。
「その……街を守る衛兵さんとか、屋敷を守る護衛の人とか……全員に行き渡るとまで言わなくとも、いざという時にロエを使えると、助かるのかなと思いまして。魔物や悪人を相手にして、怪我をする人もいるでしょうから」
「……成る程な。確かに、衛兵や護衛も含め、兵士というのに怪我はつきものだ。場合によっては、それが原因で兵士を続けられない者もいるし、最悪の場合は死ぬ事になる」
ランジ村でもそうだったが、やはり魔物や悪人を相手にすると、怪我をする危険性というのは当然ながらある。
日本とは違って、武器というのが売られている場所なのだから、人気相手だとしても油断はできない。
ニックを相手にした時は、持っていたのはナイフだったから、そこまで危険視していなかったが、ディームは違った。
ロングソードを両手で持ち、重さも利用して押し切られそうになってた。
あれが、衛兵さん達に向けられてたら、少なからず怪我人が出ていてもおかしくはなかっただろう。
俺の言葉に頷きながら、エッケンハルトさんは予想通り怪我をする事が少なくないと言う。
なら、やはりロエを使って治療できるという事も、考えるべきだと思う。
怪我が原因で兵士を引退する事を含めた、後遺症を持ってしまう事を減らせるはずだ。
致命傷は直せないのだから完全ではないにしても、怪我が元で病気になったりする人も減らせるだろうし、生存率は確実に上がるはずだからな。
「ですが……屋敷の護衛兵ですら、数十人います。ラクトスの街では百人規模……とてもではありませんが、まかないきれるとは……」
「いえ、さすがに俺も一人一つと考えているわけではありません。もしもの時に備えて、重傷者を治療するための備蓄を……と考えてもらえれば」
「ふむ……確かに、全員に行き渡らせる事はできずとも、それぞれの管轄でいくつかのロエを保管する事はできるか……」
いくら、ロエを作る事ができるとはいえ、全員に行き渡らせる事が難しいというのはわかる。
屋敷の護衛さん達や、ラクトスの衛兵さん達ですら数百……日数をかければ用意できるだろうが、必要とする兵士さんは他にも大勢いるからな。
他の街で衛兵をしている人だけでなく、それこそ公爵家が持つ軍というのもあるだろうし……とてもじゃないが用意できるとは思えない。
それこそ、薬草畑を始めとして、俺自身がロエ専門になってしまう事にもなる。
他の薬草も作りたいし、『雑草栽培』の研究もしたいからそれは避けたい。
高価な物だから、そちらの方が実入りはいいのかもしれないが、お金のためだけに働くのもな……。
「なので……数の方は相談する必要はあるでしょうけど、各場所で保管して、いざ大きな怪我をした人がいたら治療のために使う……というのはどうかな、と考えました」
「それでも、多くの数が必要ですが……まだ現実的ですな」
「うむ。軽傷の者に使うわけにはいかないが、重傷の者のために備えておけば、助かるな。高価である事は希少でもあるという事。大きな街ですら売っていない事も、多々あるからな。それに、それくらいなら費用も捻出できそうだ」
「左様ですな。……タクミ様が、公爵領内の兵士全てにロエを売る事を考えているのかと思いましたよ、ほっほっほ……」
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